あなたのそばで猫になる

たかはし 葵

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スイーツな、吐息

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 彼の手が後頭部に回り、私の髪留めを外した。
 ふわり、私の猫っ毛がシーツに広がると、何故か途端に彼の顔が赤くなった。

 え、どうして。


「………やられた。反則だ」
「え、何が?」
「髪、濡れたまま纏めてただろ。髪留め外すとシャンプーの匂いがね、たまんない」
「な、何それ……っ」
「律……、好きだ。どうしたらいいのかわからないくらい、好きだよ」
「…………っふ」


 “私も”と言いたかったけれど、声を飲み込んでしまった。耳の後ろに彼の唇を感じたから。
 ちゅっ、という音が耳のすぐ近くで聞こえて、くすぐったさに身を捩る。
 首筋に触れる熱い吐息に、背筋を駆け上る何かを感じて、息を詰めて耐えていた。


「声、我慢しちゃダメだよ。気持ちいい時は“気持ちいい”って、素直に声にして」


 そんな高度なこと、出来るわけがない。
 唇を拳で覆ったまま、ふるふる、と首を振る。


「またそんな涙目で。苛めてるみたいな気になるだろ」
「………ん、ふ」


 そっと拳が外されて唇が重なると、軽く触れ合わせただけで、すぐに離れてしまう。

 待って。恥ずかしいけど、離れたくないの。

 彼の首に腕を回すと、まるでそれを待っていたかのように、唇が再び重ねられた。今度は有無を言わせない強引な舌にこじ開けられて、私はまた苦しくなる。息が上手くできない。


「………ん、………ん」


 キスに必死に応えていると、ワンピースの生地が僅かに上に持ち上がる。目は開けられないけれど、多分前ボタンを一つずつ外す気配。その丁寧な指さばきに、彼の過去を思い、私は軽い嫉妬を覚える。

 けれど、それも一瞬のこと。目を閉じているから次の行動は、まだ読めない。ボタンの外れた分だけ、彼の手のひらの熱がワンピースの内側に滑り込む。ひんやりとした部屋で、ふたりの吐息と身体だけが熱い。


「………ふ、ぁ、」


 彼は唇を首筋に移動させると、その濡れた唇で首筋をみ、私の胸に手のひらで円を描く。
 柔らかく加減された力、それだけで息が弾んでいく。


「右と左、どっちが感じるのかな」


 そんな声が聞こえるけれど、何のことか、わからない。
 ブラに擦れて、もう尖端は左右とも硬くなっている。少しの刺激にも痛いくらいに感じる。


「やぁ………っ。んん、ん……」


 いきなり左胸だけがブラをずらされ、尖端をくりくりと摘ままれて声が上がる。身を捩れば肩のストラップが肩を滑り落ちる。
 もう本当に嫌がってはいないのに、口をついて出るのは否定の言葉ばかり。


「いや?ここが硬いのは、感じてるからじゃないの?」


 絶対、わかっていて言っている。彼に触られるのなら、どこもかしこも気持ちいいってこと。

 彼が身体を起こし、まだ覆われていた右側の胸も晒されてしまった。
 揉みしだく、という表現が近いのだろう。私の胸は彼の手で、自在に形を変えている。身体の内側が熱い。


「んっ、ふ………、あ、ぁん」
「生足とか、白い下着とか。全身白って、好きな子がすると、すごいエロいんだな」
「やっ、しらな………ひゃっ」


 最初から足の間に割って入られているから、ワンピースの裾はとうに太腿までを露わにしている。もう隠しようがないのに、つい抵抗してしまう。

 私が裾を押さえるより早く、彼の左の指先に太腿の内側をするりと撫でられた。上へと上がるその手のひらに肌が粟立つ。

 彼の手はすぐに私のショーツにたどり着き、すぐにウエストに手を掛けた。


「な、何脱がして……」
「え?だってほら、濡れちゃうと気持ち悪いんでしょ」
「そ、そうだけど、それってどうなのー!」


 情緒とか!そういうのが!


「ごめん、俺へのプレゼントだと思って諦めて好きにさせて」
「えーーー!待って、待ってよ、まだ私、二回目だから!………うぁ」


 ショーツをベッドの下に落とした彼が素早く戻ったと同時に、胸の尖端を彼の唇に覆われる。そのまま軽く吸われたら、足の間がジワリと熱くなった。


「あぁっ……、んん、や、吸っちゃだめぇっ」


 足の抵抗は彼の膝で止められ、閉じることができない。
 胸への刺激でまた、初めての時のように次の動作に気付けない。秘裂に彼の指先を感じた時にはもう、そのぬるりとした感触に、羞恥の涙が目尻に溜まった。


「胸、ちゃんと前より感じてるみたいだ。ここもしっかり濡れてるよ」
「し、しらない………っ。そこで喋らない、で………。ふ、あぁっん!」


 彼の指先は滑らかに前後する。粒に触れると時々わざと強めに捏ねている。


「ちょっと待ってて」


 あぁ、もう彼が何をしているのかわかってしまう。カサカサと、袋を破る音。もう挿れられてしまうのだろうか。

 次に来る痛みを覚悟して身体を硬くしていると、両膝がゆっくりと開かれた。


「や、見ないでぇっ」


 隠そうとした手首が、大きな手でひとつに纏められて、抵抗を止められてしまう。
 彼の頭が沈み込み、空いた手で私の太腿を掴むと、その付け根の線を舌でなぞった。新しい、知らない感触に泣きたくなる。

 舌でなぞられた太腿は、突如強く吸われた。


「あぁ………っ!ん、やめ、ふぁっ」


 私の中から、熱い何かが溢れてしまう。じわり、零れるものに、頭がパニックになる。
 その蜜を掬うように彼の指先が私の中につぷりと埋められると同時に、また少しずれた所を吸われて身体が跳ねた。


「太腿、すごい感じるんだな」
「あっ、あぁ……っ、や、やめっ」


 中に入った指先が抜き差しされる感覚にも、この前とは違う快感が呼び覚まされていた。自分の意思ではコントロールできない蜜が、後から溢れて止まらない。


「おっと。このままじゃ服も濡れちゃうな。はい、脱ごうね」


 急に指先が抜かれて中が切ない。抱き起こされて、ワンピースが脱げるとブラまで一緒に抜き取られてしまった。胸が晒されるのはまだ慣れなくて慌てて上半身を縮めると、すぐに身体が横たえられた。


 焦点の合わない目で彼を見上げると、瞼にキスが落ちてきた。
 また、彼の指先を秘裂に感じる。
 怖い。この刺激は強すぎるのに。


「ぁっ、や、やだっ、かお、見ないで……っあ、あ……っ」


 懇願は聞き入れられない。
 彼は私の目から、表情から目を逸らさない。

 二本めの指を差し込まれながら、粒も軽く捏ねられたら腰が勝手に揺れていた。こんなの、私じゃない。


「いやっ、ダメ、もう……っ」
「イくの?」


 見てるなんて意地悪だ、って思うより先に、コクコクと頷いてしまっていた。


「ん、あぁ…………っ!」


 瞼の裏が白く光る。光がいくつも点滅する。
 身体はギュッと硬直した後にゆるやかに弛緩した。
 汗が吹き出す。それだけじゃない、引き抜かれた指とともに、蜜がいっぱい溢れる感覚。


「ふぁ………っ」
「挿れるよ」
「え、ま、待って、まってぇ………っ」
「無理。ごめんね」
「や、ぁ……ぁ………」
「きっつ。もっと解せばよかったかな………っ」


 腰を抱えられていた。
 彼のものは、この間よりも幾分スムーズに私の中に埋められていく。拡げられるとやっぱり痛いけど、我慢できないほどじゃない。ちゃんと、慣れるものなんだなぁ。


「ん……、ん………」
「ほら、息して」
「……は、んん……っ」


 お腹が苦しい、と訴える間もなく、腰が抱え直された。


「………っは、気持ちい………。ごめん、動く」


 緩やかに身体が揺らされて、ようやく息がつける。ゆったりと、私を気遣うように。けれど時折もっと奥まで入ろうとしているようで。
 本当は、激しくしたいと思っているんだろうか。

 入ってきた時に感じた重く気怠い痛みは、もうなくなっていた。全く痛くないわけではないけれど、どうしよう、ナカが切ない。


「あ………っ、ぁん、ぁっ」


 上半身を起こしたままの彼に今すぐ縋りつきたいのは、心細いからだけじゃない。
 私のこの痴態を見られたくないから。
 乱れていきそうな予感が怖いから。

 勇気を出して目を見つめ、両手を差し出すと彼が笑って身体を倒した。


「……残念。その顔を見ていたいのに」
「………ふぁっ」


 耳元の囁きに、ゾクリとする。


「ちょ、これだけで締まるとか……っ。ごめん、もう、限界だ……っ」
「え?ーーーーあぁっ!」


 彼の動きが速くなる。息遣いが荒い。


「中、凄いよ。絡みついてくる……っ」


 知らない、わからない。何も考えられないの。
 またあの感覚が近い。放り出される、あの浮遊感。

 足の間に彼の指先を感じる。
 ダメだよ、そこに触らないで。怖いの。


「イッて」
「や、あぁっ!んんんーーー!」
「…………っ」


 唇が塞がれて涙が零れる。きつく抱きしめられながら、びくびくと、身体が勝手に震える。
 ナカの収縮が止められない。


「んん………」
「ーーーごめん、今、イキたいのやり過ごした。もうちょっと頑張って」
「え?や、あの、ウソ……っ」
「いや、今イッたら勿体ないっていうか、ね」


 “ね”じゃなーい!そこ!胸を揉まないの!


「も、もう無理ぃっ」
「若いのに無理とか言わないの」


 言ってるそばから動き出す。下半身の感覚は、もうとっくに麻痺しているのに。

 それからやっと解放された頃には、私の意識もあやふやで。
 そのまま彼のベッドでお昼寝してしまった私は、寝起きで自分の身体がまたしても、さっぱりしていた事に赤面していた。

 ようやく起き上がった私に甲斐甲斐しくワンピースを被せながら、ついでに頬にキスされて、怒る気力も湧いてこない。


「もう。意識がなくなるのは困るよ」


 けほっ、と咳き込みながらちょっと拗ねてみたら、


「ごめん、つい。いやでも、まだこれじゃ激しい内にも入らないよ。もっと色んな事したいから、体力つけて」


 って、無理だから。まだ無理だから!
 彼の笑顔が黒く見える、のは絶対に気のせいじゃない。

 バイト、連休を貰っていてよかった。
 明日は体力の回復に努めよう。そうしよう。


「明日、どっか行く?」
「た、多分無理ぃ……」


 何もしないで、まったりしようよ。
 ふたりでただくっついて、本でも読もうよ。

 私の提案、もとい懇願に、彼が“了解”と笑った。


 
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