霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ

文字の大きさ
228 / 310
野薔薇怪異談集全100話

82話「青白い少年」

しおりを挟む
 あの日、私は、いつもと同じように帰り道の公園を通りかかった。

 夏が近いというのに風は妙に冷たく、太陽も雲に隠れたままだった。
 時計を見ると、午後四時半。子どもたちの遊ぶ声が聞こえる時間帯。

 なのに、その公園には、子どもがひとりしかいなかった。

 ブランコのそば、立ったまま動かない子。

 男の子だった。
 でも、その姿には違和感しかなかった。

 ⸻

 服は真夏なのに長袖。
 袖口から出た手は、血の気を失ったように白い。
 顔も同じく、まるで薄い膜をかぶせたような青白さだった。

 ぼうっと立ち尽くしている彼に、別の少年たちが近づいた。
 3人いた。彼を囲むようにして、声をかけていた。

「なにしてんだよ、おまえ」「声出せよ」「気味悪ぃなあ」

 ――いじめ、というほどの悪意は感じなかった。
 無遠慮に“からかっている”ような雰囲気だった。

 私は躊躇いながらも、声をかけた。

「やめなさい。そういうの、よくないわよ」

 すると、青白い少年が私の方を振り向いた。

 ⸻

 そして、まるで私の言葉が聞こえていなかったかのように、
 静かに、そして首を傾げながら、こう言ったのだ。

「……お姉ちゃん、誰と話してるの?」

 ⸻

 その瞬間、背筋が凍った。

 さっきまで彼の肩を掴んでいた少年たちが――
 一人残らず、跡形もなく消えていた。

 まるで最初からいなかったかのように。
 地面にあったはずの足跡さえ、見当たらなかった。

 彼だけが、ぼんやりとそこに立っている。

 私は訳も分からず頭を下げて、その場を立ち去った。
 怖くて、なぜか振り返れなかった。

 ⸻

 それからというもの、私はあの少年を見るようになった。

 通勤途中の電車の窓に、家の玄関先に、鏡の奥に。
 ふとしたときに、視界の端で――彼がこちらを見ている。

 彼の顔は、相変わらず青白くて、表情はない。

 ただ、最近になって気づいた。

 私の手の色も、日に日に青白くなっている。

 血の気が引くような感覚。
 夜、眠っていても、どこか冷たい指先で触られているような感触がある。

 ⸻

 もしかして、あのとき――
 私が「見てしまった」から、今度は私の番なのかもしれない。

 ⸻

 どうか、これを読んでいるあなた。
 もし公園で青白い子どもを見かけても、声をかけてはいけない。

 気づかれたら、終わりです。

 ⸻

 青白い少年

 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...