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七投目 滉大side
大智の幸せ
しおりを挟む風呂から上がると、俺は早々に部屋着に着替えを済ませ、リビングに戻った。
少し長湯しすぎた。いつもより火照った顔を扇風機で鎮めながら、濡れた髪をタオルで拭いていく。
「髪の毛乾かしたらご飯よ」
「了解」
姉貴に促されるまま、洗面所でドライヤーをかける。そのうちに親父が仕事から帰ってきた。
家族3人で囲う食卓。今日の夕飯は、匂いから予想した通り、好物のカレーだった。
*
次の日、俺はいつものように朝練に向かった。
正直昨日のこともあり少し気まずい気持ちもあったが……大智は昨日の不調が嘘みたいに、調子を取り戻していた。
「大智、ナイス!」
「おうっ」
ほっとした。やはりあの時の選択は、間違ってなかったんだ──。
朝練終了直後の部室は、男たちの熱気で溢れかえる。
6月も後半になり、ただでさえ外にいるだけで汗ばむくらいだというのに、ここは灼熱地獄のような空間だ。
「あーきもちーーーっ」
隣で長谷が自販機で買ったジュースを頬に当て、帽子を団扇替わりにして扇いでいる。
そんな光景をつい微笑ましく思っていると、ふとある一箇所に目を奪われた。
……アイツ、あんな所につけてたんだ。
隣の長谷の更に一つ隣で着替えをする大智の、エナメルバッグ。その取っ手部分に取り付けられていたのが、この間女子からもらった御守りだと気づいた。
『この前もっさんが彼女から貰ってたの見ただろ? あれ、ちょっと羨ましかったんだよな~』
そう言って、嬉しそうな顔をする大智に少しだけ痛んだ胸。けれど仕方ないと受け入れた、それ。
思えば体育祭あたりから予感はあったが、御守りを受け取ったあの日、確信したんだ。
あの子は……横田さんは、俺と同じ気持ちなんだと。
当の大智は、そんな想いには微塵も気づいてないんだろうけど。気づくな、なんてずるいことを思う自分がいて嫌になる。
……もう諦めたつもりなのに、未練タラタラかよ。
早くも鳴きだした蝉の声が、はりぼてな心を嘲笑うように鼓膜を揺らした。
アイツは普通に女の子と恋愛して、普通の家庭を持って、そうやって過ごすのが幸せなのかもしれない。
俺は大智が幸せなら、それでいいんだ。
このまま、二人で夢の甲子園を目指せるなら──。
よし、と気を引き締めて重たい鞄を肩にかける。そのまま一人部室から一歩踏み出した、時だった。
「滉大!」
俺は先にそこにいた誰かに、腕を掴まれた。
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