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第一章
22兄夫婦
しおりを挟むアリエルとライアンの確執は思った以上に酷かった。
これまで花嫁修業としてオイシス家のやり方だと厳しい事を言われて来たが、姑としてではなかったのだと解る。
女官としての経験を活かし、オイシス商会の運営を手伝うも、女がしゃしゃり出る事を良く思っていないようで、度々衝突はあったのだから。
「良い嫁になろうと努力していたつもりだったのですが、全部裏目に出ていたんですね」
「カナリア嬢…」
「女の敵は女と言うのを忘れてました」
今にして考えれば、爵位はそれほど高くないが、資産家となった子爵家。
王家に信頼を置かれ、将来が約束されたも同然のウィスター家は大貴族ではない。
先祖は元は平民だった。
血筋も良いというわけではないのにかかわらず、優遇されているのが許せなかったのだろう。
しかもアリエルの父は平民で、功績がたたえられ準男爵を得たのだから。
正当な貴族の娘であるライアンからすれば格下の女が自分よりも上なのが許せなかったのかもしれないと思うカナリアだった。
「難儀な物だな…しかしオイシス家はどうなるのですか」
「長男のエスター様が当主の座に。あの方は前オイシス男爵様と同じ考えをお持ちになっていらして」
幼少期から厳しく育てられ、当主として相応しい振る舞いを強要されながらも、父親からの愛情はちゃんと与えられ、小姑となるはずだったミリアは聡明で貞節を重んじる女性だった。
「ランドルフの事はこの際どうでも良いのです。ただ、長男夫妻が心配です。特に義姉のミリア様のご実家は海岸沿いに位置する上流階級です。貴族よりも裕福ですが、平民ですので」
姑とは話しが合わなかったが、小姑とは良好な関係だった。
中々子供が出来ない事で嫌味を言うライアンに苦しんでいた事から腕の良い医師を紹介していた事で二人の関係は実の姉妹のようだった。
「今後、ランドルフの尻拭いをさせられると思うと」
「気の毒ですね」
「ええ」
せめてあの二人がこれ以上巻き込まれないと良いと思った数日後。
「大変な事になった」
「ああ、なんて事なの」
真っ青なアンデスとアリエルに聞かされたのは。
「お二人がオイシス家を追い出された!」
「ああ、社交界ではその噂で持ち切りだ」
「私も驚いたのだけど。朝一番に弁護士と一緒に謝罪に来て慰謝料と持参金の返金をされて」
目の前が真っ暗になった。
このタイミングで二人をオイシス家から追い出すなんて正気の沙汰ではない。
(どうして!)
兄を追い出すなんて惨い行為をしたランドルフに怒りを抱いたカナリアだった。
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