冷淡騎士に寵愛されてる悪役令嬢の兄の話2nd

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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胸の痛み

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夜、カイウスが帰ってきて庭に咲く灰色の蕾を調べていた。
俺の悪魔の紋様についても話したら、花になにかしらの関係があるとカイウスは言った。

俺もそんな気がする、全て夢で見た灰色の蕾を見てから起こった事だ。

俺は危ないからと、離れたところで見守っている。

カイウスも見た事がない花のようで、花びらに触れていた。
離れていて、においを嗅いでいないのにまた胸が痛くなる。

なんでだろう、カイウスは花に触れているのに俺が触れられているようだ。
あの花が俺と繋がっている?いやそんな事は…

この世界ではあらゆる事が起きる、ありえない事ではない。
でも、メシアが消滅する前に俺になにかしていたらすぐに異変に気付きそうなものだけど、思い当たらない。

思い当たらないほどその異変に体が慣れたって事?

カイウスとはすぐに体の不調を知らせる事を約束したから、カイウスのいる庭に近付く。

壁に寄り掛かりながら進まないと上手く進めない。

隣にいるリーズナは心配そうに見ていて、大丈夫だと笑みを浮かべた。

庭はカイウスの光で夜でも明るくなっていて、幻想的だ。

「か、カイウス」

「どうした!?」

俺の声に気付いたカイウスは慌てて駆け寄ってくる。
体を支えられて、一緒に庭にあるベンチに座った。

花とは離れたところにあるベンチだから影響はないだろう。
しかし、さっきも離れていたのに何故痛くなったんだろう。

まだ毒が完全に消えていなかったって事なのかな。

カイウスにキスをされて、やっと落ち着いてきた。

安心して力が抜けてもたれかかると、頭を撫でてくれた。
俺、こんなに病弱じゃなかった筈なんだけど…なにが原因なのかな。

花の毒だと思う事が、そもそも違うのかもしれない。

「自分の体の事なのに、自分が分からない」

「あの花は、この国のものじゃない」

「……え?」

「そもそも、人の住む場所で咲く筈はない花だ」

カイウスの言葉に驚いて、花があるところを見た。
人が住めないほどの冷たい氷山にしか咲かない花。
有毒性もなく無害で、どんな重装備でも人が一秒でも入れないところだから知る人もほとんどいない。

カイウスはあらゆる事を考えて遠征もしているから、見た事があった。
ただこの場所で咲いている筈はないと思っていし見たのは一度だけだから、心当たりがなかった。

花の正体は分かったけど、無害ならなんで俺の体が反応したんだろう。

それに、なんで俺の夢にも見た事がない花が見えたんだ?
似ているものではなくて、完全に同じ種類の蕾だった。

「俺が見た花と似ているが、全く一緒だと考えるのは早い」

「……うん」

「大丈夫、俺が原因を探す…だから心配しないでいい」

カイウスにそう言われると、全信頼で俺も安心出来る。

これ以上は調べられないから花びらを一枚取って、研究機関で調べる事にした。

俺も家で暇を持て余しているから内職をしたいとカイウスに伝えた。
カイウスは休んでなくて大丈夫かと俺の体調を心配していた。

俺はもう大丈夫、カイウスのキスでいつも以上に元気だから。
庭に出る時も花に近付かないし、花のせいじゃなかったらどうする事も出来ない。

ただ黙ってカイウスに全て甘えて待っているだけなんて嫌だ。

カイウスを見つめてそうお願いをすると、頷いてくれた。

無理はしない事を条件に、俺の新しい仕事が決まった。

「ライム、一度医者に診察してもらうか」

「うん、そうだね…なにがあるか分からないし」

「大丈夫だ、俺の信頼している医者だ」

夕食を食べている時、カイウスがそう言っていた。
カイウスがいるなら全然心配していないし、信頼している人なら俺も安心だ。

心に残っているのは医者の事ではなく、怖いのは病気の事だ。

もし、俺が…残り僅かな命だったらと思うと苦しい。
嫌だ、カイウスと離れたくない…俺の体なんだから元気になってよ。

何度も死にかけたりしていたが、病気はどうする事も出来ない気がした。

余命宣告されたわけではないのに、その日の食事の味は全然しなかった。







※カイウスの話

ライムが眠り、俺も家での仕事を終わらせて部屋を出た。

「ごほっ」

ライムの気配が近くにいない事を確認して、口を押さえながら咳をする。

頭がズキズキと痛い、熱っぽい気もする…風邪だろうか。
ライムが大変な時に、俺が病気になっている場合ではないのに…

部屋に戻ると、ドアの前にリーズナが座っていた。

今日もライムを守ってくれてありがとうと手を伸ばした。
自分の体にリーズナを入れると、いくつか痛みがマシになってきた。

いつもの調子ではないが、ライムに気付かれる事はない。

ライムに近付くと、可愛い寝顔がこちらを向いていた。
ずっと守っていたい、俺が守る…誰からも何からも…

俺のこの体を蝕むのはただの病気なのか、それとも…

胸に触れてもライムは起きる事なく、寝息を立てている。

「可愛い可愛いライム、俺がどんな奴が相手でも守るから」

病気だろうとなんだろうと、俺が必ず殺してやる。

ポタポタと手の甲に落ちた真っ赤な液体を袖で拭った。
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