あなたのセフレにはなりません!

鳴哉

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 そうか、彼女は女性だった。

 当たり前のことに気付いた。直属として働く少ない部下の中でも彼女はとても優秀で、頼りにしている一人だ。無駄口は叩かず、だからといって周りが見えていない訳でもない。慢性的残業でどうしても殺伐とした空気になる職場の中で、緩衝材的な役割も果たしてくれている。我が部署にはなくてはならない存在だ。

 だから、常々自分に付き纏ってくる、その手段のひとつとして軽い気持ちで異動希望してやってくる女性たちとは、全く別物のように思っていた。

 婚活をしている女性にとって、自分が優良な物件であることは自覚している。だけど、それと仕事を混同するなんて、この部署が担う役割を軽視しているにも程がある。当たり前のように仕事を割り振ると、皆早々に逃げ出していく。そんな生半可な気持ちで務まる程気楽な部署ではないのだ。

 その中で、弱音を吐くこともなく、淡々と堅実に仕事をこなす彼女の性別を意識することは今までなかった。彼女が自分に対して興味を持つ素振りも言い寄ってくることもなかったからでもあったのだが。まあ、婚約者がいたのだから当然だとは思うのだが、自分に言い寄ってくる者の中には、婚約者がいる者どころか既婚者までもいたのだから、同じ括りに入れることがなかったのだ。

 その彼女が、目の前で泣いている。

 どちらかというと、冷静沈着で感情の起伏のない人だと思っていた彼女が、酔って愚痴って管を巻いて泣いている。

 その姿を見てようやく私は、彼女が婚約者にこっぴどく振られた気の毒な一人の女性だということを意識した。そして、その彼女を自分が何とかして慰めたいと素直に思った。

 こんな気持ちになったことは、記憶にある限りない。どうすれば彼女の心の傷を癒すことができるのだろう。
 そう考えながら酒を酌み交わすうち。

「帰りたくない」

 彼女が零した言葉は、私の中に耐え難い衝動を起こした。

 慌てて頭を振ってその激情を振り払う。何を考えているのか。酔った挙句の戯言を間に受けてどうする? 彼女の言葉に他意はない。ただ酔って帰るのが面倒になっただけ。もしくは、家族に顔向けできない等と思っているだけのこと。私に擦り寄って来る輩たちの台詞とは意味が違う。

 その言葉を最後に眠りこんでしまった彼女を、とにかく起こそうとして声をかけたり、肩を揺すったりしてみるが、完全に寝てしまっているようだった。

 どうしよう。
 送って行くにも彼女の家を知らない。
 夜も更けてきて、食堂の客層も変わってきているこんなところに、彼女を置いているという危うさでも気持ちが逸る。……知識として、こういった食堂の上階に休憩や宿泊ができる部屋があるのは知っている。

 とりあえず、彼女をゆっくりと寝かせてやろう。そう誰にともなく心の中で言い訳をした。


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