52 / 142
第二章魔導士の条件
25コパンの思い出②
しおりを挟む店に入って来た少女は服装も汚れ、疲れた表情をしていた。
「申し訳ありません。パンはもう…」
「じゃあ、それは?」
「これは売れるような物ではなく」
一度床に落ちたパンだった。
まだ食べられるが、客に出せる物ではなかったが。
「お腹が空いているんです。騎士団の皆さんも空腹で…お願いします。売ってください」
「しかし、形も崩れていて…床に一度落ちた物でして」
「大丈夫です!砂も汚れもないし、消毒もすれば食べれ…愛しのコッペパン!」
ぐいぐいと押してくる少女は袋に入れられていたコッペパンを見つける。
「袋に入っている事は…見切り品かお買い得商品ですね!」
「いや、これは…」
「全部ください!このお買い得パンを全部買います…皆さん!パンですよ!お買い得なパンが沢山です」
外に出て既に空腹でへとへとな騎士達が立ち上がる。
「「「うぉぉぉ!」」」
既に限界だったのか、騎士達はパン屋に押しかけて来る。
「パンをくれ!ミルクもあるぞ」
「おい、こっちのパンは甘い香りが」
次から次へと流れ込む、捨てようとしたパンを見切り商品を勘違いして硬貨を置いて行く。
「うめぇ!」
「本当だ!ここのパン最高じゃねぇか」
騎士の大半は平民や下級貴族が多く、パンに親しみのある騎士が多かった。
「今度からここで買うか」
「ミルクも美味いし安いじゃねぇか」
「私のコッペパンは食べないでください!」
少女のおかげで処分するはずのパンは無駄にならなかった。
念のために床に落ちたパンは売れないと告げたが、騎士団の騎士は捨てるぐらいならと奪い、硬貨を押し付けたのだった。
「爺ちゃん、あの人はパンの妖精だ」
「そうだな…私達のパンをあんな美味しそうに食べてくれるとは。ありがたい」
パン職人だけでなく料理人いとって一番の喜びは美味しいと言ってくれることだ。
どんなにお金に摘まれるよりも、喜んで食べてくれるのが一番幸せだった。
しかも少女のおかげでパン屋は救われた。
その日を境にそのパン屋は騎士達の御用達となり大量に注文されるようになった。
「騎士様、あそこでパンを食べられている方は」
「ああ、メアリ嬢ちゃんだ。治癒師なんだが…かなり変わり者だ」
騎士団の団長はパンをかじりながら伝えた。
「貴族様ですか?」
「ああ、辺境伯爵令嬢だ。辺境地じゃ食い物は貴重だからな。嬢ちゃんはコッペパンが大好物なんだよ」
「メアリ様…」
コパンは妖精の名前をしっかり刻み込んだのだった。
そしてその一年後、コパンは学園のパン職人に入る事を決意した。
だがその学園でメアリの悪い噂を流れている事を知り。
かつてコパンの心を傷つけた貴族がユーフィリアと知った時は殺意を抱いたのだった。
81
あなたにおすすめの小説
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー
「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」
微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。
正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
婚約者から「君のことを好きになれなかった」と婚約解消されました。えっ、あなたから告白してきたのに?
四折 柊
恋愛
結婚式を三か月後に控えたある日、婚約者である侯爵子息スコットに「セシル……君のことを好きになれなかった」と言われた。私は驚きそして耳を疑った。(だってあなたが私に告白をして婚約を申し込んだのですよ?)
スコットに理由を問えば告白は人違いだったらしい。ショックを受けながらも新しい婚約者を探そうと気持ちを切り替えたセシルに、美貌の公爵子息から縁談の申し込みが来た。引く手数多な人がなぜ私にと思いながら会ってみると、どうやら彼はシスコンのようだ。でも嫌な感じはしない。セシルは彼と婚約することにした――。全40話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる