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星彦さんから飛び出してきた物騒な言葉に目が点になる。
「こここ、殺すぅーー!?ダメですよそんな!」
「え?正妻呪い殺してぇ、って依頼じゃないんですか?」
「違います!僕はただ、その……アレな相談っていうから、え、エッチな相談も良いのかと思って、麒臣君が僕に種付けしたくなる薬とか買えないかなって……薬盛って子供作ってもらうとか酷いと思うけど……。」
「いや、発情期のオメガに迫られて耐えるアルファを堕とす媚薬なんてねーよ。」
「そうなんですか!?」
「あ、いや。……出来るかもしれません。」
「お、お願いします!」
「……貴方、正妻が居なくなればとは思わないんですか?そんなに好きなら邪魔でしょうに。」
最初から少し印象が変わった星彦さんの顔を見る。
暗い瞳は、角度のせいかロウソクの灯りすら反射してなかった。
「まさか。誰を好きになるかは麒臣君の自由だし、奥さんに何かあったら悲しむのは麒臣君だから……。」
「くだらない綺麗事ですね。」
「綺麗事じゃなくて、本当にそう思うから言ってるんですけど……」
星彦さんがじっと見すかすような瞳でこちらを見る。
何だか反らせなくて、その漆黒の目を僕も見つめ返した。
「貴方、相当の変わり者のようだ。」
しばらくそうした後、初めて星彦さんの声に感情が滲んだ気がした。
驚いているような、どこか喜んでるような。
「別に普通だと思いますけど……」
「そう思おうとしてる。普通からはみ出るのは怖いですか?」
「いや、うーん。僕、子供の頃蟻の巣の観察が好きだったんです。」
「はぁ。」
「蟻って綺麗に同じところ通るじゃないですか。でも、たまに道から外れて勝手に歩き出す子がいるんですよね。で、たまーにもっと良い道をその子が見つけるとみんな後からついていくんですよ。」
僕の話を星彦さんは訝しげながらも静かに聞いてくれる。
「けど、良い道を見つけられない子もいて、そういう子は独りでずっと巣の外を歩き回るんですよね。誰も探しにきてくれなくて。」
「そうなりたくないと。」
「違うんです。僕、そのずっと独りで巣にも帰らず彷徨ってる子が気になっちゃって。巣に戻すのも違う気がして、部屋で虫箱に入れて飼ったんです。」
星彦さんがまた目を細めた。
「1年くらいしたら寿命で死んじゃったんですけど、その時には大事な友達になってました。その子が変わり者で良かったです。」
「ふふっ」
笑い声の主を見れば、口角だけを上げて笑っていた。
やっぱりかと思う。
「みんなそうやって笑いますけど、蟻だって友達になってくれるんですよ。」
「そうですか。まあいいでしょう。依頼に入りましょうか。」
星彦さんは立ち上がって、後方にある襖を開けて隣室に入った。
しばらく待っていると、目だけ空いた頭巾を顔全体にすっぽり被り、香炉を手に帰ってくる。
香炉に入った練香に行灯から火を移し戻す。
しばらくすると甘みのあるしっとりした香の匂いがただよい始めた。
白檀のようだけど、初めて嗅ぐ香りだ。
「薬はありませんが、願いを叶えるため貴方に術をかけましょう。香りをよく吸い込んで、煙を見つめてください。」
くぐもった声が頭巾の中から聞こえる。
言われたとおりに香の匂いを吸い込み、白く揺れる筋を見つめた。
「相手が貴方をもっと激しく求めて止まなくなるように……」
「あ、今以上に激しくなると体が保たないのでそれはちょっと……孕ませてくれるようにだけできますか?」
「……承知しました。続けましょう。」
よし今度こそ。
深い呼吸で香りを取り込み、燃える塊からチラチラ覗く赤い光をぼうっと見つめた。
だんだん頭がハッキリしなくなって、視界が揺れてくる。
おかしいと感じた時には自力で座っているのも怪しくなっていた。倒れそうになる身体を、かろうじて手をついて支える。
「どうですか?」
「からだ……重くて、へん……」
「成功ですね。」
体の重さに気を取られていると、いつのまにかすぐ目の前に星彦さんがきて僕の体を押す。
ドサリと仰向けに倒れた所に上から覆い被さられた。
「こここ、殺すぅーー!?ダメですよそんな!」
「え?正妻呪い殺してぇ、って依頼じゃないんですか?」
「違います!僕はただ、その……アレな相談っていうから、え、エッチな相談も良いのかと思って、麒臣君が僕に種付けしたくなる薬とか買えないかなって……薬盛って子供作ってもらうとか酷いと思うけど……。」
「いや、発情期のオメガに迫られて耐えるアルファを堕とす媚薬なんてねーよ。」
「そうなんですか!?」
「あ、いや。……出来るかもしれません。」
「お、お願いします!」
「……貴方、正妻が居なくなればとは思わないんですか?そんなに好きなら邪魔でしょうに。」
最初から少し印象が変わった星彦さんの顔を見る。
暗い瞳は、角度のせいかロウソクの灯りすら反射してなかった。
「まさか。誰を好きになるかは麒臣君の自由だし、奥さんに何かあったら悲しむのは麒臣君だから……。」
「くだらない綺麗事ですね。」
「綺麗事じゃなくて、本当にそう思うから言ってるんですけど……」
星彦さんがじっと見すかすような瞳でこちらを見る。
何だか反らせなくて、その漆黒の目を僕も見つめ返した。
「貴方、相当の変わり者のようだ。」
しばらくそうした後、初めて星彦さんの声に感情が滲んだ気がした。
驚いているような、どこか喜んでるような。
「別に普通だと思いますけど……」
「そう思おうとしてる。普通からはみ出るのは怖いですか?」
「いや、うーん。僕、子供の頃蟻の巣の観察が好きだったんです。」
「はぁ。」
「蟻って綺麗に同じところ通るじゃないですか。でも、たまに道から外れて勝手に歩き出す子がいるんですよね。で、たまーにもっと良い道をその子が見つけるとみんな後からついていくんですよ。」
僕の話を星彦さんは訝しげながらも静かに聞いてくれる。
「けど、良い道を見つけられない子もいて、そういう子は独りでずっと巣の外を歩き回るんですよね。誰も探しにきてくれなくて。」
「そうなりたくないと。」
「違うんです。僕、そのずっと独りで巣にも帰らず彷徨ってる子が気になっちゃって。巣に戻すのも違う気がして、部屋で虫箱に入れて飼ったんです。」
星彦さんがまた目を細めた。
「1年くらいしたら寿命で死んじゃったんですけど、その時には大事な友達になってました。その子が変わり者で良かったです。」
「ふふっ」
笑い声の主を見れば、口角だけを上げて笑っていた。
やっぱりかと思う。
「みんなそうやって笑いますけど、蟻だって友達になってくれるんですよ。」
「そうですか。まあいいでしょう。依頼に入りましょうか。」
星彦さんは立ち上がって、後方にある襖を開けて隣室に入った。
しばらく待っていると、目だけ空いた頭巾を顔全体にすっぽり被り、香炉を手に帰ってくる。
香炉に入った練香に行灯から火を移し戻す。
しばらくすると甘みのあるしっとりした香の匂いがただよい始めた。
白檀のようだけど、初めて嗅ぐ香りだ。
「薬はありませんが、願いを叶えるため貴方に術をかけましょう。香りをよく吸い込んで、煙を見つめてください。」
くぐもった声が頭巾の中から聞こえる。
言われたとおりに香の匂いを吸い込み、白く揺れる筋を見つめた。
「相手が貴方をもっと激しく求めて止まなくなるように……」
「あ、今以上に激しくなると体が保たないのでそれはちょっと……孕ませてくれるようにだけできますか?」
「……承知しました。続けましょう。」
よし今度こそ。
深い呼吸で香りを取り込み、燃える塊からチラチラ覗く赤い光をぼうっと見つめた。
だんだん頭がハッキリしなくなって、視界が揺れてくる。
おかしいと感じた時には自力で座っているのも怪しくなっていた。倒れそうになる身体を、かろうじて手をついて支える。
「どうですか?」
「からだ……重くて、へん……」
「成功ですね。」
体の重さに気を取られていると、いつのまにかすぐ目の前に星彦さんがきて僕の体を押す。
ドサリと仰向けに倒れた所に上から覆い被さられた。
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