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第二章
12甘い期待
しおりを挟むエスターが勘当してからふさぎ込んでいたライアンは精神的にも病んでいた。
これまで親しくしていた友人は手のひらをかけしたように傍を離れ、陰口を言っていた。
長男を追い出し溺愛する息子を当主にしたという噂が更に追い打ち気をかけたが、エスターはオイシス家の名を捨てミリヤの実家の家名を名乗ることにした。
法的手続きもしっかりとられ、アルソート家の婿養子になった。
それ以降連絡を絶たれ、アルソート家からも睨まれる事となりこれ以上連絡を取るなら弁護士を呼ぶとまで脅されていた。
事業も傾き、借金を背負う事になった。
このままではオイシス家は没落してしまうと思った矢先に吉報だった。
ハッシュベル伯爵家の当主でありエミリーの義母の突然の訪問だった。
エミリーは父親から認知されおらず、持参金がまったくなかったので代わりに持って来たのだと思った。
あわよくば当初の目的通り伯爵家の親族になれると思った。
はずだったが。
「私とあの娘は今後関わる事はりません。血の一滴も繋がっていないのですから」
「え?」
「元夫は既に離縁しております。親子ともども邸から出て行ってもらう予定です。こちらを」
「これは?」
「手切れ金です。後からお金をせびられても困ります。あの女の娘ですもの」
冷たい表情で射貫かれ、お金だけ渡して二度と顔を見せるなと言われ絶句する。
「待ってください。彼女はこれから…」
「まぁ、駆け落ち同然で一緒になるなんて何処まで私に嫌がらせをすれば気が済むのかしら…まぁあの男も馬鹿だったけど」
「そんな…」
「でも、部屋に何処かに捨てるよりも嫁に行ってくれた方があとくされがありません。我が家では親子そろって不祥事を起こした恩知らずですが…」
「最後まで迷惑をかけられても責任は取ろうとされた奥様にこれ以上嫌がらせは許しませんわよ」
隣にいる侍女はエミリーを睨む。
「私はそんなつもりは…」
「またそんなつもりはですか…言い訳ばかり。一生自分は悪くない、そんなつもりはなかった…人一人の人生を潰してもまだ言うのかしら?人殺しが」
「なんて事を!エミリーは誰も殺して…」
「一人の令嬢の人生を潰したのは事実です。聞けば彼女が王都を追放に追いやられたそうですね?ウィスター家も生ぬるい事を」
「何を言っているんだ…」
「ハッシュベル家でしたら正式な裁判として訴え刑罰を与えますわ。なんせ相手は平民…平民が貴族に害を成す事は許されませんし。相手は王宮勤めの女官…貴族でなくても牢屋にぶち込まれますわよ」
カナリアの肩書がどれ程重いか知らなかったエミリーはこの時初めて知った。
今の状況はカナリアの情けによるものだった。
「しかもこんなくだらない女に婚約者を奪われすべてを奪われたのであれば生きていられないわ。本当に恐ろしい女」
「ちがっ…」
幼い頃から氷のように冷たい目で見られて来た視線に怯えエミリーはその場に座り込んだ。
逃げたいのに逃げられない状況下で耳を塞いでも無駄だった。
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