弟のように可愛がっていた、いとこにすべてを奪われそうです

野宮つくし

文字の大きさ
1 / 7

許婚

しおりを挟む


「ロゼッタ様、あなたを愛しています。生まれと時から、婚姻を約束された仲、もう私たちの愛は誰にも疑いようがないのです。ああ、早くあなたと結婚して、一緒に時を過ごしたい、、」

「アルビン様、あなたの妻になることを夢に見て、日々過ごしてまいりました」

二人は、熱く抱き合った。

リンガル帝国。第一王妃である、ロゼッタが生まれ育った国。

いいなずけであるアルビンは隣国の王子。リンガル帝国を頻繁に訪れては、ロゼッタと時を過ごしていた。

「ロゼッタ様、王妃のご体調は、その後いかがなのでしょう?」

「実はあれから、咳も止まらず病状も不安定で、、私は心配で、夜も眠りに落ちるのが辛く、、」

「心配なことでしょう、我が国の名医を連れてきましょう、遠い外国で医学を修養した者です」

「本当ですか、アルビン様、うれしい」

アルビンは立ち止まると、ロゼッタの目を見つめた。

「ロゼッタ様、大切なあなたのため、できることなら何でもして差し上げたい。将来のために、お互いの愛をもっと深めたいのです」

アルビンは、ロゼッタの肩に手を回すと優しく微笑んだ。

「アルビン様、なんとお優しい方、、」


アルビン王子は、ロゼッタを愛していた。

幼い頃から婚姻が決まっているアルビンとロゼッタ。物心ついた頃から、お互いを結婚相手として意識していた。



「お父様、アルビン様がお母様のために、優秀なお医者様を連れてきてくださるとおっしゃいました」

「有り難い。アルビン王子の国は、我が国とは比べ物にならんぐらい、医学も発展しておるからのお」

「ロゼッタよ、そなたの結婚を王子と決めて本当に良かった、私も安心して年が取れる」

国王と王妃である父母は、ロゼッタをいつも暖かく見守ってくれていた。

長年、重い病に倒れている王妃は、寝台に横たわったまま、ロゼッタに微笑んだ。

「ロゼッタ、あなたには本当に幸せになって欲しい。私の愛しい娘、こっちに来てちょうだい、顔をもっと見たいわ」

ロゼッタは、王妃の寝ている寝台に近寄った。王妃の手を優しく握った。



リンガル帝国の国王、その長女であるロゼッタは成長するに連れ、容姿端麗な女性となっていた。

ロゼッタには5才年下のいとこ、マシュがいた。幼い頃から、遊戯をしたり、本を一緒に読んだりして大きくなった仲だ。

幼かったマシュも成長し、立派な男性となっていた。



ロゼッタは、庭で馬を引き連れていたマシュを見つけると声をかけた。

「マシュ、乗馬の訓練はちゃんとなさっているの?さぼっては駄目よ」

ロゼッタはマシュの前に立ち、姉のように叱った。マシュはいつの間にか、背も高くなり見上げるようになった。

「乗馬の訓練は、毎日欠かさず行っております。雨の日でも嵐の日でも。馬の扱いもなれてきました。ロゼッタ様、今度一緒に乗りませんか?遠出をすると、本当に気持ちがいいですよ」

「あなたと一緒に乗馬なんて、不安で仕方がないわ。少し前まで馬が暴れ出すと、怯えて泣いていたというのに」

「昔のことです、ロゼッタ様、お忘れください」

マシュは、頬を赤く染めた。


「ロゼッタ様、大切なお伝えしたいことがあるのです。ぜひ二人きりでお話したい」

「二人きりで話さなければならないことなんて、いったい、何かしら、、?小さなころからずっと、あなたを見てきたのだから、私が知らないことなんて、ないはずよ」

ロゼッタは、首をかしげた。

「襟が乱れておりますよ、きちんとしないと、ほら、あなたはピンと張っていたほうが似合いますよ」

ロゼッタはマシュの襟元に手を伸ばすと、乱れた白い襟を整えた。

マシュの顔は、恥ずかしさに真っ赤になった。

「大丈夫です、ロゼッタ様、もちろん気づいておりましたが、、直す暇が無かったのです」

マシュは咳払いし、顔を背けた。


いつまでも弟のように自分を扱うロゼッタに、マシュは嬉しくも戸惑っていた。


(ロゼッタ様、、大変綺麗な女性におなりになった。手をつなぎ一緒に時を過ごしたい。できることなら、抱きしめたい、自分のもののにしたい)

ロゼッタの後ろ姿を見ながら、マシュは深く考え込んでいた。

(幼い頃から一緒に遊戯をしては遊んだ仲、、今はあの方を、女性として見ることしか出来ない。どうしたら、ロゼッタ様に、この思いを気づいてもらえるのだろうか、、しかし、ロゼッタ様には婚姻のお約束の相手がいらっしゃる、、)

マシュは、思い悩んでいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた

ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。 マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。 義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。 二人の出会いが帝国の運命を変えていく。 ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。 2024/01/19 閑話リカルド少し加筆しました。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

「お前を愛することはない」と言った夫がざまぁされて、イケメンの弟君に変わっていました!?

kieiku
恋愛
「お前を愛することはない。私が愛するのはただひとり、あの女神のようなルシャータだけだ。たとえお前がどんな汚らわしい手段を取ろうと、この私の心も体も、」 「そこまでです、兄上」 「なっ!?」 初夜の場だったはずですが、なんだか演劇のようなことが始まってしまいました。私、いつ演劇場に来たのでしょうか。

地味令嬢と嘲笑された私ですが、第二王子に見初められて王妃候補になったので、元婚約者はどうぞお幸せに

reva
恋愛
「君とは釣り合わない」――そう言って、騎士団長の婚約者はわたしを捨てた。 選んだのは、美しくて派手な侯爵令嬢。社交界でも人気者の彼女に、わたしは敵うはずがない……はずだった。 けれどその直後、わたしが道で偶然助られた男性は、なんと第二王子!? 「君は特別だよ。誰よりもね」 優しく微笑む王子に、わたしの人生は一変する。

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

あなたが「いらない」と言った私ですが、溺愛される妻になりました

reva
恋愛
「君みたいな女は、俺の隣にいる価値がない!」冷酷な元婚約者に突き放され、すべてを失った私。 けれど、旅の途中で出会った辺境伯エリオット様は、私の凍った心をゆっくりと溶かしてくれた。 彼の領地で、私は初めて「必要とされる」喜びを知り、やがて彼の妻として迎えられる。 一方、王都では元婚約者の不実が暴かれ、彼の破滅への道が始まる。 かつて私を軽んじた彼が、今、私に助けを求めてくるけれど、もう私の目に映るのはあなたじゃない。

追放された令嬢ですが、辺境伯に拾われて一途に愛されています

白米
恋愛
婚約者である王太子に「平凡でつまらない」と一方的に婚約破棄され、さらに実家からも見放されて追放された貴族令嬢・リリアナ。行くあてもなく雪の降る街をさまよっていた彼女を拾ったのは、〈氷の辺境伯〉と恐れられる戦場帰りの冷徹な貴族・アレクセイだった。 「居場所がないなら、うちに来い。代わりに俺の妻を演じてくれ」 実は、彼もまた貴族社会の圧力から逃れるため、“仮初めの妻”を必要としていた。利害の一致から始まった奇妙な同居生活――のはずが、無骨で無表情だと思っていた辺境伯の溺愛が日に日にエスカレート!? 「笑った顔が、綺麗だな」「君を平凡だなんて言う奴は見る目がない」 最初は戸惑うばかりだったリリアナも、アレクセイの不器用な優しさに心を解かされていく。 やがて明かされる、彼の過去と深い傷。そして、リリアナ自身に秘められた“とある力”が、国を揺るがす陰謀に巻き込まれるきっかけとなり―― これは、愛を知らなかった二人が出会い、心を重ねていく物語。 冷酷だと思われていた辺境伯が、実は一途すぎるほど愛深い男だったなんて、誰が想像しただろうか。

婚約破棄をされ護衛騎士を脅して旅立った公爵令嬢は、まだ真実を知らない

大井町 鶴
恋愛
「婚約を破棄する」── その一言を聞いた日、ローラ公爵令嬢は護衛騎士を脅して旅に出た。 捨てられたままただ、黙って引き下がるつもりはなかった。 ただの衝動、ただの意地……そう思っていたはずだったのに。 彼女の選んだその道には、思いもよらぬ真実が待っていた。 それは、王子の本心や聖女の野心であり── 不器用な優しさの奥に隠れた、彼の本当の気持ちも。 逃げるように始まった旅が、運命だけでなく、心も塗り替えていく。 それをまだ、彼女は知らない。

処理中です...