幼女思う。故に悪役令嬢なり。

初瀬四季[ハツセシキ]

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幼女思う

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 幼女は思った。

 どうして私はお姫様じゃないんだろう。

 一般家庭の生まれの幼女にとって、アニメやドラマや絵本の中の豪華な城で召使いにかしずかれるお姫様は憧れだった。

 そして、だからこそ幼女には夢があった。

「大人になったらお姫様になる!」

 現実をまだ知らないが故の可愛らしい夢だった。

「朔は私達のお姫様だよ~」

 幼女の両親は、彼女の夢を聞くといつもこういってその小さな身体を抱きしめた。

 食事や優しい両親に不満を持ったことは特にない。
 しかし、違うのだ。幼女にとってのお姫様には徹底的に足りないものがあった。

 そう、王子様である。

 幼女の四年という長い人生の中で、彼女はまだ王子様というものに出会ったことがなかった。

 これは由々しき事態である。

 このままではお姫様になる前に、小学生になって、中学生になって、高校生になって、一流大学に入って、安定した職業に就く。という薔薇色の人生を送ることになってしまう。

 幼女は悩んでいた。

 どうすればお姫様になれるんだろう。

 そして、幼女は形から入る事にした。
 母親の部屋からメイク道具と、ヒラヒラしたドレスを持ち出し、鏡の前に陣取る。

 その小さな身体にはあまりにも大きすぎるドレスを身にまとい、口にリップを直接塗る。

 溢れ出る達成感に満足げな鼻息をもらし、鏡の前でポーズを取る。

 鏡には、グチャグチャの赤い線が顔中に描かれ、ホラー映画に出てきそうな見た目になった幼女の姿が映っていた。

 あまりにも酷い自分の姿に、思わず引いてしまい、その拍子にドレスの裾を踏んで前のめりに転ぶ。

 目の前の鏡に頭がぶつかった。

「ひぎっぃぃぃったぁぁぁぁ⁉︎‼︎‼︎」

 悶絶しながらゴロゴロと転がりまわる幼女。

 泣きながら顔を上げ、もう一度鏡を見ると、どうやらヒビが入ってしまったようだった。

「やばい。怒られる」

 どうにか隠さなくては。そう思い、何か大きな布はないかと周りをキョロキョロと見回す。

 するとそこは、幼女のもといた八畳の部屋ではなかった。

 そこは、アンティークの家具と、華美な装飾が施され、天井には豪華なシャンデリアが吊るされた、だだっ広い西洋風の部屋だった。

「なにこれ」

 もう一度ヒビの入った鏡に目線を移すと、そこに映っていたのは、ホラーな幼女の姿ではなかった。

 そこにいたのは、ウェーブがかった金髪を背中に流した、青い瞳の十六歳程度の少女だった。

「どうかなさいましたかサクヤ?」

 声に振り向くと、銀色の髪に緑色の瞳をした、幼女が思い描いた以上のイケメンがそこには立っていた。

「・・・・・・王子様だ」

 
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