あなたのセフレにはなりません!

鳴哉

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 目の前にダウニー課長がいる。
 私の手首を掴んでいる。
 私の心臓は早鐘のようで、どうやって逃れようか、逃げ道を探す。

「ようやく捕まえた」

 滅多に人が通らない書類保管庫に続く廊下の端で、課長は心底ホッとしたように息を吐いた。

「何か急ぎの案件がありましたか?」

 あえて仕事モードに切り替えて問うが、彼の声はいつになく情けない感じになっている。

「カルティさん、どうか話をさせてくれないか?」

 レアな課長の声音に興味を惹かれて、思わずその顔を見る。見てしまった。

 まるで愛を乞うような悩ましい表情で私を見下ろす課長に、私の脳内でまたもやフラッシュバックするのは、おそらくあの夜の彼で。

「えっと、こ、困ります」

 怖くなって逃げようとするけれど、思いの外強い力で腕は掴まれたままだ。何とか振り切ろうと、目も見ずに告げる。

「あ、あのっ、私、ちゃんと弁えてますから!」
「誰にも自慢したりしませんし!」
「付き纏ったりしませんし!」

 言い募る私に返されたのは、課長の溜息、そして衝撃的な言葉だった。

「私はあれきりにはしたくない」

 それって、まさか……体だけの関係を続けたいってこと?!

 信じられない発言に、私は一瞬言葉をなくし、上司を見る。湧き上がる感情のまま、私は叫んでいた。


「私にはセフレなんて、無理です!!」


 目の前で、課長が膝から崩れ落ちた。

 え? まさか、断られると思いもしなかったってこと? 
 咄嗟に助け起こそうとしながらも、ドン引きしかけた私に向かって、彼も叫んだ。


「当たり前だ!!」




 ……どうやら、何か齟齬があるらしい?


 逃げ続けた私は、とうとうダウニー課長に捕まった。あの夜の抜け落ちた記憶を強制的に思い出させられることになる。





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