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第三章
32予防線
しおりを挟む村から追い出されたライアンとエミリーの行方はその後誰も知らなかった。
借金地獄の中、キュロスとメジャーも真面な生活はできず、借金取りから逃げ回る生活をしながらもにげあしだけは早かったと聞く。
「本当にゴミぶり並みの精神力です事」
「ああ、ああいう人間は世界の終わりが来ても生きていそうだな」
その体力と精神力を有効に使えばよのにと思ったが、野垂れ死ぬのは時間の問題だった。
「私が手を下す必要ないのだけど。まだ不安があります」
「不安?クリスティ嬢はもう手が出せないだろう?」
「ええ、父君は爵位を奪われ地方に飛ばされ監視されるでしょう。クリスティンは修道院で扱かれますわね」
罪状を明らかにして見せしめにした事で、彼等に協力していた貴族も炙り出され、同じような真似をすればどうなるか身を持って知っただろうが。
「問題はセリアですわ」
「セリア?」
「現在彼女は夫と離縁した状態。若い男からしたら最高級の肉によだれを誑す狼に狙われている状態」
「肉に例えるな。肉に…」
「それだけ魅力的なのです」
セリアは若くして子供を二人出産しているがまだまだ美しい。
働き者で家庭的で控えめな性格でもある事から人気がある。
しかも現在はアレーシャの妹に養子縁組をされたことにより後ろ盾もある。
「エンゼル王国では子供が出来ない夫人が多いですから」
「まぁ…」
「その点若くて、子供を二人いるならばどう見ます?」
「再婚相手に望むだろうな」
血筋を最優先する貴族ばかりではない。
再婚相手に優秀な子供がいるならば血がつながらなくとも跡継ぎにと望むだろう。
その上後ろ盾があるならば好都合だ。
「まだ若いセリアなら子を作れるのではないかとも思いますし。現在エンゼル王国内でも一番の財産持ちのアレーシャ様の義妹となれば」
「付加価値が十分だな」
「本当に面倒ですわね。養子縁組にしてからしばらく縁談の申し込みが来ましたのを握りつぶして踏みつけるのに苦労しましたわ」
「したのか」
「当然」
日に日にカナリアの横顔が似て来てるので恐ろしくなる。
(母上に似て来たな…)
どうしてこうもエンゼル王国の女性は強いのかと思うが。
(強くならざる得なかったんだろうな)
弱いままでは生きて行けない環境だったことにため息をつく。
これも男の甲斐性の無さだと少し反省しながらも今はセリアの事を最優先に考えるのだった。
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