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第10話「ある日の朝」
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第10話「ある日の朝」
朝——。
窓から差し込む冬の光が、キッチンのステンレスに細い線を描いていた。
フライパンの上では何も焼かれていないのに、
バターの香りが残っている。
昨日の家政婦さんが掃除してくれたあとの、
ほのかな洗剤の匂いが空気に薄く漂っていた。
静かだった。
この家に義母たちが押しかけてきてから、
久しく感じていなかった“静けさ”だった。
私はテーブルの中央に、
白い布に包んだ封筒をそっと置いた。
封筒同士が触れ合い、わずかにこすれる音がした。
「ごはんできた?」
義妹が、欠伸をしながらリビングに入ってくる。
香水の甘さが、朝の空気に不釣り合いに濃い。
続いて義母が来て、
当然のように椅子へ腰を下ろした。
「今日はパン? 和食?」
命令するような声だった。
最後に夫。
寝癖のまま、スマホを見ながらダルそうに言う。
「腹減ったー。
あ、今日さ、掃除と洗濯よろしく」
その瞬間、私は静かに口を開いた。
「——朝食は作らないわ」
三人がピタリと動きを止める。
義妹が鼻で笑った。
「は? なにそれ。嫁の仕事でしょ?」
義母が呆れたように言う。
「朝からふざけないでよ。
やるべきことをやりなさい」
夫はテーブルを指で叩き、
「機嫌悪いのか? まぁいいけど、あとでちゃんと——」
私は、テーブルに置いた封筒の包みをゆっくり開いた。
中には——
四つの封筒。
光が当たって、
白い紙が冷たく輝く。
私は淡々と告げた。
「今日で、あなたたちとの生活は終わりです」
その一言で、
三人の顔色が変わった。
「……は?」
夫が乾いた声を出す。
「なに言ってんの、お前?」
私は一つ目の封筒を義母の前に置く。
『内容証明』
紙を置く音が、やけに大きく響いた。
義母が震える声で読む。
「“即時退去を求める”……?
……ちょ、え、なにこれ……?」
二つ目の封筒を義妹の前に。
『退去通知書』
義妹の手が震え、封筒がテーブルに落ちる。
「ちょっと! どういうことよ!
うちらが出ていくってこと!?」
「そうよ」
淡々と私は答えた。
「あなたたちは不法占拠。
私はあなたたちに“住む許可”を一度も出していない」
義妹の顔が赤から青に変わる。
「ふざけんな!! 兄ちゃんの家でしょ!?」
「違うわ。
この家は——土地も建物も、すべて私の名義よ」
義母の口から声にならない音が漏れた。
そして三つ目の封筒を夫へ差し出す。
『離婚届』
夫は封筒をしばらく見つめ、
状況が理解できずに口をぱくぱくさせた。
「……離婚? なんでだよ?」
私は静かに、しかし確実に言った。
「あなたが私を“家政婦”として扱い、
あなたの家族を無断で住まわせ、
生活費を要求し、
侮辱し続けたからよ」
夫が反射的に怒鳴る。
「お前だって働いてるんだろ!
家事ぐらい——」
私は夫の言葉を遮り、
四つ目の封筒をテーブルの中央へ。
『不法占拠・暴言・家事放棄の証拠一覧』
中には——
義母・義妹・夫の暴言音声、
家事放棄の動画、
金銭要求の録音、
生活費強要のメッセージ、
そして夫が自分の家族をかばい、私を侮辱する映像がすべて入っている。
私は静かに言う。
「全部、弁護士と共有済みよ」
三人の顔色が、
ゆっくりと、
確実に、
“死んだ魚の色”に変わっていく。
義母が悲鳴を上げた。
「こんなの……脅しよ!」
私は首を横に振った。
「いえ、事実です。
そして今日——正式にあなたたちの退去手続きを開始します」
義妹がテーブルを叩く。
「どこに住めっていうのよ!?
私たちは生活が……!」
「……それが私に何か関係あるかしら?」
義妹の唇が震えた。
夫が最後の望みのように言う。
「なぁ……やり直せないか……?
俺たち、家族だろ……?」
私は夫の目を一度だけ見た。
穏やかで、
怒ってもいない声で答える。
「いいえ。
あなたたちは“家族”じゃない。
私を利用した“寄生虫”よ」
夫の顔から完全に力が抜けた。
私は立ち上がり、
椅子が静かに床を滑る音がした。
「今日の正午、弁護士が来ます。
それまでに荷物をまとめてください」
義母の泣き声、
義妹の叫び声、
夫の崩れ落ちる音——
その全てを背中で聞きながら、
私はキッチンの窓を開けた。
冷たい朝の空気が流れ込んでくる。
洗剤の香りと混ざり合い、スッと肺に入った。
——ああ。やっと、呼吸ができる。
私は小さくつぶやいた。
「終わりよ。
今日、あなたたちの寄生生活は終わり」
そして静かに笑う。
“合法ざまぁ”の極みが、今、完了した。
朝——。
窓から差し込む冬の光が、キッチンのステンレスに細い線を描いていた。
フライパンの上では何も焼かれていないのに、
バターの香りが残っている。
昨日の家政婦さんが掃除してくれたあとの、
ほのかな洗剤の匂いが空気に薄く漂っていた。
静かだった。
この家に義母たちが押しかけてきてから、
久しく感じていなかった“静けさ”だった。
私はテーブルの中央に、
白い布に包んだ封筒をそっと置いた。
封筒同士が触れ合い、わずかにこすれる音がした。
「ごはんできた?」
義妹が、欠伸をしながらリビングに入ってくる。
香水の甘さが、朝の空気に不釣り合いに濃い。
続いて義母が来て、
当然のように椅子へ腰を下ろした。
「今日はパン? 和食?」
命令するような声だった。
最後に夫。
寝癖のまま、スマホを見ながらダルそうに言う。
「腹減ったー。
あ、今日さ、掃除と洗濯よろしく」
その瞬間、私は静かに口を開いた。
「——朝食は作らないわ」
三人がピタリと動きを止める。
義妹が鼻で笑った。
「は? なにそれ。嫁の仕事でしょ?」
義母が呆れたように言う。
「朝からふざけないでよ。
やるべきことをやりなさい」
夫はテーブルを指で叩き、
「機嫌悪いのか? まぁいいけど、あとでちゃんと——」
私は、テーブルに置いた封筒の包みをゆっくり開いた。
中には——
四つの封筒。
光が当たって、
白い紙が冷たく輝く。
私は淡々と告げた。
「今日で、あなたたちとの生活は終わりです」
その一言で、
三人の顔色が変わった。
「……は?」
夫が乾いた声を出す。
「なに言ってんの、お前?」
私は一つ目の封筒を義母の前に置く。
『内容証明』
紙を置く音が、やけに大きく響いた。
義母が震える声で読む。
「“即時退去を求める”……?
……ちょ、え、なにこれ……?」
二つ目の封筒を義妹の前に。
『退去通知書』
義妹の手が震え、封筒がテーブルに落ちる。
「ちょっと! どういうことよ!
うちらが出ていくってこと!?」
「そうよ」
淡々と私は答えた。
「あなたたちは不法占拠。
私はあなたたちに“住む許可”を一度も出していない」
義妹の顔が赤から青に変わる。
「ふざけんな!! 兄ちゃんの家でしょ!?」
「違うわ。
この家は——土地も建物も、すべて私の名義よ」
義母の口から声にならない音が漏れた。
そして三つ目の封筒を夫へ差し出す。
『離婚届』
夫は封筒をしばらく見つめ、
状況が理解できずに口をぱくぱくさせた。
「……離婚? なんでだよ?」
私は静かに、しかし確実に言った。
「あなたが私を“家政婦”として扱い、
あなたの家族を無断で住まわせ、
生活費を要求し、
侮辱し続けたからよ」
夫が反射的に怒鳴る。
「お前だって働いてるんだろ!
家事ぐらい——」
私は夫の言葉を遮り、
四つ目の封筒をテーブルの中央へ。
『不法占拠・暴言・家事放棄の証拠一覧』
中には——
義母・義妹・夫の暴言音声、
家事放棄の動画、
金銭要求の録音、
生活費強要のメッセージ、
そして夫が自分の家族をかばい、私を侮辱する映像がすべて入っている。
私は静かに言う。
「全部、弁護士と共有済みよ」
三人の顔色が、
ゆっくりと、
確実に、
“死んだ魚の色”に変わっていく。
義母が悲鳴を上げた。
「こんなの……脅しよ!」
私は首を横に振った。
「いえ、事実です。
そして今日——正式にあなたたちの退去手続きを開始します」
義妹がテーブルを叩く。
「どこに住めっていうのよ!?
私たちは生活が……!」
「……それが私に何か関係あるかしら?」
義妹の唇が震えた。
夫が最後の望みのように言う。
「なぁ……やり直せないか……?
俺たち、家族だろ……?」
私は夫の目を一度だけ見た。
穏やかで、
怒ってもいない声で答える。
「いいえ。
あなたたちは“家族”じゃない。
私を利用した“寄生虫”よ」
夫の顔から完全に力が抜けた。
私は立ち上がり、
椅子が静かに床を滑る音がした。
「今日の正午、弁護士が来ます。
それまでに荷物をまとめてください」
義母の泣き声、
義妹の叫び声、
夫の崩れ落ちる音——
その全てを背中で聞きながら、
私はキッチンの窓を開けた。
冷たい朝の空気が流れ込んでくる。
洗剤の香りと混ざり合い、スッと肺に入った。
——ああ。やっと、呼吸ができる。
私は小さくつぶやいた。
「終わりよ。
今日、あなたたちの寄生生活は終わり」
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“合法ざまぁ”の極みが、今、完了した。
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