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第一章
6苦労人宰相の事情
しおりを挟むエンゼル王国の宰相。
エンディミオン・プレムゼ・エンゼルは根っからの苦労人だった。
兄二人とは異なり天才ではなく秀才だった。
特に次男は美しい容姿と国の英雄でもある。
幼少期は兄に劣等感を抱く事もあったが憎しみを抱く事がなかったのは兄が尊敬できる人物で尚且つ自分の役割を認識していたからだ。
何よりレオンハルトは憎めない性格だった。
良く言えば大らかで悪く言えば大雑把な性格ながらも腹違いの長男との間で長らく苦悩をしていた。
現国王は妾腹の子で次男は正妃の子。
本来ならばいがみ合って当然だが、レオンハルトは兄を深く愛していたからこそ王位争いを避ける事を願っていた。
そんな兄を心から尊敬していた。
誰よりも優しい心を持っていながらも心穏やかに入れる時間はなかった。
程なくしてレオンハルトは王位争いを避けるべく国を出て騎士の道を歩んだが、紆余曲折の果てに大恋愛の果てに初恋の少女と結婚式を挙げることが叶ったのだった。
だが、そこで問題が生じた。
社交界ではレオンハルトの妃の座を狙っていた令嬢達が次に狙いを定めたのだ。
当てが外れた彼女達の次の標的はエンディミオンだった。
宰相という地位と侯爵の爵位を持っており資産家でもあり、権力もある。
権力を欲する者からすれば飛びつきたくなるのだが…
「もう勘弁してください!」
「すまんな」
「兄上を狙っていたハイエナが、次は俺を狙ったんですよ!」
本来ならば幼少期に婚約を結ぶのが当たり前だったが。
長男であり現国王陛下の権威を守るべく遠慮していた事もある。
次男のレオンハルトに至っては女性を避けていたが、ようやく意中の女性と結婚できたので逃げ場がない。
「見合いの話は出ていただろう」
「仮に兄上なら応じますか?」
「断る」
大臣から縁談を持ち込まれるも、すべて宰相の妻の座。
もしくは欲深い貴族が権力を得るための縁談しかなく、見合い相手にすらならなかった。
宰相の妻とは清楚な令嬢だけでは務まらない。
学問に精を出し、外交が出来て、政治にも関心を持ちながらも常に国の政治を最優先にして王家を守る事を考えなくてはならない。
だが高位貴族でそんな女性がいるはずもない。
「国内で探すのは難しいな」
「でしょうね…ですが他国でも無理があります」
「この際、補佐を迎えてはどうだ」
婚約はなくとも傍に侍女か女官がいればなんとかなるのでは?とも考えたが。
「いや、婚約者よりも難しいな」
「中途半端な女性では危険ですよ」
恋愛結婚を否定する気はない。
だが、宰相という立場を捨てる事は出来ない。
レオンハルトは騎士として振舞っているので、結婚相手は貴族であれば障害は少ない。
対するエンディミオンの婚約者は身分よりも経歴が重視されるので選ぶのにも難航していたのだが。
「でしたら、他国に足を伸ばして見てはいかがですか」
「ユリア?」
「隣国に視察に行く予定があります」
侍女のユリア・ガゼルがアドバイスをする。
宰相として他国に視察に行くことが多いならそれを利用すればよい。
「ただし、ご自分の補佐を探すという名目にした方がいいですね」
「そうだな」
例え優秀でも欲深すぎるならば本末転倒だ。
優秀な女官がいればスカウトしてそのまま補佐になって貰えるように頼み込もうと思ったのだが。
カナリアの有能さと、立ち振る舞いにエンディミオンは婚約者に。
妻に欲しいと思ったのだった。
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