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第三章
29行きついた先
しおりを挟む悲惨な現実に耐え切れなかったランドルフはライアンが隠している僅かなお金と家にある売れそうな品に食料をかき集めて寄りの内にこっそり抜け出した。
村の馬を盗み少しでも早く村から、そしてライアンとエミリーの傍を離れたかった。
真実の愛を貫くと誓いながらもその愛は冷めるのは早かった。
むしろランドルフは自分が被害者だと思っていた。
「とにかくできるだけ遠くに」
自分一人ならば十分に食べて行けるはずだと勘違いしたランドルフは隣町に到着して直ぐに職業紹介所に向かい仕事を紹介してもらおうと思ったが。
「平民で特にスキルがない男はいっぱいいるんだよね」
「いや、僕は…」
「ああ没落した貴族?それだと余計に余っているんだよ。見る限り何もできないバカボンだろ?」
「何だ、それは」
「馬鹿で何もできない甘ったれの坊ちゃんの事だよ」
「は?」
世間知らすのランドルフは嫌味を言われた事すら気づかずにいた。
「これじゃあたいした仕事は出来ないね?ここは軽くスルーするか突っ込む所だろ」
「何を…」
「ユーモアセンスもないと来た。アウトだね」
受付をしている職員は時折くだらない事を言っては適性を見ていた。
「僕は商会の会長をしていました。だから」
「ああ、それもアウトだね。自分で仕事を探せないっていうパターンじゃないか」
「ですから!」
「せめてコンサルができるとか、営業ができる、接客ができるなら使い道はあるんだが」
オイシス商会では接客も営業もほとんど経験がない。
事務作業は行っていたが商会の土台を作り上げたのは亡き父とエスターだった。
「事務の経験はあると聞くけど今から計算をしてもらう」
「はい」
(これならば!)
ようやく自分の実力を見せつけられると思ったが。
「ではこれを」
「算盤は…」
「は?そんなものあるわけないだろ?暗算だ」
「は?」
「でははじめ!」
文句を言う暇もなく時間は過ぎていく。
これまで計算は算盤を使っていたので、暗算なんてした事はない。
「君、本当に事務をしたことあるの?それ以前に商会のトップでしょ?」
「えっと…」
「まさか暗算もしたことないの?これじゃあうちの見習い職員の方がマシだよ」
「待ってくださいチャンスを」
「じゃあ、時間以内にこの書類を作ってくれる?」
「解りました」
だが、今度は言われた書類を作るだけだったが、雑過ぎて失格だった。
しかも書類をまとめた後にホッチキスで止めようとするも、止め方が酷く事務の仕事は不向きだと判断された。
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