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第一章
23被害者
しおりを挟む本来なら慰謝料の支払い義務はランドルフかその親であって、兄であるエスターが取るのはおかしな話だったが、手紙には謝罪とこれまでの無礼が丁寧に書かれていた。
「既にエスター殿はオイシス家との縁を切っている」
「私はこんな事望んでいません」
カナリアは、仕返しを望んでいなかった。
ランドルフには複雑な思いを抱ていても、エスターが何故社交界から追い出されなくてはならないのか。
「これは推測なのですが」
「エンディミオン様…」
「責任感の強い方ならば解ります。もしや奥方…エスター殿の奥方と何かあったのでは」
「考えられます」
ミリアが聡明で貞節な性格なのは解っている。
今回の事を聞いて慰謝料を払わず謝罪もしない事に異論を唱えたのは安易に想像できる。
「ミリア様…」
「カナリア嬢、お二人は良き方なのですね。立派です」
「はい」
二人共責任を取る為に自身の財産を投げうつ覚悟にエンディミオンは感銘を受けた。
「商人は利益を優先します。ですがそれは三流のやり方です。一流は違います。信頼はお金で買えません」
どんな状況でも相手の信頼を守る。
一流の商人の振る舞いだったのだから。
「ただ、欲が少なすぎる」
「はい」
「人間は窮地に追い込まれると本性を出します。この状況下でもこのような振る舞いができる人間は少ない。なのに惜しいです」
「…と申しますと」
「奥方のご実家はどのような事をなさっておいでですか?」
「商売をされております。主に器…食器などを。中には芸術品やサロンもされていると」
「すると他国とも繋がりが?」
エンディミオンは笑みを浮かべる。
先程のまでの事を聞き、商人としての心得と人としての責任の取り方を理解している。
「アンデス殿にお願いしてお二人をスカウトできませんか」
「え…」
「我が国には商人は多くいますが、美術品を扱える商人は少ない。特に目利きできる者は貴重なのです」
もし二人を国に連れて帰り、王族の元に置ければ。
「それは良いですわ」
「おいお前…」
「既にオイシス家とは縁を切っているのです。でしたらミリア様のご実家に連絡をして、話をすればいいのです」
アリエルの言葉にアンデスは頭を抱える。
エスターの人柄は熟知しているがそう簡単に事が運ぶとは思えない。
障害も多いのだが。
「お二人は未だに罪の意識があるはずですわ?そこを利用するのです…ある程度脅しをかければよいのです」
「おい…」
「表向きは国外追放。社交界では弟の代わりに罪を被り責任を取った…社交界では彼等に同情が集まるでしょう」
アリエルはオイシス家が既に社交界で四面楚歌状態である故に親族や関係者も火の粉を被る事を解っていた。
国を出た方がずっといいとも考えていたが、責任を取って国外追放という形を取れば周りからの非難はいくぶんか和らぐ事を考え、逆にランドルフの立場を更に悪くしようと考えたのだった。
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