婚約者は愛を選び、私は理を選んだので破滅しても知りません!

ユウ

文字の大きさ
60 / 115
第二章

29夫の価値

しおりを挟む



優しくて誠実な男性。
エミリーはずっと、そう思っていた。


カナリアと婚約していた時から穏やかで気遣いのできる優しいランドルフが好きだったが、優しいだけの世間知らずで甲斐性の無いランドルフへの愛が冷めてきている。


優しいだけ。
誠実なだけのランドルフは妻である自分を守ってくれない。



「ランドルフは私を守ってくれないのね…私を幸せにするって言ったのに嘘だったの?平民だから…貴族じゃないから私の事は!」

「何を言っているんだ」

「お母様が私を責めても何も言ってくれない。町でも冷たい目で見られても耐えろと言うの?」

「少しの辛抱だ。少し頑張って…」

「もう十分耐えたわ。頑張ったわよ…商会でも私は!」


エミリーは頑張っていないと言われているようで辛かった。
商会の受付も、接客も得意ではなかったが頑張って来たのに認めてもくれなかった。

接客では客を怒らせ、ライアンに冷たい目を向けられる事がどれだけ辛いか。


「こんなはずじゃなかった…私はこんな生活を望んでなかった」


「エミリー!」

「幸福な結婚式をして幸福になりたかった…なのに!」


望んだ結婚式とは真逆で新婚生活も辛い日々だった。
これでは形見の狭い思いをしながら耐え忍んでいたあの頃と変わらないでいた。


「僕にどうしろと言うんだ」

「ランドルフ?」

泣いているエミリーを何時もなら抱きしめて慰めるのだが、今は違っていた。

ずっと母親とエミリーの間に立ち板挟み状態だった。
間に立って二人の機嫌を取るのは疲れていたランドルフは苛立っていたのだ。


「僕にできることはしている。これ以上を何をすればいいんだ…噂を消すなんてことは高位な貴族でも難しい。出版されている本を止めるなんてできないし、劇に関してもだ。伯爵位を賜っている貴族でも無理だ。既に借金を背負って没落寸前の男爵家に出来る事はないんだ!」


解って欲しいのに、解ってくれないエミリーに初めて怒鳴り声を上げた。


「君も少しは妻としての役目を全うしたらどうなんだ。僕は君の我儘を聞くだけの都合の良い男じゃない!」

「そんな…酷い」

「僕に頼るなら一度でも自分で動いたらどうなんだ!依存ばかりして見っとも無い…自立してくれ!」


ランドルフは怒りに任せて言ってはいけない事を言ってしまった。
自立した女性が嫌だとこれまで言っておきながら自立しろ、外で働けと告げることがどれ程酷い言葉か。

今のエミリーを追い詰める事だという事に気づいていいなかった。


そしてこの口論がきっかけに、二人の関係は壊れてしまうのだった。


しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。 そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。 第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。 周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

二人の妻に愛されていたはずだった

ぽんちゃん
恋愛
 傾いていた伯爵家を復興すべく尽力するジェフリーには、第一夫人のアナスタシアと第二夫人のクララ。そして、クララとの愛の結晶であるジェイクと共に幸せな日々を過ごしていた。  二人の妻に愛され、クララに似た可愛い跡継ぎに囲まれて、幸せの絶頂にいたジェフリー。  アナスタシアとの結婚記念日に会いにいくのだが、離縁が成立した書類が残されていた。    アナスタシアのことは愛しているし、もちろん彼女も自分を愛していたはずだ。  何かの間違いだと調べるうちに、真実に辿り着く。  全二十八話。  十六話あたりまで苦しい内容ですが、堪えて頂けたら幸いです(><)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

処理中です...