僕はHOLMES

くるみ最中

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第二章

part.8 おぼろ雲

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 その日は、夕方だった。シュウウは授業が4限まであったので、バイトは4時間ほどしか入れない。
 学校から帰る電車に揺られていると、シュウウの頭には、この前のことがポッと浮かんで来る。
 ヨハネが、シュウウの唇に――正確に言うと唇のすぐ横に――キスをして来たことである。

(……何であいつ、あんなことして来たんだろ……)

 ヨハネは以前に、同性が好きなことを匂わせてきたこともある。社長のことを格好良いと言ったり、シュウウと社長は付き合っているのかと聞いてきたりしたことである。
 でも、普段は何もおかしな雰囲気はなく、皆と明るく仕事をしているだけだ……。

(……やっぱり、ヘンな奴)

 シュウウはそう考えると、力が抜けたように電車の窓にコツンと頭を当てた。
 急にキスをされたりなどしたら、本当はヘンな奴止まりではなく、要注意人物のはずである。急にヘンなことをされても困る。わいせつ罪と言うことも出来る。ヘンな奴と言うよりは怖い奴のはずだ。
 ……でも、普段のヨハネは「センパイ~」と言ってシュウウになついて来て、その姿は人懐こくて憎めない奴なのに……。

(……あの時は欲求不満だったのか? いやあいつ、そんなに精力旺盛な奴なのか? 淡白にも見えるけど……)

 もし相手が他の人間だったら、シュウウは多分もう一切関わらないようにするだろう。正直、ヨハネのことだって始めは特に仲良くなる気はなかった。気が合わないと感じたら、必要以上のことは喋らなかっただろう。
 でも、少しずつ打ち解け合った今となっては、彼を自分の人生に無関係の人間として扱うことは、勿体無いとシュウウは思うようになっていた。
 ヨハネは頭が良くて仕事が出来る人間だ。性格だって良いと思える。他人との距離の取り方だっていい。魅力的な人間だと思う。
 ……なのになぜあの時だけ……。

 シュウウは悶々とするが、結局は他人のこと、ヨハネの考えていることも真実も解らない。
 もういいや、とシュウウは振り切る。家とバイト先のある駅に着き、電車を降り、改札を通ると、駅の端に見覚えのある影があった。

「……あ」

 ヨハネだった。横顔だったが、背の高さや体格、見覚えのあるデニム姿と、Tシャツの上に半袖のシャツを羽織ったリュック姿は間違いなかった。
 一緒にバイト先まで行こうかと思ったシュウウだったが、一瞬の後にその思いはかき消された。
 ヨハネは一人ではなかった。その傍には、もう一人人が立っていた。

(……ん?)
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