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第三章
旅の途中⑤
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休憩する事数十分、次第にダレルの顔色が良くなり、呼吸の乱れも治まっていった。
「もう……大丈夫よ。行きましょうか」
可憐な笑みを浮かべた彼の様子にほっと胸をなでおろす中、私はそっと彼へ手を伸ばすと、支えるように立ち上がらせる。
そうして舗装されていない山道をゆっくり進んでいくと、また後方からダレルの荒い息が聞こてきた。
気になり振り返ってみると、ダレルの顔は先ほどよりも蒼白している。
「ちょっと、本当に大丈夫なの!?」
私は慌てて彼の元へ駆け寄ると、グェッと苦し気な声が蔦の先からもれた。
その声を気にすることなく、強く蔦を引っ張ると、また唸り声が耳に届く。
「ちょっと……おねぇさん……苦しい……」
「疲れたのなら言ってくれないとわからないわ!」
私はまたダレルを近くにある木の幹へもたれさせると、すぐに水の筒を取り出し彼へ差し出した。
喉を潤している間に、私は手に魔力を集めると、彼の背中へ触れる。
魔力の量を調整しながら彼の苦しみを取り除こうと試みてみると……突然彼が水の筒を落とし、苦しむように蹲り唸り始めた。
その様子に慌てて手を離すと、彼は瞼を閉じたまま、グッタリと地面へ体を預けている。
どうして……魔力を流すと苦しみ出すなんて。
あの時……呪符を確認した時は、何もなかったのに……。
顔面蒼白で激しい呼吸を繰り返す彼を心配気に眺めていると、妖魔が私のすぐそばまでやってきた。
「おぉっ……お前その首の呪符は何だ?かなり強力な呪いだな。そいつにかけられたのか?」
「うん……?どうしてそう思うの?」
「だってそいつ……、呪いをかけた痕跡が残っているからな」
呪いをかけたって……やっぱり……あの話……。
でも彼は魔法を使えない……。
なら魔女はダレルを使って自分自身に呪符をかけたのかしら?
でも一体どうしてそんな事を……?
「何の呪符魔法を使ったのかは、わからないの?」
「そこまでわかるわけねぇだろう。まぁ、こいつが死ねばわかるだろうけどな」
妖魔はニヤリと笑みを浮かべると、私へと距離を詰めてくる。
警戒するように私は蔦を持ち上げると、少年は私の首元を覗き込むように視線を向けた。
「ひゅ~、この呪符はすげぇな。こんな強力な呪符見た事ねぇや~。あんたは、いつ呪われたんだ?」
「私は……ここではない世界、異世界から来たの。この世界に来た時には、もうすでにこの呪符がかかっていたわ。だからこの呪符が、何時つけられたのかはわからない」
ジロジロと眺められる視線に思わず首元を隠すと、少年はニヤリと口角を上げた。
「へぇ~、異世界からねぇ。それでなんであんたみたいな異世界人が、魔女なんかに会いに行くんだ?人間は魔女を嫌いだろう~」
ニタニタと企むように笑みを浮かべる少年を一瞥すると、私はスッと目を細める。
「それはあなたに関係ないわ。それよりも、あとどれぐらいで到着するのかしら?」
「チッ……何だよ、つれないな~。はぁ……、今がようやく半分ってところだ」
半分……!?
空を見上げると、太陽が幾分傾いている。
暗くなるまでにつくのかしら……。
そんな心配をしていると、ダレルがようやく体を起こした。
「ごめんなさい……もう大丈夫よ……行きましょう」
力なく立ち上がるダレルの体にそっと手を添えると、体が異様に冷えていた。
なにこれ……どうなっているの……。
あまりにも低い体温に私はすぐにローブを脱ぐと、小さく震える肩へかけた。
彼はありがとう、と弱弱しく笑みを浮かべると、覚束ない足取りで歩き始める。
その姿に私はすぐに魔法を展開させると、彼をサポートするようにしっかりと風で包み込んでいった。
その後も何度も休憩を繰り返し、次第に日が暮れ辺りが薄暗くなっていく。
予定していたよりも遅い到着に気が焦ってしまう中、ダレルの体調は迷宮の屋敷へ近づけば近づくほど悪化していった。
もう一度休憩を取りたいところだけれど……時間がないわ……。
チラッとダレルへ視線を向けると、彼は虚ろな瞳を浮かべながらも賢明に立っていた。
「ダレルさん……もう少しだから頑張って」
そう彼に声をかけてみると、彼は弱弱しい笑みを浮かべならがも、顔を上げ深く頷いた。
そうして深い森の中を抜けた先に、ようやく迷宮の屋敷が現れた。
私が以前来た時とは違い、屋敷は綺麗に整備され、壁に蔦一つない。
「よしっ!これで俺の仕事は終わりだな!!さっさとこの蔦を外せ!」
ギャーギャーと騒ぎ始める妖魔の言葉を馬耳東風に、私は今にも倒れそうなダレルを近くにあった木の傍に座らせる。
「疲れたでしょう……、ここで待っていてくれる?私が魔女を呼んでくるわ」
私の囁きにダレルは激しく肩を揺らしながらもしっかり頷くと、彼からゆっくりと体を離す。
そのまま無視された事に怒っているのか……不貞腐れた妖魔の元へ向かうと、少年はプイっと顔を背けた。
「ふふっ、ここまで案内してくれてありがとう。でも解放する前に一つお願いがあるのよ。ほら、あれ……お願いできる?」
私は洋館の扉を指さすと、妖魔を連れて歩いて行く。
「はぁ~!……なんで俺がここまで……っっ」
嫌がる素振りを見せる妖魔の前に、そっと鳥をシルエットを浮かべて見せると、ヒィッと大きく飛び退いた。
「わかった、わかったって!やるよ!!!」
少年は扉の前に立つと、ブツブツと扉へ何か呟き、魔力を扉の前に集めていく。
すると扉が眩く光を放ち、ガチャリとひとりでに開いた。
「ありがとう」
ニッコリ笑みを浮かべながら、少年の頭を優しく撫でると、彼は顔を真っ赤に頭を垂れた。
照れているのだろう様子が可愛く、クスクス笑いながら宥めると、私はそっと捕縛魔法を解除していく。
彼の周りから蔦が消え、妖魔は自由になるやいなや、一目散に逃げだしていった。
そのまま小さくなる彼の背中を眺めると、私はそっと扉の中へと入って行った。
「もう……大丈夫よ。行きましょうか」
可憐な笑みを浮かべた彼の様子にほっと胸をなでおろす中、私はそっと彼へ手を伸ばすと、支えるように立ち上がらせる。
そうして舗装されていない山道をゆっくり進んでいくと、また後方からダレルの荒い息が聞こてきた。
気になり振り返ってみると、ダレルの顔は先ほどよりも蒼白している。
「ちょっと、本当に大丈夫なの!?」
私は慌てて彼の元へ駆け寄ると、グェッと苦し気な声が蔦の先からもれた。
その声を気にすることなく、強く蔦を引っ張ると、また唸り声が耳に届く。
「ちょっと……おねぇさん……苦しい……」
「疲れたのなら言ってくれないとわからないわ!」
私はまたダレルを近くにある木の幹へもたれさせると、すぐに水の筒を取り出し彼へ差し出した。
喉を潤している間に、私は手に魔力を集めると、彼の背中へ触れる。
魔力の量を調整しながら彼の苦しみを取り除こうと試みてみると……突然彼が水の筒を落とし、苦しむように蹲り唸り始めた。
その様子に慌てて手を離すと、彼は瞼を閉じたまま、グッタリと地面へ体を預けている。
どうして……魔力を流すと苦しみ出すなんて。
あの時……呪符を確認した時は、何もなかったのに……。
顔面蒼白で激しい呼吸を繰り返す彼を心配気に眺めていると、妖魔が私のすぐそばまでやってきた。
「おぉっ……お前その首の呪符は何だ?かなり強力な呪いだな。そいつにかけられたのか?」
「うん……?どうしてそう思うの?」
「だってそいつ……、呪いをかけた痕跡が残っているからな」
呪いをかけたって……やっぱり……あの話……。
でも彼は魔法を使えない……。
なら魔女はダレルを使って自分自身に呪符をかけたのかしら?
でも一体どうしてそんな事を……?
「何の呪符魔法を使ったのかは、わからないの?」
「そこまでわかるわけねぇだろう。まぁ、こいつが死ねばわかるだろうけどな」
妖魔はニヤリと笑みを浮かべると、私へと距離を詰めてくる。
警戒するように私は蔦を持ち上げると、少年は私の首元を覗き込むように視線を向けた。
「ひゅ~、この呪符はすげぇな。こんな強力な呪符見た事ねぇや~。あんたは、いつ呪われたんだ?」
「私は……ここではない世界、異世界から来たの。この世界に来た時には、もうすでにこの呪符がかかっていたわ。だからこの呪符が、何時つけられたのかはわからない」
ジロジロと眺められる視線に思わず首元を隠すと、少年はニヤリと口角を上げた。
「へぇ~、異世界からねぇ。それでなんであんたみたいな異世界人が、魔女なんかに会いに行くんだ?人間は魔女を嫌いだろう~」
ニタニタと企むように笑みを浮かべる少年を一瞥すると、私はスッと目を細める。
「それはあなたに関係ないわ。それよりも、あとどれぐらいで到着するのかしら?」
「チッ……何だよ、つれないな~。はぁ……、今がようやく半分ってところだ」
半分……!?
空を見上げると、太陽が幾分傾いている。
暗くなるまでにつくのかしら……。
そんな心配をしていると、ダレルがようやく体を起こした。
「ごめんなさい……もう大丈夫よ……行きましょう」
力なく立ち上がるダレルの体にそっと手を添えると、体が異様に冷えていた。
なにこれ……どうなっているの……。
あまりにも低い体温に私はすぐにローブを脱ぐと、小さく震える肩へかけた。
彼はありがとう、と弱弱しく笑みを浮かべると、覚束ない足取りで歩き始める。
その姿に私はすぐに魔法を展開させると、彼をサポートするようにしっかりと風で包み込んでいった。
その後も何度も休憩を繰り返し、次第に日が暮れ辺りが薄暗くなっていく。
予定していたよりも遅い到着に気が焦ってしまう中、ダレルの体調は迷宮の屋敷へ近づけば近づくほど悪化していった。
もう一度休憩を取りたいところだけれど……時間がないわ……。
チラッとダレルへ視線を向けると、彼は虚ろな瞳を浮かべながらも賢明に立っていた。
「ダレルさん……もう少しだから頑張って」
そう彼に声をかけてみると、彼は弱弱しい笑みを浮かべならがも、顔を上げ深く頷いた。
そうして深い森の中を抜けた先に、ようやく迷宮の屋敷が現れた。
私が以前来た時とは違い、屋敷は綺麗に整備され、壁に蔦一つない。
「よしっ!これで俺の仕事は終わりだな!!さっさとこの蔦を外せ!」
ギャーギャーと騒ぎ始める妖魔の言葉を馬耳東風に、私は今にも倒れそうなダレルを近くにあった木の傍に座らせる。
「疲れたでしょう……、ここで待っていてくれる?私が魔女を呼んでくるわ」
私の囁きにダレルは激しく肩を揺らしながらもしっかり頷くと、彼からゆっくりと体を離す。
そのまま無視された事に怒っているのか……不貞腐れた妖魔の元へ向かうと、少年はプイっと顔を背けた。
「ふふっ、ここまで案内してくれてありがとう。でも解放する前に一つお願いがあるのよ。ほら、あれ……お願いできる?」
私は洋館の扉を指さすと、妖魔を連れて歩いて行く。
「はぁ~!……なんで俺がここまで……っっ」
嫌がる素振りを見せる妖魔の前に、そっと鳥をシルエットを浮かべて見せると、ヒィッと大きく飛び退いた。
「わかった、わかったって!やるよ!!!」
少年は扉の前に立つと、ブツブツと扉へ何か呟き、魔力を扉の前に集めていく。
すると扉が眩く光を放ち、ガチャリとひとりでに開いた。
「ありがとう」
ニッコリ笑みを浮かべながら、少年の頭を優しく撫でると、彼は顔を真っ赤に頭を垂れた。
照れているのだろう様子が可愛く、クスクス笑いながら宥めると、私はそっと捕縛魔法を解除していく。
彼の周りから蔦が消え、妖魔は自由になるやいなや、一目散に逃げだしていった。
そのまま小さくなる彼の背中を眺めると、私はそっと扉の中へと入って行った。
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