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八木怪異談集全18話
16話「死か蜂※グロ虫描写閲覧注意」
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ふー……どっこいしょ、と。
ああ、お前さんもよく食うなぁ。そんなに旨いかい? その蜂の子。
ハハ、そうだろうな。山のもんは、なに食ってもうめぇもんだ。
けどな……そいつ、ただの蜂の子じゃあねぇんだ。
聞くかい? 一つ、昔語りを。
⸻
あれはワシがまだ若ぇ頃――全国を歩きまわっては奇っ怪な話を拾い集めてた時分のことじゃ。
山深い東の端にある、石山県っちゅう知る人ぞ知る自治県に立ち寄った。まるで別の国みてぇな土地さ。
その村に伝わる話がある。「死か蜂(しかばち)」って、知っとるかい?
――死体に巣を作る蜂のことじゃ。
死か蜂は、女王蜂が生きたまま人間や動物の体に卵を産みつける。それも肺や心臓の近く、呼吸や鼓動に寄生してくる。
卵は体内でじっと、じっと成長を待ち……宿主の酸素を少しずつ奪って、命の火を消していく。
そして死んだ体内で羽化した幼虫は、内臓を喰い破って出てくる。
皮膚の下、筋肉の間、眼窩の奥までびっしり蜂の巣になって――まるで生きた死体そのものが、巣になるんだと。
ワシも一度だけ見たことがある。
搬送された遺体、医者が解剖したとたん、腹の中から音がした。
ザザッ……ゴソッ……ボロボロボロ……
蜂が、ぞろぞろと這い出してきた。数千、いや数万匹はいただろうよ。
口から、耳から、指の隙間から、目玉の裏から。
見とるだけで背筋が凍った。ワシもだが、あれを見た者は誰もが発狂寸前だった。
「そいつらは――死を喰って、生きる」っちゅうわけだ。
⸻
それだけでも充分怖ぇ話じゃがな。石山県では、もっと恐ろしい掟がある。
「絶対に、死か蜂を食ってはいけない」
理由かい?
それは……死か蜂の体内には、まだ産みつけられてない卵が残ってる。
それが、食った人間の中で目覚める。
内臓のどこかで息を潜めて、時が来るのを待つ。
数日後か、数ヶ月後か、何年も先か……。
その人間が死んだ時。あるいは、生きながらにして蜂の巣になる時が来る。
⸻
だから、聞いてんのさ。
おまえさん――
さっき食ったその蜂の子、どこで採れたんだ?
まさか……あの村の……じゃないよな?
ああ……いや、もう遅ぇな。
身体の芯があったかくなってねぇか? 胸がざわざわしねぇか? 耳の奥で、何か飛んでるような音がしてきたら――
それは、もう始まってるってことだ。
⸻
「……という怪異談だけど、どう思う?」
蜂蜜トーストを凍りついた顔で咀嚼するのは、八木楓・永木桜・野花手鞠の三人。
語ったのは怪異語りの蒐集家、北臓老人。
そして、隅で静かに震えるのは――かつて、北臓からもらった蜂の子を無邪気に食べてしまった梅田虫男である。
「……う、うそだよな? レントゲン、撮りに行ってくる……」
虫男は夢山大学病院の精神神経外来と、寄生虫内科に通い始めたという。
楓たちも、あの日から蜂が嫌いになった。
蜂蜜を見るたびに耳の奥がムズ痒くなるのは、きっと気のせいではない――
死か蜂 完
ああ、お前さんもよく食うなぁ。そんなに旨いかい? その蜂の子。
ハハ、そうだろうな。山のもんは、なに食ってもうめぇもんだ。
けどな……そいつ、ただの蜂の子じゃあねぇんだ。
聞くかい? 一つ、昔語りを。
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あれはワシがまだ若ぇ頃――全国を歩きまわっては奇っ怪な話を拾い集めてた時分のことじゃ。
山深い東の端にある、石山県っちゅう知る人ぞ知る自治県に立ち寄った。まるで別の国みてぇな土地さ。
その村に伝わる話がある。「死か蜂(しかばち)」って、知っとるかい?
――死体に巣を作る蜂のことじゃ。
死か蜂は、女王蜂が生きたまま人間や動物の体に卵を産みつける。それも肺や心臓の近く、呼吸や鼓動に寄生してくる。
卵は体内でじっと、じっと成長を待ち……宿主の酸素を少しずつ奪って、命の火を消していく。
そして死んだ体内で羽化した幼虫は、内臓を喰い破って出てくる。
皮膚の下、筋肉の間、眼窩の奥までびっしり蜂の巣になって――まるで生きた死体そのものが、巣になるんだと。
ワシも一度だけ見たことがある。
搬送された遺体、医者が解剖したとたん、腹の中から音がした。
ザザッ……ゴソッ……ボロボロボロ……
蜂が、ぞろぞろと這い出してきた。数千、いや数万匹はいただろうよ。
口から、耳から、指の隙間から、目玉の裏から。
見とるだけで背筋が凍った。ワシもだが、あれを見た者は誰もが発狂寸前だった。
「そいつらは――死を喰って、生きる」っちゅうわけだ。
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それだけでも充分怖ぇ話じゃがな。石山県では、もっと恐ろしい掟がある。
「絶対に、死か蜂を食ってはいけない」
理由かい?
それは……死か蜂の体内には、まだ産みつけられてない卵が残ってる。
それが、食った人間の中で目覚める。
内臓のどこかで息を潜めて、時が来るのを待つ。
数日後か、数ヶ月後か、何年も先か……。
その人間が死んだ時。あるいは、生きながらにして蜂の巣になる時が来る。
⸻
だから、聞いてんのさ。
おまえさん――
さっき食ったその蜂の子、どこで採れたんだ?
まさか……あの村の……じゃないよな?
ああ……いや、もう遅ぇな。
身体の芯があったかくなってねぇか? 胸がざわざわしねぇか? 耳の奥で、何か飛んでるような音がしてきたら――
それは、もう始まってるってことだ。
⸻
「……という怪異談だけど、どう思う?」
蜂蜜トーストを凍りついた顔で咀嚼するのは、八木楓・永木桜・野花手鞠の三人。
語ったのは怪異語りの蒐集家、北臓老人。
そして、隅で静かに震えるのは――かつて、北臓からもらった蜂の子を無邪気に食べてしまった梅田虫男である。
「……う、うそだよな? レントゲン、撮りに行ってくる……」
虫男は夢山大学病院の精神神経外来と、寄生虫内科に通い始めたという。
楓たちも、あの日から蜂が嫌いになった。
蜂蜜を見るたびに耳の奥がムズ痒くなるのは、きっと気のせいではない――
死か蜂 完
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