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二投目
落ち着け俺
しおりを挟む「ねぇ唯川くん」
教室に入り、重たい荷物を机に下ろした時だった。
突然耳に届いた高い声に、ん? と顔を向ける。
「……どうかした?」
最初に目に入ったのは、ボブカットの矢代だった。それから少し後ろに目をやれば、彼女といつもつるんでいるポニーテールの女子──横田の姿もある。
「あ、えっとね。唯川くんはさ、何の種目に出るかもう決めた?」
「あー」
種目……そう言えばそうか。
今矢代に言われて思い出したが、今日の1時間目は、あと2週間ちょっと後に控えた体育祭の種目決めをするんだった。
よく見ると、黒板には種目名がずらりと並んでいる。体育委員のやつが授業開始に間に合うよう、前もって書いておいたんだろう。
「まだ決めてねーや」
「そっかー」
「で? 矢代と横田は決めてんの?」
「んー、私たちはどうしようかなって」
「「……ねえ」」
…………はーん。なるほど? なんか二人して妙にソワソワしてんなと思ったら、そういうことね。
これは滉大に一番近い俺に探りを入れて、あわよくば同じ競技に出られたらいいなーっていうアレってわけだ。
んなまどろっこしいことせず、本人に直接聞きゃあいいのに。
そう思いチラッと視線を動かすと、ちょうど前の席の男と話すアイツの横顔が目に入った。それも、憎たらしいほど楽しそうに笑っている。
……あー、なんかアイツの顔見てるとまたムカムカしてきた。
「唯川くん?」
「へっ」
矢代の不思議そうな目と目が合い、瞬時に目を覚ます。
ああーー、ダメだダメだ。落ち着け俺。深呼吸。
「大丈夫……?」
「ああ、なんとも。それより二人とも悪ぃな。俺も滉大が何に出るのか知らねーんだよ」
「えっ! や別に、そんなっ!」
「えっと、私はその……」
「いーって、いーって。なんなら、聞いてきてやろうか?」
直接聞くのが恥ずかしいとかいうんなら、代わりに俺が。と思って提案したつもりだったんだが。
「ううん、大丈夫。ありがとう唯川くん。行こ、りりちゃん」
「うんっ」
なんだよ、遠慮しなくていいのに。
逃げるように立ち去った二人に、俺はうーんと唸りながら首を捻った。
知りたいのか、知りたくないのか。女子ってやっぱ、よくわからねえや。
*
話し合いの結果、俺は滉大と共に龍馬に巻き込まれ、〝スウェーデンリレー〟への出場が決まった。
スウェーデンリレーとは、100、200、と順に走る距離が増えていく、4人一組のリレー競技なんだが……。その中でアンカーを任された俺は、400mを走る。
『お願い大智くん……♡』
と超うるっうるの4つの瞳に見つめられたら、誰だって承諾せざるを得ないだろ?
……とまあ、半分押し付けられたみたいで多少は不服な気もするが、走るのはもとより得意でね。スタミナと脚にはちょっと自信があるもんだから、寧ろバッチコイってやつだ。
そんなこんなで迎えた、休み時間。
まずはと向かったのは、先程俺らイツメンと共にスウェーデンリレーに出る運命になった、背の高いひょろっとした男の席だった。
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