終わりと始まりのセレナーデ

伊能こし餡

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第57話.好きな人は?

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「幸一くんは今まで好きな子はいた?」

負けた。負けたしなんだその質問。あんまりそういうのに興味はないんだけどな。・・・・・・そりゃ、人を好きになったことくらいあるけど。

「答えたくない」
「えー、早速? じゃあお願いどうしよっかな」

なんとなく答えたくなくて、質問を拒否した。まさか答えないとは思ってなかったのかりえが首を右に左に振って“お願い”を考えている。やがて「よし!」 と少し気合を入れて僕の方へと向き直す。

「幸一くん、私の体を触って」

!?

急になにを言い出すんだ。いや本当に何を言ってるんだ。僕も一応男だぞ? 分かってるのか? バカなのか? 天然なのか? 痴女なのか?

ダメだ・・・・・・。そんな子だとは思わなかったよ。それなら先の質問に答える方が万倍マシだ。

「あ、体って言っても胴体じゃなくて手とかでいいからね?」

ああ、なんだ・・・・・・。それならこっちの方がハードルは低い。

「触るよ?」 「うん」

 心臓の鼓動が一気に速くなる。同時に血圧も上がって心臓のあたりがジンワリと苦しくなる。高鳴る鼓動が聞こえてないことを願いながら、ソッと、3秒くらい手を握ってから離してやった。

「はい、りえの番は終わりね。次やろう」

離した手から消える温度が妙に愛おしくて、でもちょっと照れくさくて、わざと大きめの声で確認してから6戦目を始める。

6戦目は僕が勝った。あんまり集中できなくてどうやって勝ったかはあんまり覚えてないが、それでも勝ちは勝ちだ。

「さっきの続き、学校辞めるの?」
「多分辞めるかな。辞めた後のことは考えてないけど、とりあえず辞めると思う」
「ふーん」
「寂しい?」

辞めてしまうのか、と言ってもクラスメイトとしての思い出がないのであんまり寂しくない。「別に」 しかしそうなるとりえが辞めた後は誰かが僕の隣の席になるんだよな、それはなんとなく嫌だ。

辞めた後は考えてないとは言っても、最近はりえみたいな人でもある程度生きていけるような世の中になっているし、どうにでもなるだろう。

7戦目も僕の勝ち。やっぱり今日初めてルールを覚えた人間は凡ミスも多い。

「今まで好きな人は?」
「いない! まったく! 全然! 絶望的にいない!」
「そ、そう」

まずいことでも聞いただろうか・・・・・・。普段と違ってものすごい剣幕で否定してきたりえにちょっと恐怖すら覚えた。

「女の子にそういうこと聞くのはダメだよ」

女の子って恋愛話とか好きそうなイメージあるけどなあ。というかさっき僕同じこと聞かれたんだけどそれはいいのか。僕が男だからか?

8戦目はりえの勝ち。「私の第一印象は?」

「この暑いのに長袖にデニムだったからちょっと変わってるのかなって、でも肌が白かったから少し肌が弱いのかなっても思った」
「なるほど、幸一くん意外とよく見てるんだね~」

よく見てるんだね、というのが少し小馬鹿にされたように感じた。

僕はそれだけ周りに気を配らないと普通の人と同じような交友関係を築けないんだよ・・・・・・。
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