終わりと始まりのセレナーデ

伊能こし餡

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第66話.夏祭り⑤

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「幸一くん、今なんて?」
「え?僕何か言った?」
「人混みは疲れるって言ってなかった?」

まずい、心の声が漏れてたみたいだ・・・・・・。楽しんでないとか思われてしまったかな。否定した方がいいか? いやでも聞かれてたんだから今更否定したところで意味なんてないか。

ここはあえて冗談っぽく、それでいてサッパリと話題を切り上げるような返しを考えなければ。

「それ心の声だね」
「あはは、心の声漏れてたよー」

もっと良い返し思いつかなかったのか、僕。

「でも確かに人混みって疲れるよね」

いつものフォローとは違う。本当に疲れたように、大量の息と同時に言葉を吐き出した。

りえも僕と同じ、いやそれ以上に人混みが苦手なんだと感じるのに、そのひとことは十分すぎた。そりゃそうか、今までロクに外を出歩かなかったんだ。普通に生活してた僕が苦手なんだからりえはもっと苦手に決まってる。

「幸一くん、楽しくない?」
「え? すごく楽しいよ」

あらぬ心配をかけてしまったか、確かに1人だと楽しくなかっただろう。多分適当に焼き鳥でも買って帰ったんじゃないかな。

でも2人だと楽しい。特に・・・・・・。

この気持ちはしまっておこう。きっと今の関係が僕らにはちょうどいい。これ以上でもこれ以下でもなく、今、この関係がベストだと漠然と思う。

今よりもっと仲良くなりたいとか、ああしたい、こうしたいって思いはあるけど。変わらない関係を求めるのに今以上を欲しがっちゃいけない気がする。

「本当? よかった」
「当たり前じゃないか、楽しまなきゃ損だよ」

自分にも言い聞かせるようにそう言ってりえの方を見た。彼女も強がったように笑って僕を見た。

「あはは、そうだよねー。せっかくだもん、疲れたなんて言えないよね」

多分りえも自分に言い聞かせるように言ったような、そんな気がした。

ちょっと休憩して「もう一周回ろうか」 と歩き始め、さっきスルーした屋台に並ぶ。夜の帳が下りてきて、夕方に比べるとかなり人も増えてきたようだった。そういえば姉ちゃんへのお土産も買わないといけないなあ。

これだけの人がいてまだ知り合いに会ってないのが嘘みたいだ。裕介とかこういうの来そうなんだけどなあ。

「あれ、幸一じゃん」

噂をすればこの声は

「ああ、裕介、来てたんだ」
「当たり前じゃん、幸一こそ珍しいな、こういうの来ないと思ってた」

フラグ回収速すぎかよ、と心の中でツッコミを入れた。

「それよりその女の子、誰?」

クラスメイトだよ。でもなんとなくそうは言わない方がいい気がした。
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