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第一章
プロローグ
しおりを挟む「人は愛に生きるべきだ」
全てはこの言葉から始まった。
お茶を飲みながら一週間後の結婚式の打ち合わせのはずが、全てが狂いだしたのは。
この言葉がきっかけだった。
「は?」
「そう思わないか?政略結婚なんて乱暴だ。人は愛に生きるべきだ」
「人には役割がありますわ。愛よりも理を優先しなくてはならない事もあります。特に私達は自分の幸せを優先してすべてを捨てる事は許されません」
婚約者のランドルフ・オイシスの言葉に眉を顰めるのは王宮で女官を務めるカナリア・ウィスター。
最年少で侍女の採用試験に合格し、その後侍女長の推薦を得て女官見習いになり、異例の出世を果した後に女官となった優秀な子爵令嬢だった。
常に理を重んじ、仕事を最優先し王族に忠誠を誓っていた。
愛よりも忠義を重んじる性格で社交界では堅物令嬢とも言われていた。
その真面目さと聡明さを見込まれ婚約の打診を受けたのだ。
ただ婚約者のランドルフは少し趣味が合わなかった。
愛こそすべてだと考えるのが最近の若い貴族の考え方だったが、カナリアは王族に忠誠を誓う家柄で。
愛よりも理を考えていた。
王族、貴族は己の幸福よりも国と民の為にとの考えが強かった。
官僚の不正を許さない父親は子爵でありながら宰相の右腕だった。
カナリアも不正を許さず常に国の為に働く父を心から尊敬していたが、貴族令嬢としての責任を果たすべくこの婚約に応じた。
「君は何時もそうだな。愛よりも理を重んじる」
「愛の為に何をしても許されるわけではありません。その為に法律があります」
「君は冷たい人だ…だが僕は愛を見つけた。だから愛を貫きたい」
「愛の為に私を裏切り、多くの人を裏切ると」
「どうしてそんな酷い言い方しかできないんだ!僕は君の間違いを正してやりたいだけだ…愛こそすべてだ!」
(話にならないわね…)
頭が痛くて眩暈がした。
不愉快な思いを抱いても傷ついていなかった。
「君には申し訳ないが…」
「解りました。婚約解消ではなくは破棄でよろしいのですね」
「ああ」
確認するように聞き返すと。
「ああ、婚約破棄だ」
内心で馬鹿だろうと思いながらカナリアは婚約破棄を受け入れた。
「式場ですが…」
「結婚式は予定通り僕のエミリーと式を挙げる、ウェディングドレスもそのまま彼女に」
「そうですか。解りました」
常識があるなら普通、無いと思ったが。
ランドルフは完全にのぼせ上っているので無視しようと思った。
「君にも愛の素晴らしさを解って欲しい。だから…」
「では私は仕事がありますのでごきげんよう。後はお好きにどうぞ」
「カナリア!」
店から出ようと立ち上がり、背を向けたカナリアは振り返る。
「今後はウィスター令嬢とお呼びくださいませ。オイシス様」
冷たい目で言い放つカナリアに立ち尽くすランドルフだった。
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