44 / 67
七投目 滉大side
眩しい太陽
しおりを挟む大智は、とにかく声の大きいやつだった。円陣の時も、守備に声をかける時も、急に『よっしゃいくぞーーーー!』なんてバカでかい声を出すんだ。
おまけにアイツは自信たっぷりな顔でマウンドに立つ。さんざめく太陽を前に、気圧されないバッターはいなかった。
俺は試合中、大智に驚かされてばかりだった。
もちろん、そのあとにも。
『千早くん? だっけ。さっきはめちゃくちゃかっこよかったなあ~!』
選手たちが対面する形で並ぶ中、大智はどんな顔したと思う? 普通、負けた相手には見せられない屈託のない笑顔だ。
……変なやつ。
そんな変なやつと俺は、高校でクラスメイトになった。
『なあなあ滉大~』
いきなり呼び捨て?
と思ったが、そのまま『なに?』と返す。
桜が満開の入学式、一連の流れを終え教室の席に着いてからのことだった。
大智はニヤリと子どもみたいに笑ったかと思えば、ペンを片手にノートを胸の前に構えた。
『血液型は何型? 誕生日は? ペットは飼ってる? 好きな食べ物はなに? 逆に苦手な食べ物ある?』
この時、初めて注文が早すぎて聞き取れない店員の気持ちがわかった気がする。
俺はなんとか記憶を手繰り寄せながら、
『AB型、3月21日、いない、カレー、ミニトマト』と答えた。
答えたあとも、質問は止まらなかった。ノート全ページ埋まるんじゃないかって思うくらい、止まらなかった。
『あ、ちなみに俺はO型の獅子座ね』
ついでに大智は、メモを取りながら訊いてないことまで教えてくれた。
次の日。
『滉大!』
『ん?』
教室に入るなり正面から声をかけられた。
言わずもがな、声の主は大智だ。
席に鞄を置くや否や、その目がキラキラと輝きを増す。
『なあ知ってる? 妹から聞いたんだけどさ。獅子座と牡羊座って結構相性いいらしいぜ』
何を言い出すのかと思えば、占いの話?
世紀の大発見でもしたような言い方だな、なんて呆れていると、先程までは丸く輝いていた目がニカッと細くなった。
『俺ら、最強のバッテリーになれるかもな!』
俺は元々友達と騒いだりするタイプじゃない。
他人に心を見せるのが、得意じゃないから。
クールだとか、王子みたいだとよく形容されることがあるけれど、それもただ人を傷つけるのが怖いだけ。
だから大智は俺の苦手ど真ん中な人間のはず、なのに。
──フッ。
自然と口角は上がっていた。
理由はわからない。ただ、眩しいはずの光が、俺にはちょうど心地よかった。
野球部に入った俺たちは、いつしかバッテリーを組んでいた。
初めてアイツの球を受けた時の衝撃を、俺は今でも忘れられない。
うまく言葉にできないけれど、〝しっくりくる〟ってこういうことなのだと、その時思った。
そうやって練習の日々を重ねていくうちに、大智が俺と同じ夢を持っていることを知った。
一緒に甲子園に行きたいと、伝えてくれた。
『甲子園に行くまでは、野球のことだけ考えようぜ』
それは邪念なんて全て取っ払って、ただひたすらに甲子園を目指すという誓い。
二人で、なにがなんでも叶えてやるんだ──。
俺たちは青空に宣言するように、拳を突き合わせた。
0
あなたにおすすめの小説
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
恋は、美味しい湯気の先。
林崎さこ
BL
”……不思議だな。初めて食べたはずなのに、どうしてこんなに懐かしいのだろう”
外資系ホテルチェーンの日本支社長×飲食店店主。BL。
過去の傷を心に秘め、さびれた町の片隅で小さな飲食店を切り盛りしている悠人。ある冬の夜、完璧な容姿と昏い瞳を併せ持つ男が店に現れるが……。
孤独な2人が出会い、やがて恋に落ちてゆく物語。毎日更新予定。
※視点・人称変更があります。ご注意ください。
受(一人称)、攻(三人称)と交互に進みます。
※小説投稿サイト『エブリスタ』様に投稿していたもの(現在は非公開)を一部加筆修正して再投稿しています。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
猫を拾おうと思ったら人魚を拾っていました。
SATHUKI HAJIME
BL
流されている猫を助けようと海に飛び込んだ新井詩歌(アライ シイカ)だったが溺れてしまい、人魚のハウに助けられる。猫を飼いたかったと言う新井に自分のことを飼ってみないかとハウが持ちかけ、新井はお礼として一時だけハウを家に置くことにした。
坂木兄弟が家にやってきました。
風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。
ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる