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【第三章】異世界からの帰還と危機
三話 魔王リスドォルはユタカの死を知る
しおりを挟む寝室からの魔方陣の行き来に問題がないと確認が取れ、安心した刹那。フランセーズの気配がユタカの部屋からした。
防護壁を解いたのだろう。しかし、部屋にいるはずのユタカの気配が全く感じられなくなっていた。
何故かと考える前に私は駆け出し、ユタカの部屋に飛び込んだ。
「ユタカ!?」
「やあ、魔王。ユタカはここだよ」
フランセーズはいつもと変わらない声でこちらを呼ぶが、状況が明らかにおかしかった。
ユタカは絨毯の上に仰向けに倒れていて、フランセーズはその腹に聖剣を突き立てている。絨毯は赤とも黒ともつかない色に濡れており、ユタカの血液である事は想像に難くなかった。
「魔王、僕は聖剣から手が離せない。おかしな気は起こさないでくれ。ユタカが死んでしまう」
私はハッとした。
無意識に魔力が全身から溢れ出し、フランセーズへの敵意となって攻撃せんばかりだった。
「ユタカは生きているのか?」
「正確には死んでるけど、魂を繋げてある。ユタカに魔力の穴を空けたから、それが定着するまではこうしていないとすぐに閉じてしまう」
こちらでユタカが死んでも私と同じで帰還するだけだと神が言っていたそうだ。
だが、普通に帰還してしまうと、ユタカは魔力が意味をなさない元の世界の仕様になる。
魔力を放出できる穴を空ければ、あちらの世界でもユタカは魔力が使えるようになるらしく、かなりの裏技で前例もないが、勇者同士が持つ神の力でフランセーズはそれを行おうとしているのだと言った。
「神からユタカの世界が危ないと聞いた。僕はユタカに故郷を失って欲しくない。誰かの助けを待つよりも、すぐにユタカ自身で戦う方が早いと判断した」
確かに、不確かな援軍を期待するより、最速の対応だと思う。しかし、それで得る力はユタカの世界では人間ではなくなってしまう程の変化だろう。
私に選べたとは思えないフランセーズの即断に、王の気質を感じる。
フランセーズに任せるのが最良だと判断し、私はユタカの側に膝をついた。
「ユタカ……」
ユタカの手を握るが、肌は血の気が無く、とても冷たい。
何故私はお前の側へすぐに行けないのだろう。
世界と世界の行き来は基本的には神以外には出来ない。神以外の存在は神の手引が必要だ。
魔物である私や、人間である勇者がそう簡単に助けに行けるものではない。
世界の移動について考えていると、疑問が浮かび上がってきた。
イーグルは神種だからこの世界に来られたのは当然だ。私はレジィの依頼で、他の魔物と一緒にこちらへ来た。
しかし、魔獣は何故この世界へ入った?
レジィが呼んだとは考えられないし、他の神が差し向けるにしても、一匹ならまだしも、大量に押し寄せる理由がない。
魔獣の親玉は私に用があるようだった。しかし、相手も私自身を知っている感じではなかったし、私も初対面なはずだ。
ズキリと突然、頭が鋭く痛んだ。なんだ、この違和感は。
「魔王、デュラムもここに呼んで欲しい。食事を運んで皆で食べよう。ユタカのあちらでの生活を見られるよ」
フランセーズの声に意識を引き戻される。
確かに、デュラムは今一人で料理を準備して待っている。それを放置するのは申し訳ない。
私は直ぐにデュラムを呼び、料理をユタカの部屋に運んだ。
「ぎゃ!? ユタカが死んでる!」
部屋に入ったデュラムは、室内の惨状に尻餅をついて驚いている。
和んでいる場合ではないが、その様子に少しリラックスできた。
フランセーズもクスクスと上品に笑いながらデュラムに指示を出す。
「デュラム、僕は手が離せないからユタカの分の料理を食べさせてくれ」
「ひぃ……ちゃんと俺にも分かるように説明してよね……」
デュラムも直ぐに順応して、フランセーズの隣に座り、パンやスープを口に運んでいる。
勇者とはこれくらいの精神力がないと務まらないのだろうなと妙に納得した。
「魔王、見て。ユタカの世界と繋がった」
フランセーズの言葉にユタカを見ると、体が半透明のようになり、映像が浮かび上がる。
両親らしき男女と食事をとる元気そうなユタカの姿が見えて、私は安堵の笑みが零れた。
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