32 / 101
第29話「異常に静かな隣人の部屋」
しおりを挟む
ようこそ、黒天の怪録へ。
今宵、語るのは――あまりに“静かすぎる部屋”の話。
――――
これは、ある視聴者から届いた投稿だ。
都内のワンルームマンションで一人暮らしをしていた青年、リョウの体験談。
築浅、駅チカ、家賃もそこそこ。リョウにとって、その部屋は完璧な条件だった。
ただ、ひとつだけ――引っ越した初日から“違和感”を抱いていた。
「隣人の気配が、まったくしない」
両隣とも入居者はいるはずだった。
契約の時、大家に「右隣には単身の会社員、左隣には若い女性が住んでますよ」と説明されたという。
だが、何日経っても、物音ひとつ聞こえてこない。
特に、左隣の部屋は異常だった。
夜中でも早朝でも、物音は一切しない。
話し声、テレビ、シャワー、ドアの開閉音――すべてゼロ。
生活感が完全に“無音”だった。
リョウは最初、それを気にも留めていなかった。
静かでラッキーくらいに思っていたらしい。
でも、ある日、ふとした瞬間に気づいたという。
「俺が部屋にいるとき、壁越しに“視線”を感じるんだ」
コンセントの裏、エアコンの通気口、押し入れの天井……視線があるはずのないところから、“見られてる”感覚。
見えないはずの誰かに、常に観察されているような――不快なざわめき。
ある日、友人が遊びに来た時のこと。
「お前んちの隣、誰も住んでないんじゃね? だってあまりに静かすぎるもん」
と言われて、妙な気持ちになった。
その夜、リョウは試しに壁に耳を当ててみた。
まったく、何の音も聞こえなかった。
……いや、違う。聞こえたのだ。
“耳のすぐ向こう”で、誰かが静かに息をしていた。
壁の中に、誰かがいる。
その確信だけが、心臓を冷たく締めつけた。
翌日、リョウは思い切って管理会社に問い合わせた。
「左隣の方って、本当に住んでますか?」
だが、返ってきたのは思いもよらない答えだった。
「ええ……ずっと前から住んでおられますよ。5年ほど前から、契約は継続中です。
ただ、ここだけの話――一度も、更新時に顔を見せたことがないんです。すべて郵送で済まされていて」
さらに、管理人の老婆がこっそり言った。
「あの部屋ね……時々、中から“音”がするのよ。人がいないはずの時間帯に、トントンって、壁を叩く音が」
リョウは耐えきれず、その日のうちに部屋を出た。
荷造りもそこそこに、ホテルに避難したという。
……けれど、その夜。
ホテルの部屋の壁から――再び、あの息遣いが聞こえた。
同じ音、同じ間隔。
まるで、“何か”が、壁の中に潜ってついてきたような気配。
リョウはそれ以来、引っ越しを繰り返している。
住む部屋ごとに、“静かな隣人”がついてくる。
どの壁にも、気配がある。
彼は今も言う――
「隣人は、いるよ。どこにでも。俺の真横の壁の中で……じっと、息を潜めてるんだ」
――――
……さて、今宵の怪録はここまで。
あなたの隣の部屋、今夜も静かかな?
……“静かすぎる”ときは、気をつけた方がいい。
今宵、語るのは――あまりに“静かすぎる部屋”の話。
――――
これは、ある視聴者から届いた投稿だ。
都内のワンルームマンションで一人暮らしをしていた青年、リョウの体験談。
築浅、駅チカ、家賃もそこそこ。リョウにとって、その部屋は完璧な条件だった。
ただ、ひとつだけ――引っ越した初日から“違和感”を抱いていた。
「隣人の気配が、まったくしない」
両隣とも入居者はいるはずだった。
契約の時、大家に「右隣には単身の会社員、左隣には若い女性が住んでますよ」と説明されたという。
だが、何日経っても、物音ひとつ聞こえてこない。
特に、左隣の部屋は異常だった。
夜中でも早朝でも、物音は一切しない。
話し声、テレビ、シャワー、ドアの開閉音――すべてゼロ。
生活感が完全に“無音”だった。
リョウは最初、それを気にも留めていなかった。
静かでラッキーくらいに思っていたらしい。
でも、ある日、ふとした瞬間に気づいたという。
「俺が部屋にいるとき、壁越しに“視線”を感じるんだ」
コンセントの裏、エアコンの通気口、押し入れの天井……視線があるはずのないところから、“見られてる”感覚。
見えないはずの誰かに、常に観察されているような――不快なざわめき。
ある日、友人が遊びに来た時のこと。
「お前んちの隣、誰も住んでないんじゃね? だってあまりに静かすぎるもん」
と言われて、妙な気持ちになった。
その夜、リョウは試しに壁に耳を当ててみた。
まったく、何の音も聞こえなかった。
……いや、違う。聞こえたのだ。
“耳のすぐ向こう”で、誰かが静かに息をしていた。
壁の中に、誰かがいる。
その確信だけが、心臓を冷たく締めつけた。
翌日、リョウは思い切って管理会社に問い合わせた。
「左隣の方って、本当に住んでますか?」
だが、返ってきたのは思いもよらない答えだった。
「ええ……ずっと前から住んでおられますよ。5年ほど前から、契約は継続中です。
ただ、ここだけの話――一度も、更新時に顔を見せたことがないんです。すべて郵送で済まされていて」
さらに、管理人の老婆がこっそり言った。
「あの部屋ね……時々、中から“音”がするのよ。人がいないはずの時間帯に、トントンって、壁を叩く音が」
リョウは耐えきれず、その日のうちに部屋を出た。
荷造りもそこそこに、ホテルに避難したという。
……けれど、その夜。
ホテルの部屋の壁から――再び、あの息遣いが聞こえた。
同じ音、同じ間隔。
まるで、“何か”が、壁の中に潜ってついてきたような気配。
リョウはそれ以来、引っ越しを繰り返している。
住む部屋ごとに、“静かな隣人”がついてくる。
どの壁にも、気配がある。
彼は今も言う――
「隣人は、いるよ。どこにでも。俺の真横の壁の中で……じっと、息を潜めてるんだ」
――――
……さて、今宵の怪録はここまで。
あなたの隣の部屋、今夜も静かかな?
……“静かすぎる”ときは、気をつけた方がいい。
2
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる