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5 おじさんがピンチ(ディエゴ視点③)※主人公以外の人物が襲われかける描写があります
しおりを挟むあれは俺が8歳の誕生日を迎えた日の朝だった。その日は水の日で、週に3回ある燃えるゴミの回収日だった。
地区ごとにあるゴミステーションは魔混凝土で造られていて、大人の胸くらいの高さの四角いコの字形をしている。そこに指定の『ゴミ袋』に入れた燃えるゴミを投げ入れると村の焼却場に即転送されて、火魔法が得意なその日のゴミ当番が焼却する仕組みになっている。
小さな子どもがうっかりゴミステーションに侵入して焼却場に転送されてしまったら危ないので、7歳以下の子どもは近付けない結界が張られている。
つまりゴミを捨てに行けるのは8歳からなので、この村で8歳を迎えたばかりの子どもの誰もがやりたがる家事が朝のゴミ出しだ。そこにはもう小さなガキじゃないというステータスが存在するからだ。
俺もその朝、燃えるゴミがパンパンに詰まった黄緑色の『ゴミ袋』3つを両手にひっ提げ、意気揚々と家から徒歩3分のゴミステーションへと向かっていた。この『ゴミ袋』も村の魔道具屋が作っている特殊な素材で、ゴミを入れて袋の口を縛ると中の臭気が絶対に漏れない。村の外にはこんな素材は存在しないのだそうだ。
「おはよう、ディエゴ君。1人でゴミ出しに来たの?お母さんのお手伝いしてえらいね」
「あっ、ルアンおじさん。おはようございます!」
後ろから声をかけられて振り返ると、ルーイの父親のルアンおじさんが両手に大量のゴミを提げて微笑んでいた。軽く10袋は越えているんじゃないだろうか?ルーイの家は大家族だから出るゴミの量もすごかった。
「ゴミを投げ入れるとき、体勢を崩して自分もステーションに入ってしまわないように気をつけるんだよ?」
「うん、わかった!」
ルアンおじさんは俺がゴミを投げ入れるのをにこにこしながら見守ったあと、自分の家の大量のゴミを軽々と投げ入れていった。屈強でデカいヘレンおばさんと違って、ルアンおじさんは背丈も身体の細さも華奢な俺の母さんとあまり変わらないので、もっと非力なイメージだったから驚いた。
「カ~ッ。ったく、かかあでもロジーナでもどっちでも構わねえが、得意の火魔法でチャチャッと燃やしてくれりゃゴミ出しなんて行かずに済むのによ~。俺がちょっと話しかけただけでヒス起こしやがってアイツらマジで母子そっくりだぜ」
ボヤきながら俺んちの反対方向からやってきたのは肉屋のトニオおじさんだった。おじさんの肉屋はスタンピードで狩った魔物の解体を請け負ったり、生肉だけでなく加工肉の販売などもしている。トニオおじさんの奥さんは火魔法が得意で、絶妙な火加減で作られたローストミノタウロスは店の大人気商品だ。
トニオおじさんは30袋はありそうなゴミ達をぽいぽいとゴミステーションに投げ入れたあと「ん?この辺なんか妙にイイ匂いするな」と鼻をヒクヒクさせながら俺のほうを見た。
俺の背後にはしゃがんだルアンおじさんが隠れている。トニオおじさんのでっかい独り言が聞こえた瞬間、ルアンおじさんの顔色がサッと変わり「ディエゴ君、おじさんのこと隠してね」と言って俺のうしろに隠れたのだ。
いくらルアンおじさんが細くても、8歳の俺の身体は大人を完全に隠すほどには大きくはない。
「んんん?誰かと思えばこの匂い、やっぱルアンじゃねえか!」
トニオおじさんに秒で見つかったルアンおじさんは抵抗する暇もなく捕まってしまった。
ヘレンおばさんほどじゃないけど身体が大きく逞しいトニオおじさんに抱きかかえられたルアンおじさんは、涙目になってプルプルと震えている。ルアンおじさんとルーイは本当に似てるなと俺は思った。
「てめえルアン!んなエロい格好で朝っぱらから男を誘ってんじゃねーよ!」
「え、エロい格好なんてしてないよっ⋯!ていうかこれ、君とまったく同じ格好じゃないかっ⋯」
この村のおっさんや爺さんはだいたいミンネ婆さんの洋品店で昔から売られている『漢の部屋着セット』を着ている。
『漢の部屋着セット』は白いタンクトップと水色に白のしましま模様の短パンのセットアップで、部屋着と言うかほぼ下着だ。作ったミンネ婆さんには悪いけど将来イケオジになりたい俺はおっさんになっても絶対に着たくない。
「むしゃぶりついてくださいと言わんばかりに生っ白い二の腕や太ももを惜しげもなくさらしやがって⋯!このお前の身体にゃデカすぎるタンクトップも、襟や脇から手ぇつっこんで乳首弄り回してほしいアピールにしか見えねーんだよっ!!」
「そ、そんな風に見えるのはトニオだけだよっ⋯ちょっ、太もも撫で回すのやめてってばっ⋯首の匂いを嗅ぐのもやめてっ⋯」
ルアンおじさんは必死に否定しているが、俺にはトニオおじさんの言いたいことがなんとなくだが理解できてしまった。
ルアンおじさんはおじさんなのに、その辺にいる若いお姉さんよりもよっぽど美人だ。トロンと垂れた瞳に桜色の小ぶりな唇、ムダ毛の1本も見当たらない白い肌に華奢な身体つきのおじさんは、近くにいると花みたいな石鹸みたいなイイ匂いがする。ルーイは完全におじさん似だった。
そんなルアンおじさんがサイズの合っていない『漢の部屋着セット』を着ると、なんだか見てはいけないものを見ている気持ちになってしまう。
「今日という今日は勘弁ならねえぜルアンッ!いつもいつも人の股間をイラつかせやがって!この俺が直々に天罰をくだしてやらあ!」
「や、やめてったらトニオッ⋯ズボンを降ろそうとしないでっ⋯」
天罰ってなんだろう。よくわからないけどこのままじゃルアンおじさんがマズいことになる気がした俺は、ポケットから学校で配布された『防犯ブザー』を取り出してそのヒモをひっぱった。
『防犯ブザー』は丸い石から伸びたヒモをひっぱるとバカでかい警報音が鳴って、近くにいる大人のところまでヒモが伸びブザーの持ち主のピンチをしらせてくれる魔道具だ。大人がそのヒモをつかむとブザーのある座標にたちまち転移する仕組みで、俺がひっぱったヒモは予想どおりゴミステーションから1番近いルーイの家にいたヘレンおばさんを連れてきた。ヘレンおばさんが来ると爆音の警報音がピタリと止まった。
「大丈夫かいディエゴ!?『防犯ブザー』を使うなんていったい何があったんだい!?」
両手に双子の赤ちゃんを抱えたヘレンおばさんは血相を変えて俺を心配してくれた。
「俺じゃなくて、ルアンおじさんが」
ヘレンおばさんは俺とおじさん達の間に転移して来たからルアンおじさんのピンチに気付かなかったようだ。
「た、助けてヘレン⋯!!」
「ゲッ、ヘレン」
うしろを振り返ってルアンおじさんの状況に気づいたヘレンおばさんは「ちょっとこの子ら抱っこしてててくんな」と双子を俺に託すと、道の真ん中でルアンおじさんに覆いかぶさっていたトニオおじさんを片手で引き剥がして大きく振りかぶり、躊躇なくゴミステーションに投げ入れてしまった。たちまち転送されて姿を消したトニオおじさん。
「あっ。トニオおじさん⋯⋯」
「トニオの阿呆なら焼却場で炙られた程度じゃくたばらないから安心しな。アイツはしょっちゅう悪さして嫁の火魔法で焼かれてるから慣れたもんなのさ」
「へ、ヘレン!!怖かった⋯!!」
大きく逞しいヘレンおばさんにヒシッと抱きついてルアンおじさんは泣きながらプルプルと震えている。
俺の腕に抱かれている双子は、この騒ぎにも動じず無表情で俺の顔を見つめてくる。俺の知ってる乳児の倍くらいデカさがあり、2人ともヘレンおばさんに瓜二つだった。
ヘレンおばさんは腰のあたりにルアンおじさんを引っつけたまま双子を受け取ると俺にこう言った。
「旦那が世話になったね。前々からディエゴには話したいことがあったんだ。ルーイは昨日から爺さん婆さんの家に泊まってていないから、うちで朝飯でも食いながら話を聞いてくれないかい?ルーイにはまだ聞かせられない話でね」
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