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始まりの日
33 愛おしく、甘く
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キスはやめてくれたが、
「姿勢は変えてやらん」
と、どこか嬉しそうに抱きしめ直され、凪咲はユキの『幸せで死にそう』な腕の中で聞くしかないと諦めた。
「分かることとか、答えたいことだけで良いからね」
幸せで死にそうな攻撃を食らいながら、無事だったスマホを開く。
「凪咲のためになるなら、いくらでも答えてやる」
嬉しそうに堂々と言われた。
おい大丈夫か。
(心にぶっ刺さったけども)
答えにくいことにも答えることになるって、ユキお前、わかってる?
言ったら逆効果になる気がした凪咲はあえて指摘せず、「じゃあ、まあ、聞いてくから」と質問を始めた。
鮮度の高い食材にも色々あるし、できるだけ高級なモノが良かったりするのか。
「金をかければ良いという話ではないはずだが、凪咲がしたいならすればいい。俺は凪咲が作る凪咲の美味い飯を食いたい」
俺が食料を渡すと、凪咲のためになると見当がついた。
「貸しがある奴らへ声をかければ、食料に限らず金のかかるモノはそれなりに得られるはずだ。遠慮せず受け取れ、凪咲」
抱きしめてくるユキが、嬉しそうに言ってきたことで。
(おいお前、ユキ。まさか)
凪咲は頭を抱えたくなった。
(俺の気配を読んで、俺の考えを読み取ろうってか、お前ユキ)
そりゃあね、言いづらいことだから、読み取ってくれるのは有り難い……
(とか思っちゃうから、危ないから)
ユキのための相談や確認なんだけど、なんでまたこっちが助けられてんだ。
内心で頭を抱えながら、凪咲は相談や確認をしていく。
答えられそうな質問には嬉しそうに答えてくれたユキは、やっぱりというか。
「どうして埋まりたかったとか、魂だけの状態ってどういう状態なのか、聞いても大丈夫?」
尋ねたら毒を飲むように口をつぐみ、嬉しそうに揺れていた耳や尻尾の動きまで止まった。
「ユキ、もういいよ、相談とか確認、終わりにする。色々答えてくれてありがとうね、ユキ」
少しは元気になってきたのに、死にそうな様子になったユキへ額を押し付けるように抱きしめ返し、本心を伝える。
(優しいユキに嫌な思いをさせてまで、答えて欲しくないんだよ)
ユキが良くても、俺は嫌だよ。
言葉で伝えるとユキが困るだろうから、伝われと願って抱きしめる腕に力を込めた。
抱きしめ返す恥ずかしさなんて、ユキを助けたい気持ちに呆気なく負けるんだよ。
「……この、お人好しが……」
泣きそうな声で悔しそうに言われ、縋るように──逃さないと伝えてくるように抱きしめ直され、怯えを隠すように尻尾全部で優しく包み直された。
「ありがとうね、ユキ」
ごめんね、ユキ。
ユキの優しさを利用してでも、ユキを助けたい凪咲を。
許してくれとは言わないから、許されるなんて思わないから。
どうか、せめて。
元気になって。
元気になれなくても、死なないで良いと思えるようになって。
「……お人好しな阿呆の凪咲。顔を上げろ」
不機嫌そうなユキの低い声が降ってきて、返事をする前に顔を上向かされた。
(なにを、どうやった?)
一瞬の出来事に頭が追いつかない凪咲が目を瞬かせると、不機嫌そうなユキの耳が、なんだか得意げに揺れ動く。
(俺、結構しっかり)
額を押し付けていたのに、気づけば上を向いていた。
ユキの右手が頬に当たっている──添えられていると理解し、
(つまり、あれか)
右手で上を、ユキへと顔を向けられたのだとも、なんとなく理解したけど。
「ユキ? あの、っ?!」
なんで上を向く必要がと聞く前に、不機嫌そうなユキから額へ優しいキスをされ、
「終わったらキスをするのだろう」
唇を額から僅かに離し、不機嫌そうに言われ、理解と納得と驚きで固まった。
「落ち込ませてしまったらしいお人好しで阿呆な凪咲を、少しでも幸せにしてやる。少しでも喜ばせる。存分に味わえ」
固まったせいで、額へ何度も『勘違い』しそうなキスを優しく受けてしまう。
「ちょ、ちょっと……ユキ……終わったら、て……言った、けど……ちょっ……」
不意打ちがすぎる。
心の準備的なモノができてない。
恥ずかしくて目を細める凪咲を見てか、表情は不機嫌そうなユキの耳が、嬉しそうに揺れ動く。
九本ある尻尾も全部、嬉しそうに揺れ動き始めて、やめろと言いづらくなった。
(ユキが嬉しいなら、俺も嬉しいけど、でも)
慣れてないから、恥ずかしいのも本音なんだよ。
(けど、俺)
不機嫌そうに優しく、凪咲のためって『勘違い』しそうなキスを額にしてくるユキと。
(毎日、ディープなヤツして)
力を渡さないと、ユキが元気になれないし。
(もうホント)
お前に『勘違い』しないために、勘違いしてやるからね。
覚悟を決めたら、さらに顔をしかめて横を向いてキレのいい舌打ちをしたユキの様子が、細い視界と耳に鋭く届き、
「なんにしても心が定まったと読み取れた。幸せと喜びのキスを存分に味わえ、凪咲」
より不機嫌にさせてしまったらしいユキから、さっきまでとは段違いの、優しく思いやって慈しみと愛おしさを込められるだけ込めたようなキスを、額に何度も受ける。
凪咲は余計に恥ずかしくなり、目を固くつぶった。
(もう、どういうこと?)
キスのテクニックは別だろうけど、不機嫌な雰囲気なのに尻尾全部がとても嬉しそうに揺れ動いて、凪咲へ「ふわふわサラサラ」と当たる。
(お前、ユキ。キスはともかく)
尻尾で『幸せすぎて死にそう』な攻撃をしてくるの、わざとだろ。
「……ユキ……あの、色々、聞いた……から……準備、しなきゃだし……そろそろ……」
「そろそろ、なんだ? 夕飯の支度などにはまだ早いだろう」
不機嫌そうに、優しく思いやる感じのキスしながら、ホント器用に話すね、お前ユキ。
そんなお前の、
「ユキの……ためにも……オヤツ……ホットケーキ蒸しパン……作ってあるから……それ、食べようって……話なんだよ……」
目を固くつぶったまま呻くように言ったら、キスが止まった。尻尾の動きも止まった。
恐る恐る目を開けたら、
「……凪咲のオヤツ、ホットケーキ蒸しパンとやらも、あるのだろうな?」
不機嫌そうだったのが不貞腐れたようになっているユキの耳が、喜びを隠しきれないようにほんの少し揺れ動いていた。
気が抜けて苦笑したら、目を眇めていたユキが銀色の瞳を見開いて息を呑む。
(なんか、お前の反応の意味、分かってきたかも)
ユキ、お前、笑顔でも苦笑でも、本心からのそういうの、あんまり慣れてないんだろ。
(色々、お互い様か)
苦笑していた凪咲は、
「ちゃんと二人分作ったよ。二人分より多いかもだよ。今ある食材で作ったから、どれだけ回復できるか分かんないけど」
でも。
「ないよりマシかと思って。俺のご飯を美味しいって言ってくれたユキに、回復できるかはアレだけど、なるべく美味しいオヤツ作ったからさ」
一緒に食べよう。
「ユキと一緒に食べたいから」
苦笑を本心からの笑顔にして、心からの言葉を伝えた。
そしたら、なぜか。
「──お人好しがすぎるぞ」
泣きそうになったユキの、切なく焦がれるように掠れた低い声での言葉と、
「阿呆の凪咲の阿呆が」
額に今までで一番優しく、柔らかく、思いやりと慈しみと愛おしさと──甘く感じてしまうキスを受けて、凪咲はまた固まった。
「姿勢は変えてやらん」
と、どこか嬉しそうに抱きしめ直され、凪咲はユキの『幸せで死にそう』な腕の中で聞くしかないと諦めた。
「分かることとか、答えたいことだけで良いからね」
幸せで死にそうな攻撃を食らいながら、無事だったスマホを開く。
「凪咲のためになるなら、いくらでも答えてやる」
嬉しそうに堂々と言われた。
おい大丈夫か。
(心にぶっ刺さったけども)
答えにくいことにも答えることになるって、ユキお前、わかってる?
言ったら逆効果になる気がした凪咲はあえて指摘せず、「じゃあ、まあ、聞いてくから」と質問を始めた。
鮮度の高い食材にも色々あるし、できるだけ高級なモノが良かったりするのか。
「金をかければ良いという話ではないはずだが、凪咲がしたいならすればいい。俺は凪咲が作る凪咲の美味い飯を食いたい」
俺が食料を渡すと、凪咲のためになると見当がついた。
「貸しがある奴らへ声をかければ、食料に限らず金のかかるモノはそれなりに得られるはずだ。遠慮せず受け取れ、凪咲」
抱きしめてくるユキが、嬉しそうに言ってきたことで。
(おいお前、ユキ。まさか)
凪咲は頭を抱えたくなった。
(俺の気配を読んで、俺の考えを読み取ろうってか、お前ユキ)
そりゃあね、言いづらいことだから、読み取ってくれるのは有り難い……
(とか思っちゃうから、危ないから)
ユキのための相談や確認なんだけど、なんでまたこっちが助けられてんだ。
内心で頭を抱えながら、凪咲は相談や確認をしていく。
答えられそうな質問には嬉しそうに答えてくれたユキは、やっぱりというか。
「どうして埋まりたかったとか、魂だけの状態ってどういう状態なのか、聞いても大丈夫?」
尋ねたら毒を飲むように口をつぐみ、嬉しそうに揺れていた耳や尻尾の動きまで止まった。
「ユキ、もういいよ、相談とか確認、終わりにする。色々答えてくれてありがとうね、ユキ」
少しは元気になってきたのに、死にそうな様子になったユキへ額を押し付けるように抱きしめ返し、本心を伝える。
(優しいユキに嫌な思いをさせてまで、答えて欲しくないんだよ)
ユキが良くても、俺は嫌だよ。
言葉で伝えるとユキが困るだろうから、伝われと願って抱きしめる腕に力を込めた。
抱きしめ返す恥ずかしさなんて、ユキを助けたい気持ちに呆気なく負けるんだよ。
「……この、お人好しが……」
泣きそうな声で悔しそうに言われ、縋るように──逃さないと伝えてくるように抱きしめ直され、怯えを隠すように尻尾全部で優しく包み直された。
「ありがとうね、ユキ」
ごめんね、ユキ。
ユキの優しさを利用してでも、ユキを助けたい凪咲を。
許してくれとは言わないから、許されるなんて思わないから。
どうか、せめて。
元気になって。
元気になれなくても、死なないで良いと思えるようになって。
「……お人好しな阿呆の凪咲。顔を上げろ」
不機嫌そうなユキの低い声が降ってきて、返事をする前に顔を上向かされた。
(なにを、どうやった?)
一瞬の出来事に頭が追いつかない凪咲が目を瞬かせると、不機嫌そうなユキの耳が、なんだか得意げに揺れ動く。
(俺、結構しっかり)
額を押し付けていたのに、気づけば上を向いていた。
ユキの右手が頬に当たっている──添えられていると理解し、
(つまり、あれか)
右手で上を、ユキへと顔を向けられたのだとも、なんとなく理解したけど。
「ユキ? あの、っ?!」
なんで上を向く必要がと聞く前に、不機嫌そうなユキから額へ優しいキスをされ、
「終わったらキスをするのだろう」
唇を額から僅かに離し、不機嫌そうに言われ、理解と納得と驚きで固まった。
「落ち込ませてしまったらしいお人好しで阿呆な凪咲を、少しでも幸せにしてやる。少しでも喜ばせる。存分に味わえ」
固まったせいで、額へ何度も『勘違い』しそうなキスを優しく受けてしまう。
「ちょ、ちょっと……ユキ……終わったら、て……言った、けど……ちょっ……」
不意打ちがすぎる。
心の準備的なモノができてない。
恥ずかしくて目を細める凪咲を見てか、表情は不機嫌そうなユキの耳が、嬉しそうに揺れ動く。
九本ある尻尾も全部、嬉しそうに揺れ動き始めて、やめろと言いづらくなった。
(ユキが嬉しいなら、俺も嬉しいけど、でも)
慣れてないから、恥ずかしいのも本音なんだよ。
(けど、俺)
不機嫌そうに優しく、凪咲のためって『勘違い』しそうなキスを額にしてくるユキと。
(毎日、ディープなヤツして)
力を渡さないと、ユキが元気になれないし。
(もうホント)
お前に『勘違い』しないために、勘違いしてやるからね。
覚悟を決めたら、さらに顔をしかめて横を向いてキレのいい舌打ちをしたユキの様子が、細い視界と耳に鋭く届き、
「なんにしても心が定まったと読み取れた。幸せと喜びのキスを存分に味わえ、凪咲」
より不機嫌にさせてしまったらしいユキから、さっきまでとは段違いの、優しく思いやって慈しみと愛おしさを込められるだけ込めたようなキスを、額に何度も受ける。
凪咲は余計に恥ずかしくなり、目を固くつぶった。
(もう、どういうこと?)
キスのテクニックは別だろうけど、不機嫌な雰囲気なのに尻尾全部がとても嬉しそうに揺れ動いて、凪咲へ「ふわふわサラサラ」と当たる。
(お前、ユキ。キスはともかく)
尻尾で『幸せすぎて死にそう』な攻撃をしてくるの、わざとだろ。
「……ユキ……あの、色々、聞いた……から……準備、しなきゃだし……そろそろ……」
「そろそろ、なんだ? 夕飯の支度などにはまだ早いだろう」
不機嫌そうに、優しく思いやる感じのキスしながら、ホント器用に話すね、お前ユキ。
そんなお前の、
「ユキの……ためにも……オヤツ……ホットケーキ蒸しパン……作ってあるから……それ、食べようって……話なんだよ……」
目を固くつぶったまま呻くように言ったら、キスが止まった。尻尾の動きも止まった。
恐る恐る目を開けたら、
「……凪咲のオヤツ、ホットケーキ蒸しパンとやらも、あるのだろうな?」
不機嫌そうだったのが不貞腐れたようになっているユキの耳が、喜びを隠しきれないようにほんの少し揺れ動いていた。
気が抜けて苦笑したら、目を眇めていたユキが銀色の瞳を見開いて息を呑む。
(なんか、お前の反応の意味、分かってきたかも)
ユキ、お前、笑顔でも苦笑でも、本心からのそういうの、あんまり慣れてないんだろ。
(色々、お互い様か)
苦笑していた凪咲は、
「ちゃんと二人分作ったよ。二人分より多いかもだよ。今ある食材で作ったから、どれだけ回復できるか分かんないけど」
でも。
「ないよりマシかと思って。俺のご飯を美味しいって言ってくれたユキに、回復できるかはアレだけど、なるべく美味しいオヤツ作ったからさ」
一緒に食べよう。
「ユキと一緒に食べたいから」
苦笑を本心からの笑顔にして、心からの言葉を伝えた。
そしたら、なぜか。
「──お人好しがすぎるぞ」
泣きそうになったユキの、切なく焦がれるように掠れた低い声での言葉と、
「阿呆の凪咲の阿呆が」
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