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180話、言い出すタイミング
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「しかし、思いやりのある温かな優しさですか。深く深く沁み入る言葉ですね。徹さん以外の御方に言われたのは、最早記憶にありません」
あれ? 動揺し出した会長さんの心に、安心感を与えようと口にした本音、思った以上に絶大な効果を発揮していそうね。
和やかな笑みを浮かべているし。もう、心のケアをする必要は無いかもしれない。
「なら副会長さんって、かなり見る目がありそうですね」
「そうですね。貴方と同じく、素晴らしい慧眼をお持ちのようです」
なんとも健やかな声で語り、頬に手を添えながら艶やかに微笑む会長さん。けいがんという意味が、いまいち分からないけれども。たぶん私、褒められたのよね?
副会長さんと私を同等に扱ってきたから、相当な誉め言葉だと捉えていいのかしら? どうしよう。ここから先、会長さんに何を言っても大丈夫な気がしてきたわ。
「それは光栄です」
「こちらこそです。徹さんのお陰で、この歳で素敵な邂逅を得られましたわ。本当、冥利に尽きます。それで、話の続きなのですが」
辞書やインターネットで調べないと、共感が出来ない言葉を並べてきた会長さんが、柔らかな笑みを見せた。
「他に受けた負の印象があれば、気兼ねなく教えて欲しいのですが」
「他の印象……」
負の印象というのであれば、悪く捉えた意味よね。あとは、懐石料理屋の厨房で立っていそうな女将。それにマダムぐらいだったはず。
「そうね、悪い印象なのか分からないけど。見た目で思い浮かべたのは、懐石料理屋に居そうな女将。それとマダムぐらいです」
「あら、女将にマダム。マダムは捉え方によってですが。懐石料理店の女将は、好印象寄りだと思います。そう、私が女将ですか。悪くないですね」
なるほど。マダムは、時と場合によっては悪口になり。懐石料理屋の女将は、むしろ誉め言葉に該当すると。悪口になるマダムって、どんな感じなんだろう。
とにかく、言い出すタイミングが重要そうね。もし第一印象を伝えている場面で、マダムも付け加えていたら、それが動揺を与える悪口になっていたかもしれない。
「それと、負の印象はもう二つあります」
「はい。是非、お聞かせ願います」
「会長さんの、圧を感じる喋り方です」
「圧を感じる、喋り方……。はぁ」
都市伝説の私ですら恐怖を覚え、ハルの精神を一時的に仮死状態まで持っていた、考えうる中で一番の要因が、これ。
しかし、会長さんにとっては、思い当たる節があまり無さそうで。意外だという反応を示し、先ほどまでとはいかないけど、ちょっとだけ動揺している。
「私の話法が原因かと推測していましたが……。圧ですか。そこまでの圧が、私の喋り方に含まれているのですか?」
「はい。だから春茜が、こうなってしまったんです」
「あっ、なるほど……」
放心状態のハルを引き合いに出してみれば。会長さんがハッとした表情になり、丸くなった目を数回瞬きさせた。
……ハル、本当に死んでいないわよね? 動き出す気配がまったく無いから、そろそろ心配になってきたわ。
「私の言葉に含まれた圧、ですか。もしかしたら、こちらが一番の原因かもしれませんね」
「かもしれません。あと、率直に物を言い過ぎです。伝えたいことをいきなりガッと言う前に、まず何々をしたいからと理由を添えた方が、相手も身構えられて納得出来るかもしれないですし、圧も弱まって柔らかな印象になると思います」
「私は先ほど、いきなり本題を申し上げてしまいましたからね。だから、言葉に圧が生まれてしまったと……」
たぶん、会長さんなりに考えているようね。握った手を口元に当てて、視線を右下へ逸らしている。
容姿については変えようが無いので、変えるとしたら、やはり喋り方しかない。
ハルの時は、流石に私も驚いたわ。恐怖している者へ、更なる恐怖を上塗りする地獄みたいな問い掛け方よ。質問を受けた側は、気が気じゃなくなるでしょうね。
「確かに、棘のある言い方にも聞こえますし、怒気を含んでいるようにも捉えられますね」
「あっ! そっか、怒ってるようにも聞こえるんだ」
それだ! 会長さんの容姿も相まって、怒ってるようにも捉えられてしまうんだ。これは盲点だった。間違いない、ハルはそれでやられたんでしょうね。
相手に物申せず、ただただ恐怖を覚えて植え付けられ。その上、訳も分からずいきなり怒られたら、たまったもんじゃないわ。
「会長さん、たぶんそれですね」
「やはり、そうですか。よかった、原因の根幹を探れて。貴方には、なんとお礼をすればいいやら」
「お礼なんていらないです。それよりも、まずは改善をしていきましょう」
「ああ、そうですね。では、春茜さんの気持ちが落ち着きましたら、再度質問をしてみましょう」
原因の大元は分かった。あとは、会長さん次第って所ね。頼みますよ? 会長さん。改善されていなければ、ハルにトドメを刺すことになるんですからね。
あれ? 動揺し出した会長さんの心に、安心感を与えようと口にした本音、思った以上に絶大な効果を発揮していそうね。
和やかな笑みを浮かべているし。もう、心のケアをする必要は無いかもしれない。
「なら副会長さんって、かなり見る目がありそうですね」
「そうですね。貴方と同じく、素晴らしい慧眼をお持ちのようです」
なんとも健やかな声で語り、頬に手を添えながら艶やかに微笑む会長さん。けいがんという意味が、いまいち分からないけれども。たぶん私、褒められたのよね?
副会長さんと私を同等に扱ってきたから、相当な誉め言葉だと捉えていいのかしら? どうしよう。ここから先、会長さんに何を言っても大丈夫な気がしてきたわ。
「それは光栄です」
「こちらこそです。徹さんのお陰で、この歳で素敵な邂逅を得られましたわ。本当、冥利に尽きます。それで、話の続きなのですが」
辞書やインターネットで調べないと、共感が出来ない言葉を並べてきた会長さんが、柔らかな笑みを見せた。
「他に受けた負の印象があれば、気兼ねなく教えて欲しいのですが」
「他の印象……」
負の印象というのであれば、悪く捉えた意味よね。あとは、懐石料理屋の厨房で立っていそうな女将。それにマダムぐらいだったはず。
「そうね、悪い印象なのか分からないけど。見た目で思い浮かべたのは、懐石料理屋に居そうな女将。それとマダムぐらいです」
「あら、女将にマダム。マダムは捉え方によってですが。懐石料理店の女将は、好印象寄りだと思います。そう、私が女将ですか。悪くないですね」
なるほど。マダムは、時と場合によっては悪口になり。懐石料理屋の女将は、むしろ誉め言葉に該当すると。悪口になるマダムって、どんな感じなんだろう。
とにかく、言い出すタイミングが重要そうね。もし第一印象を伝えている場面で、マダムも付け加えていたら、それが動揺を与える悪口になっていたかもしれない。
「それと、負の印象はもう二つあります」
「はい。是非、お聞かせ願います」
「会長さんの、圧を感じる喋り方です」
「圧を感じる、喋り方……。はぁ」
都市伝説の私ですら恐怖を覚え、ハルの精神を一時的に仮死状態まで持っていた、考えうる中で一番の要因が、これ。
しかし、会長さんにとっては、思い当たる節があまり無さそうで。意外だという反応を示し、先ほどまでとはいかないけど、ちょっとだけ動揺している。
「私の話法が原因かと推測していましたが……。圧ですか。そこまでの圧が、私の喋り方に含まれているのですか?」
「はい。だから春茜が、こうなってしまったんです」
「あっ、なるほど……」
放心状態のハルを引き合いに出してみれば。会長さんがハッとした表情になり、丸くなった目を数回瞬きさせた。
……ハル、本当に死んでいないわよね? 動き出す気配がまったく無いから、そろそろ心配になってきたわ。
「私の言葉に含まれた圧、ですか。もしかしたら、こちらが一番の原因かもしれませんね」
「かもしれません。あと、率直に物を言い過ぎです。伝えたいことをいきなりガッと言う前に、まず何々をしたいからと理由を添えた方が、相手も身構えられて納得出来るかもしれないですし、圧も弱まって柔らかな印象になると思います」
「私は先ほど、いきなり本題を申し上げてしまいましたからね。だから、言葉に圧が生まれてしまったと……」
たぶん、会長さんなりに考えているようね。握った手を口元に当てて、視線を右下へ逸らしている。
容姿については変えようが無いので、変えるとしたら、やはり喋り方しかない。
ハルの時は、流石に私も驚いたわ。恐怖している者へ、更なる恐怖を上塗りする地獄みたいな問い掛け方よ。質問を受けた側は、気が気じゃなくなるでしょうね。
「確かに、棘のある言い方にも聞こえますし、怒気を含んでいるようにも捉えられますね」
「あっ! そっか、怒ってるようにも聞こえるんだ」
それだ! 会長さんの容姿も相まって、怒ってるようにも捉えられてしまうんだ。これは盲点だった。間違いない、ハルはそれでやられたんでしょうね。
相手に物申せず、ただただ恐怖を覚えて植え付けられ。その上、訳も分からずいきなり怒られたら、たまったもんじゃないわ。
「会長さん、たぶんそれですね」
「やはり、そうですか。よかった、原因の根幹を探れて。貴方には、なんとお礼をすればいいやら」
「お礼なんていらないです。それよりも、まずは改善をしていきましょう」
「ああ、そうですね。では、春茜さんの気持ちが落ち着きましたら、再度質問をしてみましょう」
原因の大元は分かった。あとは、会長さん次第って所ね。頼みますよ? 会長さん。改善されていなければ、ハルにトドメを刺すことになるんですからね。
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