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第4話 無神経な婚約者
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宰相の邸宅は広大な城の敷地の中にあった。
3階建ての立派な邸宅はまるで城の別館ではないかと思うほどに美しい外観だった。
「知らなかったわ……あれが宰相の邸宅だったなんて」
私は、ほとんど城に来たことはない。
本来なら、婚約者のジェレミーが近衛兵として務めているのだから彼に会いに来ても良かった。
だが、彼は私が城へ来ることを良しと思っていなかったのだ。
きっと私のような平凡な女が婚約者だということを周囲に知られたくは無かったのだろう。
だから私は遠慮して、城に行くことを避けていた。
……全てはジェレミーの為に。
それなのに、私の気持ちを知りもせずに彼は得意げに説明する。
「そうなんだ、宰相は有事の際にすぐに登城出来るように城の敷地内に屋敷を構えているんだ。そこで、たまたまミランダ嬢が俺を見かけて……気に入られてしまったようなんだ」
少しだけ頬を赤らめるジェレミー。
「もしかして、ミランダ嬢は美人なのかしら?」
「そうだな、美人……というよりは、とても愛らしい女性だ。なんというか、庇護欲を掻き立てられると言うか……しっかり者のヴァネッサとは、真逆のタイプだよ」
この男は……私に対して、失礼なことを言っているとは気付いていないのだろうか?
よりにもよって、まだ婚約解消もしていない私の前で別の女性の話をうっとりした眼差しで語るなんて。
「そう、とても愛らしい女性なのね? 私も会うのが楽しみだわ」
自分の怒りの感情を抑えて、その後も笑顔でジェレミーと会話を続けた――
****
ジェレミーとやってきたのは、黄昏時の美しいバラ園だった。
「このバラ園の奥にガゼボがあって、そこでミランダ嬢と待ち合わせをしているんだ」
随分と慣れた様子で、先へ進むジェレミー。
「ねぇ、もしかしてもう何度もここへ来たことはあるのかしら?」
まさかと思いつつ、尋ねてみた。
「それほどでもないかな……今日で7回目だよ」
「7回!」
その回数に驚いていしまった。私の知らないところで、いつの間に2人はそれほどの逢瀬を重ねていたのだろう?
これは……もう、完全に私に対する裏切りだ。
「どうかしたのか?」
私の前を歩いていたジェレミーが足を止める。
「い、いえ。何でもないわ。ただ、7回もこのステキな場所に来ていたのかと思って驚いただけよ」
「ヴァネッサもそう思うのか? てっきり花には興味が無いと思っていたのに……意外だったな」
「そうよ。花は見ていると和むじゃない」
「ふ~ん。そういうものか」
そして、ジェレミーは再び前に進み始めた。
そんな彼の後ろ姿を見つめながら思う。
ええ、ええ。そうでしょうとも。
ジェレミーは私に微塵の興味も無かったのだ。私は花が好きだ。夢は誕生日に抱えきれない花束をジェレミーから貰うことだった。
けれど、彼が毎年くれたのは本だった。
『ヴァネッサは本が好きだろう?』
そう言って彼がプレゼントしてくれたのは、その年にベストセラー入した本だったのだ。
……多分、私が図書館司書になったのはジェレミーがプレゼントしてきた本が影響されていたのかもしれない。
少しの間、無言でバラ園の中を進んでいると……ついにオレンジ色の太陽に照らされた石造りのガゼボが現れた。
「お待ちしておりましたわ! ジェレミー様!」
すると、突然バラ園に女性の声が響き渡った――
3階建ての立派な邸宅はまるで城の別館ではないかと思うほどに美しい外観だった。
「知らなかったわ……あれが宰相の邸宅だったなんて」
私は、ほとんど城に来たことはない。
本来なら、婚約者のジェレミーが近衛兵として務めているのだから彼に会いに来ても良かった。
だが、彼は私が城へ来ることを良しと思っていなかったのだ。
きっと私のような平凡な女が婚約者だということを周囲に知られたくは無かったのだろう。
だから私は遠慮して、城に行くことを避けていた。
……全てはジェレミーの為に。
それなのに、私の気持ちを知りもせずに彼は得意げに説明する。
「そうなんだ、宰相は有事の際にすぐに登城出来るように城の敷地内に屋敷を構えているんだ。そこで、たまたまミランダ嬢が俺を見かけて……気に入られてしまったようなんだ」
少しだけ頬を赤らめるジェレミー。
「もしかして、ミランダ嬢は美人なのかしら?」
「そうだな、美人……というよりは、とても愛らしい女性だ。なんというか、庇護欲を掻き立てられると言うか……しっかり者のヴァネッサとは、真逆のタイプだよ」
この男は……私に対して、失礼なことを言っているとは気付いていないのだろうか?
よりにもよって、まだ婚約解消もしていない私の前で別の女性の話をうっとりした眼差しで語るなんて。
「そう、とても愛らしい女性なのね? 私も会うのが楽しみだわ」
自分の怒りの感情を抑えて、その後も笑顔でジェレミーと会話を続けた――
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ジェレミーとやってきたのは、黄昏時の美しいバラ園だった。
「このバラ園の奥にガゼボがあって、そこでミランダ嬢と待ち合わせをしているんだ」
随分と慣れた様子で、先へ進むジェレミー。
「ねぇ、もしかしてもう何度もここへ来たことはあるのかしら?」
まさかと思いつつ、尋ねてみた。
「それほどでもないかな……今日で7回目だよ」
「7回!」
その回数に驚いていしまった。私の知らないところで、いつの間に2人はそれほどの逢瀬を重ねていたのだろう?
これは……もう、完全に私に対する裏切りだ。
「どうかしたのか?」
私の前を歩いていたジェレミーが足を止める。
「い、いえ。何でもないわ。ただ、7回もこのステキな場所に来ていたのかと思って驚いただけよ」
「ヴァネッサもそう思うのか? てっきり花には興味が無いと思っていたのに……意外だったな」
「そうよ。花は見ていると和むじゃない」
「ふ~ん。そういうものか」
そして、ジェレミーは再び前に進み始めた。
そんな彼の後ろ姿を見つめながら思う。
ええ、ええ。そうでしょうとも。
ジェレミーは私に微塵の興味も無かったのだ。私は花が好きだ。夢は誕生日に抱えきれない花束をジェレミーから貰うことだった。
けれど、彼が毎年くれたのは本だった。
『ヴァネッサは本が好きだろう?』
そう言って彼がプレゼントしてくれたのは、その年にベストセラー入した本だったのだ。
……多分、私が図書館司書になったのはジェレミーがプレゼントしてきた本が影響されていたのかもしれない。
少しの間、無言でバラ園の中を進んでいると……ついにオレンジ色の太陽に照らされた石造りのガゼボが現れた。
「お待ちしておりましたわ! ジェレミー様!」
すると、突然バラ園に女性の声が響き渡った――
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