砂場からこんにちは

あす

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砂場からこんにちは

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ザクッ、ザクッ、ザクッ

夢中で砂をかき分ける。右手にプラスチックのシャベルを持ち、ぐさりと刺してはすくいあげて空にまき散らす。

小さな砂の粒が爪の間に潜り込んでくるが、そんなことは気にもせずかき分ける。

穴の底に手がギリギリ届くところまで掘ったら、手の甲を使って穴の入り口を広げ、すっぽりと肩を潜らせる。

ゴミの塊が出てきたけど、全部拾い上げてゴミ箱に捨ててくる。

今度はキラキラとしたビー玉が砂から頭を出してこっちを向いている。すかさずさっと左手ですくい上げてポケットにしまいこむ。

時々上の方からさらさらの砂が頭に覆い被さってくるが、気にも止めずに暗闇に進んでいく。

「ハル、ご飯よ」

ママの声が遠くからするけど、腕で耳を覆って聞こえないふりをする。

すっぽりと暗闇に吸い込まれ、砂の壁にただただ向き合いながら我を忘れる。

気がつけば、あたりは砂から土に変わりそして炭になっている。顔を真っ黒にしながら掘り進むと、くるくると渦を巻いたアンモナイトが楽しそうに踊っている。

──そう言えばもう何日経ったのだろうか。

ずいぶん深く掘った気がするけど、まだまだ奧深くまで行ってみようかな。

昔ロシアおじさんは地下12kmまで穴を掘ったそうだ。ちょうどパパが生まれた年から始めて30年間掘り続け、ある日思いついたように辞めたらしい。

だんだんあたりが熱くなってきて温泉の中にドボーンと落っこちた。からだがポカポカして頭から湯気がホワホワと出てくる。

──うーん、なんて気持ちいいんだ

今度は大きなヒビを見つけた。こっちが関西で向こうが東日本のヒビ。どちらもしっかりと接着剤で固定して動かないようにする。

ガチッ、ガチッ

あれっ、なんか固い壁がある。

モホロビチッチおじさんが言ってたけど、この壁の先に行っては駄目なんだって。

それでもプラスチックのシャベルは止まらない。壁にゴリゴリと押し当てていくとぽっかりと大きな穴が空いた。

そこにはあたり一面きれいな緑色の宝石箱。ポケットがパンパンになるまで宝石をかき集めて先へ向かうけれど、どこまで行っても宝石の世界は続く。

ようやく最後の壁に到着した。

なんだかからだがすっきりとスリムになってきたみたいだ。壁の向こうはキラキラのダイヤモンドの世界が広がる。なんてキレイなんだろう。ママも一緒に来れば良かったのに残念、次は一緒にこよう。

そろそろお腹が空いてきたのでママの作ってくれた晩御飯を食べに家に帰ろうかな。

キラキラは次にママと一緒に来たときに見せてあげたいのでそのままにして戻ろう。

通って来た穴を上に見上げると、ずっと向こうでママが手を振っている。

砂場からこんにちは。
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