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第11話「“家”の主人は誰か」
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第11話「“家”の主人は誰か」
昼前のリビング。
カーテン越しの光がたっぷりと差し込んで、
埃の粒が金色に舞っていた。
家具の木目が、光に照らされてしんと落ち着いた色に見える。
——この静けさが、今日で最後になる。
私はテーブルの前に立ち、ゆっくりと深呼吸した。
洗剤のほのかな香りが胸の奥まで届く。
義母、義妹、夫の三人は、
まだ現実を飲み込めずにいる。
義母が真っ先に声を上げた。
「こんなの、冗談よね?
家を出ていけなんて……ここは息子の家でしょ!」
私は目を細めて微笑んだ。
淡々と、しかし一言一言を正確に打ち込むように話す。
「違いますよ。
この家は——土地も建物も、すべて 私の名義 です」
義母の顔が、ぐにゃりと歪んだ。
「な……何を言って……!」
「登記簿を確認しました。
あなたの息子さんは 家主ではありません。
“住まわせてもらっている側”です。」
夫の喉が、ごくりと鳴る音が聞こえた。
義妹が椅子を蹴るように立ち上がった。
「じゃあ何!? 私たち、勝手に住んでたっていうの!?
そんなわけ——!」
私は淡々と封筒をテーブルに置いた。
紙が触れ合い、ほんの小さな音が部屋を切り裂く。
「“無断同居の不法占拠者”です。
あなたたちは一度も、私の許可を求めていませんね?」
義妹が震えた声をあげる。
「でも……兄ちゃんの家族でしょ!?
家族が住んで何が悪いのよ!」
私は首をかしげた。
「家主が“私”だからですよ」
空気が一瞬止まった。
義母がテーブルにしがみつくようにして叫ぶ。
「そ、そんな……!
息子のために作った家に決まってるでしょ!
あんたが勝手に名義にしたんだろ!?」
「違います」
私は真っ直ぐに義母を見る。
「夫はローンを組むだけの収入がなかった。
だから私が全額負担した。
当時、あなたも知っているはずですよ?」
義母の唇が震えた。
義妹が半ば泣きながら叫ぶ。
「じゃあ……じゃあ、私たちの住む場所はどうなるのよ!?
冬よ!? 出ていけなんて——!」
私は静かに言った。
「知りません」
義妹は絶句した。
「私はあなたたちの親でも、保護者でもありません。
住む場所を用意する義務は、私には一切ありません。」
夫がようやく声を絞り出す。
「……おまえ、ちょっと待てよ。
おふくろたちを追い出すなんて——」
私は夫を遮った。
「追い出すんじゃありません。
“出ていくのはあなたたち” です」
夫の顔から血の気が一気に引いていく。
その足がわずかに震えているのが見えた。
義母が叫ぶ。
「息子の家よ!? 息子の!!」
私はゆっくりと椅子に腰を下ろし、指先でテーブルを軽く叩いた。
その乾いた音が、三人の神経を逆撫でしていく。
「あなたの息子さんは——」
目を細め、穏やかに告げる。
「家主ですらないんですよ?」
義母の肩が震え、口を覆って固まった。
義妹は力が抜けたように椅子へ崩れ落ちる。
夫だけが、現実を認められなくて
「……なんとかなるよな?」
と口だけ動かす。
私はため息をひとつついた。
「なんとかなりません。
内容証明はもう送っています。
あなたたちは 七日以内に退去 してください。」
義母の瞳が涙でにじんだ。
「世間にどう思われるか……!」
「知りません」
私は淡々と答えた。
「私は、あなたたちに壊されていた日常を取り戻すだけです。
“家”を守るのは家主であり、
“家”を荒らした人間に居場所はありません」
義妹が搾り出すように言う。
「お願い……住まわせてよ……」
私は席を立ち、コーヒーの香りが残るキッチンへ向かった。
湯気がふわりと立ち、
その柔らかな温度が頬を撫でる。
振り返って言う。
「いいえ。
あなたたちの時代は、もう終わりです」
光の中で、
三人がゆっくりと崩れていくのが見えた。
昼前のリビング。
カーテン越しの光がたっぷりと差し込んで、
埃の粒が金色に舞っていた。
家具の木目が、光に照らされてしんと落ち着いた色に見える。
——この静けさが、今日で最後になる。
私はテーブルの前に立ち、ゆっくりと深呼吸した。
洗剤のほのかな香りが胸の奥まで届く。
義母、義妹、夫の三人は、
まだ現実を飲み込めずにいる。
義母が真っ先に声を上げた。
「こんなの、冗談よね?
家を出ていけなんて……ここは息子の家でしょ!」
私は目を細めて微笑んだ。
淡々と、しかし一言一言を正確に打ち込むように話す。
「違いますよ。
この家は——土地も建物も、すべて 私の名義 です」
義母の顔が、ぐにゃりと歪んだ。
「な……何を言って……!」
「登記簿を確認しました。
あなたの息子さんは 家主ではありません。
“住まわせてもらっている側”です。」
夫の喉が、ごくりと鳴る音が聞こえた。
義妹が椅子を蹴るように立ち上がった。
「じゃあ何!? 私たち、勝手に住んでたっていうの!?
そんなわけ——!」
私は淡々と封筒をテーブルに置いた。
紙が触れ合い、ほんの小さな音が部屋を切り裂く。
「“無断同居の不法占拠者”です。
あなたたちは一度も、私の許可を求めていませんね?」
義妹が震えた声をあげる。
「でも……兄ちゃんの家族でしょ!?
家族が住んで何が悪いのよ!」
私は首をかしげた。
「家主が“私”だからですよ」
空気が一瞬止まった。
義母がテーブルにしがみつくようにして叫ぶ。
「そ、そんな……!
息子のために作った家に決まってるでしょ!
あんたが勝手に名義にしたんだろ!?」
「違います」
私は真っ直ぐに義母を見る。
「夫はローンを組むだけの収入がなかった。
だから私が全額負担した。
当時、あなたも知っているはずですよ?」
義母の唇が震えた。
義妹が半ば泣きながら叫ぶ。
「じゃあ……じゃあ、私たちの住む場所はどうなるのよ!?
冬よ!? 出ていけなんて——!」
私は静かに言った。
「知りません」
義妹は絶句した。
「私はあなたたちの親でも、保護者でもありません。
住む場所を用意する義務は、私には一切ありません。」
夫がようやく声を絞り出す。
「……おまえ、ちょっと待てよ。
おふくろたちを追い出すなんて——」
私は夫を遮った。
「追い出すんじゃありません。
“出ていくのはあなたたち” です」
夫の顔から血の気が一気に引いていく。
その足がわずかに震えているのが見えた。
義母が叫ぶ。
「息子の家よ!? 息子の!!」
私はゆっくりと椅子に腰を下ろし、指先でテーブルを軽く叩いた。
その乾いた音が、三人の神経を逆撫でしていく。
「あなたの息子さんは——」
目を細め、穏やかに告げる。
「家主ですらないんですよ?」
義母の肩が震え、口を覆って固まった。
義妹は力が抜けたように椅子へ崩れ落ちる。
夫だけが、現実を認められなくて
「……なんとかなるよな?」
と口だけ動かす。
私はため息をひとつついた。
「なんとかなりません。
内容証明はもう送っています。
あなたたちは 七日以内に退去 してください。」
義母の瞳が涙でにじんだ。
「世間にどう思われるか……!」
「知りません」
私は淡々と答えた。
「私は、あなたたちに壊されていた日常を取り戻すだけです。
“家”を守るのは家主であり、
“家”を荒らした人間に居場所はありません」
義妹が搾り出すように言う。
「お願い……住まわせてよ……」
私は席を立ち、コーヒーの香りが残るキッチンへ向かった。
湯気がふわりと立ち、
その柔らかな温度が頬を撫でる。
振り返って言う。
「いいえ。
あなたたちの時代は、もう終わりです」
光の中で、
三人がゆっくりと崩れていくのが見えた。
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