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九投目
俺ん家
しおりを挟むそうして炎天下の中、重い荷物を抱え滉大に着いて歩くこと、数十分。
「……ここは?」
ようやく足が止まったかと思えば、そこはどこかの立派な一軒屋の前だった。黒い屋根にオシャレなグレーの壁。厳かな門が玄関の前にあって、駐車場も中々の広さに見える。
「俺ん家」
当然のように落とされた声が、耳にこだまする。と同時に目に入ったのは、〝千早〟の表札だった。
けれど頭は追いつかない。
俺ん家というのは、俺の家ということで、俺は滉大だから滉大の家ということで、えっと……。
「あー、作戦会議だもんな! 部屋での方が集中でき──」
「あんなの、ただの口実に決まってんじゃん」
「……っ」
キリッとした眉にクールな瞳。
飛び込んできた表情と声に、捻り出したはずの言葉は即座に奪われた。
程なくして、顔が熱を帯びてゆく。
意味わかんねえ。誰かに聞かれた時の保険だとしても、部室では『プレーの相談があるんだ』なんて真剣な顔で言ってたくせに。
「今日は大切な日だろ? だから俺は大智と二人でゆっくり過ごしたいって思ってたんだけど。……大智は、違った?」
「っ、違わねえよ。俺だってその、滉大といたいというか……」
ずるい。いつもは凛々しい男前な顔が、子犬みたいに愛らしくなるのは卑怯だ。
もにょもにょと言葉を濁す俺に、滉大が目線を合わせてくる。
「なら、俺に大智の誕生日祝わせてよ」
「でも急に家とか……」
そこまで言って、ハッと口を噤んだ。しかし遅かったらしく、刹那に生まれる静寂。時計の針が止まったみたいに、滉大の身体もピタリと固まっている。
……どうやら、俺は言葉を間違えたみたいだ。
「あのっ、俺」
「なに、家だったら緊張しちゃう?」
「違っ!」
「ふーん」
ニヤリ、悪戯っぽく上げられた口角を前に、全身が強ばるのを感じた。
ただ家に入るだけだってのに、意識しすぎだろって? うん、自分でもそう思う。でも、仕方ないんだって。
俺はその時思い出してしまったんだ。
……滉大は。滉大は俺と〝ああいうこと〟したいと思ってんのかな?
そんなことを考えてしまった、あの日のことを。
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