霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ

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霊和座談怪異八月蜂夕祭り

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 🐝『8月8日8時8分 蜂夕祭り』《episode 0:》

 ⸻

 ――「真夏の居間」――

 部屋は真っ暗だった。

 湿気を帯びた空気が肌にまとわりつくように重く、窓の外では虫の声が狂ったように鳴いている。
 カナカナカナ……という音に混じり、ミシ……ミシ……と、どこからか柱が軋む音がした。

 そこに、“季節外れ”なものはない。
 こたつも、みかんも、丸まる猫もいない。
 ただ一つ、ちゃぶ台の上に置かれた小型のアナログテレビだけが、チリチリと砂嵐混じりに光を放っていた。

 「ピ――……」

 そして、何の前触れもなく、そのテレビがついた。

 ⸻

 ――「画面の中」――

 映像は明るかった。だが、そこに映るのは**非現実的な“祝祭”**の始まりだった。

 浴衣姿の少女が二人、画面の中で手を繋ぎながら笑っている。
 だが彼女たちの顔は“のっぺらぼう”のように、目鼻立ちが溶けかかっていた。
 声だけが、不自然なほどはっきりしていた。

「「本日は、8月8日8時8分。年に一度の……蜂夕(はちばた)祭りが始まるよ~!」」

 ピクリ。テレビの前に佇んでいた“長い黒髪の女性”が、わずかに動いた。
 その足元に、影のように黒い水溜りが広がっていく。

 ⸻

 ――「司会の少女たち」――

「「みんな準備はいい? 蜂夕(はちばた)祭りのルールはひとーつ!」」

「「いまこの放送を“見た人”は、必ず参加してね。」」

「「途中で消したら……刺されるよ♡」」

 ふふふ、と顔のない少女たちが笑う。

 画面の向こうで、カメラがぐるりとパンした。

 そこには、信じがたい風景が広がっていた。
 祭り会場。ぼんやりと光る提灯。
 だが、そこを練り歩くのは人間ではなかった。

 人の顔をした巨大な蜂。
 八本の足を持つ巫女のような女たち。
 地面に張り付いたまま笑っている“死者”たち。

 そしてその中央に、見覚えのある“長い黒髪の女”が、微動だにせず立っていた。

 その場面を、テレビの前で見ている誰かが、目を大きく見開く。

 ――その「誰か」とは、あなた自身だ。

 ⸻

 ――「居間にて」――

 ピシャリ。

 テレビが突然切れた。
 辺りは再び、闇に包まれる。

 だが……部屋の中に“誰か”が立っていた。

 ゆっくりと、その者が画面の前に歩み出る。

 長い黒髪を垂らし、静かに、無言で立っているその姿。

 テレビの中にいた、あの女――と、同じに見える。

 音もなく、彼女の唇が開いた。

 「……ようこそ、参加者様。」

 ⸻

 ▶ Next Episode:

『episode 1:開幕』へつづく。
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