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第一章
15長男
しおりを挟むオイシス家の長男、エスターは商談から急ぎ帰って来て事情を聞かされ頭を抱えた。
「なんと愚かな事を…」
妻のミリアは眉を顰めてランドルフを睨みつけた。
「ですが僕は愛を選んだんです。この選択は正しいはず…」
「それは私に対する当てつけですか」
エスターとミリアは幼少期から決められた婚約者だった。
その為政略結婚は間違いという事は、ミリアの存在を否定する行為だった。
「私とエスターは恋愛結婚ではありません。契約上の関係だといいたいのかしら?」
「そんなつもりはありません…ですが親に決められて無理矢理結婚など!」
「ランドルフ!」
「きゃあ!何をするのエスター!」
ランドルフの失言に普段声を荒げることがなかったエスターが殴った事でライアンは悲鳴をあげる。
「お前は私だけでなく妻まで侮辱する気か!いや、多くの貴族を否定するとは何様だ。婚約者がいなら浮気をして不貞行為をしておきながら自分は悪くない…ではカナリア嬢が同じことをしても許せるのか!」
「それは…」
「例えば、結婚式前夜に他の男と一緒になりたいからその男と結婚式をするから直ぐに出て行け、支度金は返金しないが恨むなと…借金を抱えさせれても円満だと言えるのか…お前は頭がおかしくなったとしか思えない」
「兄上…」
胸倉を掴まれ怯むランドルフにミリアは冷めた視線を向ける。
「この婚約は社交界を生き抜く為に、前オイシス男爵であるお義父様が頭を下げてウィスター家にお願いしたというのに。契約違反をして、結婚詐欺ですわ」
「結婚詐欺…」
「法律上結婚詐欺の罪は重いでしょうね。法律上で裁かれるでしょうし、我が家は社交界の笑い者…エミリー嬢は後ろ盾がありませんし」
「待ってちょうだい、彼女の父親は伯爵様でしょう?だったら」
縁を切ると言っても血の繋がった子を見捨てるなんて本気ではないとライアンは思っていたが。
「伯爵様ですが、奥方様に離縁を突きつけられたようですわ。あの方は婿養子ですから」
「は?」
「しかも愛人は多くいるのでその一人に過ぎない女の娘でしかありませんわ」
聞けばエミリーの父は伯爵家に婿養子に迎えられていた。
妻との関係は既に冷え切っていたので外に愛人を囲っていたのだが、今回の事件が社交界で明るみ出た事で妻はこれまでの我慢ができなくなった。
前伯爵が怒りが相当なもので離縁を命じたのだ。
「この情報は信頼できますわよ」
「そんな…」
「こうなったら仕方ない」
エスターは最悪の予想をしながらこれ以上酷くならないように対策する事にした。
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