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第三章
旅の途中⑨
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手足が冷たくなっていくのを感じる中、真っ黒な血潮が目の間に飛び散った。
その光景に顔を上げた瞬間……魔女の腕から黒い霧上の物が浮かびあがっていくと、蒸発するように消えていく。
そんな魔女の手の中には白目をむいたブラックピクシーが、体中から液を流しながら、ピクピク痙攣していた。
「あぁ~、もうちょっと苦しめたかったんだけどね……。ふふっ、殺しちゃった」
殺した……?
嘘……じゃ…ダレルは……。
クスクスと笑いを浮かべる魔女を横目に、私は慌ててダレルの元へと駆け寄っていく。
そのままグッタリと横たわっていたダレルを抱きしめると、彼は薄っすら瞳を開け、小さく口を開いた。
「はぁ……、はぁ、……っっ。騙してごめんなさい。でもこれでよかったの……、魔導師様……本当にありがとう……」
「ダメよ!!!ダレル待って、嘘でしょう!!ちょっと!!!いやぁ!!!」
彼の呼吸が小さくなっていく様に心が追い付かない中、視界が涙で滲んでいくと、必死に叫んでいた。
「目をあけて!!!」
手に魔力を集中させると、ありったけの魔力をダレルの体に流し込んでいく。
そんな……死ぬなんて……させないわ……!!!
心で絶叫しながらも必死で治癒魔法を試みてみるが……ダレルの体温は戻らない。
それでも魔力を流し続けていると、次第にだるさを感じ始める。
魔力切れが近いとわかったが、私は魔力を遮断することはしなかった。
「やめて!!生きてよ……お願い……」
そう願いを込めて呟くと、彼の瞳がピクリッと小さく動いた。
その姿に慌てて彼の体を持ち上げると、ギュッと強く抱きしめる。
「……っっ、魔導師様……。はぁ、はぁ……ねぇ……許されるのならば……あなたに、私を覚えていて欲しいの……」
掠れる声にポタポタと涙が溢れ出ると、私は震える唇を必死に開けた。
「私はあなたの事を忘れないわ……でも死んではダメよ!」
溢れ出る涙を止めることもできず、私は声を殺しながら、泣いていると、彼の腕が私の髪へとかかる。
体温を感じられない冷たい彼の指先が私の頬へ触れかと思うと……力尽きるように地面へ落ちていった。
その様子に絶句する中、私は慌てて彼の呼吸を確認する。
するともう彼は息をしていなかった。
心臓も動いていない。
脈も確認できない。
彼は死んでしまったのだ。
嘘……嘘よ……どうしてこんな事になったの……。
私はこんな事望んでいない。
どうして、どうして、どうして、どうして!!!!!!!
「うわああああああああああああああああああああああああああああん」
子供の様に大きな声で泣きじゃくると、冷たくなったダレルの体を、強く強く抱きしめ続ける。
そうして……もう動くことはない彼の体に、私は残りの魔力を全て注ぎ込んだ。
嫌、嫌よ、こんなのってないわ!!!
「ちょっとあなた……やめなさい」
「煩い!!放っておいて!!!」
そう強く言い放つと、私はありったけの魔力を指先へと集めていく。
しかし私の魔力は彼の中へ入って行くことなく、チリチリになって消えていった。
「はぁ……もう彼の魂はここにはないわ。いくら魔力を流し込んでも、死んだ者は生き返らないの」
魔女は私の傍にしゃがみ込むと、魔力を遮断するように私の腕をダレルから引きはがした。
「……このまま魔力を使えば、次はあなたが死ぬわよ。あなたはここへ死にに来たの?」
その言葉に私はようやく我に返ると、徐に顔を上げる。
涙で視界が歪む中、金色の瞳と視線が絡むと、ようやく本来の目的を思い出した。
そうだ……私はこの世界を……未来を変える為にきた。
タクミが事実を歪めた……その原因を探すために……。
だからこんなところで、死ぬわけにはいかない……。
私は力なくその場に項垂れると、ダレルから視線を反らせ、冷静さを取り戻す様に大きく息を吸い込んだ。
……ダレルは死んでしまった。
例え私が歪みを正したとしても、彼は生き返らない。
私にはもう彼を助けるすべはない……。
そう実感すると、また瞳から涙があふれ出してくる。
こんな怪しい私に危険を知らせに来てくれた彼。
私を守るためにと、別に部屋を用意してくれた彼。
私なんかよりも、数段女性らしくて、綺麗な彼。
何も知らない、名前さえ名乗らないこんな私に優しくしてくれた彼。
私はそんな彼に何か返すことは出来たのだろうか……。
そう思っても、もう二度と会う事は出来ない。
眠るダレルの姿をじっと眺めていると、魔女はそっと彼の前に手を翳した。
「人間に何かするなんて事ないんだけれどねぇ~。まぁ彼のおかげで私の命が救われたのだし、特別に弔ってあげるわ」
魔女は魔力でダレルの体を包み込むと、そのまま空へと飛ばしていく。
「人間は死んだ者を土に返すのでしょう。でも魔女は違う。次……新たな人生を歩めるようにと、空へと返すのよ。きっと彼は次の生……幸せになれるわ」
魔女の言葉を胸に響く中、私は太陽が沈みきった夜空へ向かっていく、ダレルの姿を静かに見送った。
小さくなっていくダレルを眺めていると、緊張の糸が解けた為か……魔力切れのだるさが一気に押し寄せてきた。
あまりの辛さに立っていることもつらくなりその場に跪くと、視界が霞んでいく。
そのまま抗うことなくゆっくりと瞼を閉じると、私は意識を手放した。
その光景に顔を上げた瞬間……魔女の腕から黒い霧上の物が浮かびあがっていくと、蒸発するように消えていく。
そんな魔女の手の中には白目をむいたブラックピクシーが、体中から液を流しながら、ピクピク痙攣していた。
「あぁ~、もうちょっと苦しめたかったんだけどね……。ふふっ、殺しちゃった」
殺した……?
嘘……じゃ…ダレルは……。
クスクスと笑いを浮かべる魔女を横目に、私は慌ててダレルの元へと駆け寄っていく。
そのままグッタリと横たわっていたダレルを抱きしめると、彼は薄っすら瞳を開け、小さく口を開いた。
「はぁ……、はぁ、……っっ。騙してごめんなさい。でもこれでよかったの……、魔導師様……本当にありがとう……」
「ダメよ!!!ダレル待って、嘘でしょう!!ちょっと!!!いやぁ!!!」
彼の呼吸が小さくなっていく様に心が追い付かない中、視界が涙で滲んでいくと、必死に叫んでいた。
「目をあけて!!!」
手に魔力を集中させると、ありったけの魔力をダレルの体に流し込んでいく。
そんな……死ぬなんて……させないわ……!!!
心で絶叫しながらも必死で治癒魔法を試みてみるが……ダレルの体温は戻らない。
それでも魔力を流し続けていると、次第にだるさを感じ始める。
魔力切れが近いとわかったが、私は魔力を遮断することはしなかった。
「やめて!!生きてよ……お願い……」
そう願いを込めて呟くと、彼の瞳がピクリッと小さく動いた。
その姿に慌てて彼の体を持ち上げると、ギュッと強く抱きしめる。
「……っっ、魔導師様……。はぁ、はぁ……ねぇ……許されるのならば……あなたに、私を覚えていて欲しいの……」
掠れる声にポタポタと涙が溢れ出ると、私は震える唇を必死に開けた。
「私はあなたの事を忘れないわ……でも死んではダメよ!」
溢れ出る涙を止めることもできず、私は声を殺しながら、泣いていると、彼の腕が私の髪へとかかる。
体温を感じられない冷たい彼の指先が私の頬へ触れかと思うと……力尽きるように地面へ落ちていった。
その様子に絶句する中、私は慌てて彼の呼吸を確認する。
するともう彼は息をしていなかった。
心臓も動いていない。
脈も確認できない。
彼は死んでしまったのだ。
嘘……嘘よ……どうしてこんな事になったの……。
私はこんな事望んでいない。
どうして、どうして、どうして、どうして!!!!!!!
「うわああああああああああああああああああああああああああああん」
子供の様に大きな声で泣きじゃくると、冷たくなったダレルの体を、強く強く抱きしめ続ける。
そうして……もう動くことはない彼の体に、私は残りの魔力を全て注ぎ込んだ。
嫌、嫌よ、こんなのってないわ!!!
「ちょっとあなた……やめなさい」
「煩い!!放っておいて!!!」
そう強く言い放つと、私はありったけの魔力を指先へと集めていく。
しかし私の魔力は彼の中へ入って行くことなく、チリチリになって消えていった。
「はぁ……もう彼の魂はここにはないわ。いくら魔力を流し込んでも、死んだ者は生き返らないの」
魔女は私の傍にしゃがみ込むと、魔力を遮断するように私の腕をダレルから引きはがした。
「……このまま魔力を使えば、次はあなたが死ぬわよ。あなたはここへ死にに来たの?」
その言葉に私はようやく我に返ると、徐に顔を上げる。
涙で視界が歪む中、金色の瞳と視線が絡むと、ようやく本来の目的を思い出した。
そうだ……私はこの世界を……未来を変える為にきた。
タクミが事実を歪めた……その原因を探すために……。
だからこんなところで、死ぬわけにはいかない……。
私は力なくその場に項垂れると、ダレルから視線を反らせ、冷静さを取り戻す様に大きく息を吸い込んだ。
……ダレルは死んでしまった。
例え私が歪みを正したとしても、彼は生き返らない。
私にはもう彼を助けるすべはない……。
そう実感すると、また瞳から涙があふれ出してくる。
こんな怪しい私に危険を知らせに来てくれた彼。
私を守るためにと、別に部屋を用意してくれた彼。
私なんかよりも、数段女性らしくて、綺麗な彼。
何も知らない、名前さえ名乗らないこんな私に優しくしてくれた彼。
私はそんな彼に何か返すことは出来たのだろうか……。
そう思っても、もう二度と会う事は出来ない。
眠るダレルの姿をじっと眺めていると、魔女はそっと彼の前に手を翳した。
「人間に何かするなんて事ないんだけれどねぇ~。まぁ彼のおかげで私の命が救われたのだし、特別に弔ってあげるわ」
魔女は魔力でダレルの体を包み込むと、そのまま空へと飛ばしていく。
「人間は死んだ者を土に返すのでしょう。でも魔女は違う。次……新たな人生を歩めるようにと、空へと返すのよ。きっと彼は次の生……幸せになれるわ」
魔女の言葉を胸に響く中、私は太陽が沈みきった夜空へ向かっていく、ダレルの姿を静かに見送った。
小さくなっていくダレルを眺めていると、緊張の糸が解けた為か……魔力切れのだるさが一気に押し寄せてきた。
あまりの辛さに立っていることもつらくなりその場に跪くと、視界が霞んでいく。
そのまま抗うことなくゆっくりと瞼を閉じると、私は意識を手放した。
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