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第三章
旅の真実⑦
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どこかへ吸い寄せられていく中、ふとその力が止まると、視界がクリアになっていく。
そこは先ほどの真っ白な世界とは違い……黒と白が混ざり合った灰色の世界。
シーンと静まり返った空間の中、辺りをキョロキョロと見渡してみると、すぐ近くに灰色の渦が浮かび上がる。
私はそっとその渦へ近づいてみると、ピカッとまばゆい光があたりを照らした。
その先には何もない広場に佇む一人の人影が現れる。
徐々に景色が鮮明になっていく中、そこには……成長したタクミが薄暗い朝焼けの空をじっと眺めていた。
その姿は最後に見た彼の姿と同じ。
私の事を知る……私が愛した彼だった。
タクミ……タクミ……。
その姿を前に想いが溢れ出そうになる中、彼は徐に脚を踏みだしていく。
「必ず、救うから……」
タクミはそうひとりごちると、左手に手を伸ばし、私とお揃いのシルバーリングを強く握りしめた。
私もつられるように手に意識を向けてみるが……そこには何もない。
そっか……体は魔女の部屋にあるんだわ……。
小さく息を吐きだし、そのまま愛しい彼の姿を眺めていると、彼は街から離れた山の中へと消えて行った。
タクミの姿が消え、灰色の景色があたりを埋め尽くしていく。
目の前がグレーに染まると、私はまた辺りへ視線を向けた。
すると小さな光が視界を掠め、そのまま傍へ移動してみると、またまばゆい光があたりを照らしていった。
光の先に映し出された景色は、少年の姿をしたタクミとセーフィロが何やらコソコソと話している様子が浮かび上がってきた。
「なぁ、見てくれ!俺、すごい魔法を見つけたんだ!」
「すごい魔法……一体どんな魔法なんだ?」
タクミは含みを持たせる笑みを浮かべると、セーフィロの手を引いて人気のない場所へと引っ張っていく。
辺りを用心深くを気にする中、タクミは徐に杖を掲げると防音魔法を使った。
「昨日さ、綺麗な金髪の女に声をかけられたんだ。不思議な雰囲気の女だったんだけど……その女が落としていったんだ!見てくれよこれ!」
タクミは嬉しそうにセーフィロの前へ古びた紙を広げて見せると、彼は大きく目を見開き固まっていた。
これは……タクミが私から時空移転魔法を拾った後……。
正しい世界は彼の両親から……そしてこちらの世界は私が落とした紙で……。
世界が修正しているってこの事なのかしら……?
何やらもめ始める二人の姿を横目に考えこんでいると、次第に二人の姿に靄がかかり、また場面が切り替わっていく。
空に満月が映し出される深夜、広場には少年のタクミとセーフィロの姿が映った。
タクミの足元には先ほど見た魔法陣が描かれている。
目を凝らして魔法陣を追っていくと、陣の模様には私が飛んだ世界よりもさらに15年前の日付が、記載されていた。
タクミは15年前に戻ったのね……。
確か……出会った時のタクミは……私と同じ16歳。
彼が1歳の時代へ戻ったって事かしら……?
魔法陣を目で追う中、タクミの魔力が魔法陣を包み込んでいくと、彼の姿が霞み始めた。
そんな彼の真上には15年前の世界へ続く道が開かれ始めると、歪みから強い風が吹き荒れていく。
タクミの体がその道の中へ吸い込まれていく様子に、私は勢いよく開け放たれた道へ飛び込むように意識を向ける。
そのまま道がふさがってしまう前に中へ入り込むと、風によって流されていく彼の背中は必死に追っていった。
暗闇の世界を抜け、時空の狭間にやってくると、私の時同様にタクミの周りに扉がいくつも浮かび上がっていく。
するとどこからともなく見覚えのある少女が、タクミの前に姿を現した。
「久しぶりの来客やねぇ。あんた……ここを通りたかったら、何かを差し出してや」
見目は私が出会った少女と同じだが……言葉使いや雰囲気が全くの別人だ。
関西弁……どうなってるの?
可愛らしいとは程遠い……タクミに挑戦的な視線を向ける少女の姿に混乱する中、私は只々二人の姿を見守っていた。
「何を差し出せばいいんだ?」
「あぁ、せやな~。……あんたの生涯で、共に歩みたいと望んだ《女》の名前をおくれ」
「……俺にはそんな女はいない」
「ふ~ん、なら出来てからでええ。基本ここの通行料は先払いやけどな、あんたは特別や。ただバックレられへんよう、呪符はかけさせてもらうで」
「ちょっと待て!もし……俺に大切な女が出来なかったらどうなるんだ?」
関西弁の少女はニッコリと笑みを深めると、小さな手をタクミへと差し出した。
「ははっ、あんたおもろいこと言うなぁ。人間は一人ではいきていかれへん。それに子孫も残さなあかんやろう~。だからあんたにも絶対に大切な人が出来るはずや。まぁ……出来へんのやった、出来へんでかまへんで」
その言葉にタクミはわかったと頷くと、しっかりと少女へ視線をあわせ、差し出された小さな手を握り返す。
「交渉成立やな。あんたがこの世界で大切な人が出来た時、愛しい《女》の名前をうちへ……」
そう言葉は紡がれた瞬間、タクミの首に呪符がまとわりついていく。
呪符はゆっくりとタクミの肌へ入り込んで行くと、少女は赤い扉の前へ進み出た。
愛しい女性の名前……。
まさか……、私のこの呪符はタクミがこの場所を通るときに差し出したもの…?
さっきこの世界と話していたから、私がこの世界へ召喚された際に、その呪符が私の首へ植え付けられた。
だから私は……名前を言う事が出来なかった……?
タクミにとって生涯一番大事だと思ってくれた事に嬉しさを感じる中、名前を奪われた事実に……何とも言えない複雑な想いが胸の中で渦巻いていく。
そんな中、少女は赤い扉を開くと……タクミの体は中へと吸い込まれていった。
その姿に私は慌ててその扉へと向かうと、必死にタクミの背を追いかけていく。
風に流されるままタクミの後ろをついていく中、ふと突然に風が止んだ。
その瞬間……タクミの体が道から弾かれていくのが目に映る。
彼の姿が目の前から姿を消すと、あまりに突然な出来事に何も出来ぬままに、私はその場で呆然としていた。
そこは先ほどの真っ白な世界とは違い……黒と白が混ざり合った灰色の世界。
シーンと静まり返った空間の中、辺りをキョロキョロと見渡してみると、すぐ近くに灰色の渦が浮かび上がる。
私はそっとその渦へ近づいてみると、ピカッとまばゆい光があたりを照らした。
その先には何もない広場に佇む一人の人影が現れる。
徐々に景色が鮮明になっていく中、そこには……成長したタクミが薄暗い朝焼けの空をじっと眺めていた。
その姿は最後に見た彼の姿と同じ。
私の事を知る……私が愛した彼だった。
タクミ……タクミ……。
その姿を前に想いが溢れ出そうになる中、彼は徐に脚を踏みだしていく。
「必ず、救うから……」
タクミはそうひとりごちると、左手に手を伸ばし、私とお揃いのシルバーリングを強く握りしめた。
私もつられるように手に意識を向けてみるが……そこには何もない。
そっか……体は魔女の部屋にあるんだわ……。
小さく息を吐きだし、そのまま愛しい彼の姿を眺めていると、彼は街から離れた山の中へと消えて行った。
タクミの姿が消え、灰色の景色があたりを埋め尽くしていく。
目の前がグレーに染まると、私はまた辺りへ視線を向けた。
すると小さな光が視界を掠め、そのまま傍へ移動してみると、またまばゆい光があたりを照らしていった。
光の先に映し出された景色は、少年の姿をしたタクミとセーフィロが何やらコソコソと話している様子が浮かび上がってきた。
「なぁ、見てくれ!俺、すごい魔法を見つけたんだ!」
「すごい魔法……一体どんな魔法なんだ?」
タクミは含みを持たせる笑みを浮かべると、セーフィロの手を引いて人気のない場所へと引っ張っていく。
辺りを用心深くを気にする中、タクミは徐に杖を掲げると防音魔法を使った。
「昨日さ、綺麗な金髪の女に声をかけられたんだ。不思議な雰囲気の女だったんだけど……その女が落としていったんだ!見てくれよこれ!」
タクミは嬉しそうにセーフィロの前へ古びた紙を広げて見せると、彼は大きく目を見開き固まっていた。
これは……タクミが私から時空移転魔法を拾った後……。
正しい世界は彼の両親から……そしてこちらの世界は私が落とした紙で……。
世界が修正しているってこの事なのかしら……?
何やらもめ始める二人の姿を横目に考えこんでいると、次第に二人の姿に靄がかかり、また場面が切り替わっていく。
空に満月が映し出される深夜、広場には少年のタクミとセーフィロの姿が映った。
タクミの足元には先ほど見た魔法陣が描かれている。
目を凝らして魔法陣を追っていくと、陣の模様には私が飛んだ世界よりもさらに15年前の日付が、記載されていた。
タクミは15年前に戻ったのね……。
確か……出会った時のタクミは……私と同じ16歳。
彼が1歳の時代へ戻ったって事かしら……?
魔法陣を目で追う中、タクミの魔力が魔法陣を包み込んでいくと、彼の姿が霞み始めた。
そんな彼の真上には15年前の世界へ続く道が開かれ始めると、歪みから強い風が吹き荒れていく。
タクミの体がその道の中へ吸い込まれていく様子に、私は勢いよく開け放たれた道へ飛び込むように意識を向ける。
そのまま道がふさがってしまう前に中へ入り込むと、風によって流されていく彼の背中は必死に追っていった。
暗闇の世界を抜け、時空の狭間にやってくると、私の時同様にタクミの周りに扉がいくつも浮かび上がっていく。
するとどこからともなく見覚えのある少女が、タクミの前に姿を現した。
「久しぶりの来客やねぇ。あんた……ここを通りたかったら、何かを差し出してや」
見目は私が出会った少女と同じだが……言葉使いや雰囲気が全くの別人だ。
関西弁……どうなってるの?
可愛らしいとは程遠い……タクミに挑戦的な視線を向ける少女の姿に混乱する中、私は只々二人の姿を見守っていた。
「何を差し出せばいいんだ?」
「あぁ、せやな~。……あんたの生涯で、共に歩みたいと望んだ《女》の名前をおくれ」
「……俺にはそんな女はいない」
「ふ~ん、なら出来てからでええ。基本ここの通行料は先払いやけどな、あんたは特別や。ただバックレられへんよう、呪符はかけさせてもらうで」
「ちょっと待て!もし……俺に大切な女が出来なかったらどうなるんだ?」
関西弁の少女はニッコリと笑みを深めると、小さな手をタクミへと差し出した。
「ははっ、あんたおもろいこと言うなぁ。人間は一人ではいきていかれへん。それに子孫も残さなあかんやろう~。だからあんたにも絶対に大切な人が出来るはずや。まぁ……出来へんのやった、出来へんでかまへんで」
その言葉にタクミはわかったと頷くと、しっかりと少女へ視線をあわせ、差し出された小さな手を握り返す。
「交渉成立やな。あんたがこの世界で大切な人が出来た時、愛しい《女》の名前をうちへ……」
そう言葉は紡がれた瞬間、タクミの首に呪符がまとわりついていく。
呪符はゆっくりとタクミの肌へ入り込んで行くと、少女は赤い扉の前へ進み出た。
愛しい女性の名前……。
まさか……、私のこの呪符はタクミがこの場所を通るときに差し出したもの…?
さっきこの世界と話していたから、私がこの世界へ召喚された際に、その呪符が私の首へ植え付けられた。
だから私は……名前を言う事が出来なかった……?
タクミにとって生涯一番大事だと思ってくれた事に嬉しさを感じる中、名前を奪われた事実に……何とも言えない複雑な想いが胸の中で渦巻いていく。
そんな中、少女は赤い扉を開くと……タクミの体は中へと吸い込まれていった。
その姿に私は慌ててその扉へと向かうと、必死にタクミの背を追いかけていく。
風に流されるままタクミの後ろをついていく中、ふと突然に風が止んだ。
その瞬間……タクミの体が道から弾かれていくのが目に映る。
彼の姿が目の前から姿を消すと、あまりに突然な出来事に何も出来ぬままに、私はその場で呆然としていた。
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