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アンジェリク②
しおりを挟むそれからさらに五年の歳月が流れ、アンジェリクは二十五歳になった。
ジュリアンとは未だ本当の意味で夫婦にはなれていなかったが、だからといって不仲というわけでもなかった。
寝室は別でも、昼間は政務で顔を合わせているし、笑顔で会話もする。
十八歳になったジュリアンの顔からは幼さが抜け、細く小さかった身体はぐんぐんと背を伸ばし、胸板には男性らしい厚みが出てきた。
近頃では為政者としての貫禄も身についてきたジュリアンに、アンジェリクは自身がこれまでとは違う感情を抱き始めた事に気付いた。
いつの間にか、ジュリアンを男性として愛してしまっていたのだ。
しかし、アンジェリクが自分の気持ちに気付いてからほどなくして、とある噂が城内を駆け巡った。
ジュリアンが、西の隣国アトラスから、第一王女シエラを第二妃として娶るのだと。
アトラスのシエラ王女とは、これまで何度か顔を合わせている。
ジュリアンより二つ年下の王女は、意志の強い瞳が印象的な美少女だった。
周囲からとても愛されて育ったようで、相手が誰であろうと物怖じせず発言し、お付きの者たちはひやひやしながら見守っていたが、ジュリアンはそんな彼女の事をいたく気に入ったようだった。
最初は、年の近い友だちができたような感覚なのだろうかと思っていたが、ジュリアンがシエラに向けるのは、どれも初めて目にする表情ばかり。
今思えば、あれがジュリアンの恋の始まりだったのだろう。
頭の中が真っ白に染まり、何も考える事ができなかった。
いつかこんな日が来る事はわかっていたはずなのに、心も身体も言う事を聞いてくれない。
その日から、アンジェリクは飲まず食わずで寝室に籠もった。
何度かジュリアンが様子を見にきたようだったが、侍女に決して中には入れぬよう伝えた。
自分を律する事もままならないこんな状態で、ジュリアンの口から縁談について聞かされたら、きっと取り乱してしまうから。
三日後。
何とか立ち上がれるようになり、寝室を出たのだが、その後もアンジェリクの不調は治らなかった。
けれどそんなアンジェリクとは正反対に、城内はめでたい話題で皆が浮足立っていた。
そしてあろう事か、ジュリアンはアンジェリクに、シエラ王女を歓迎する宴に出席しろと言うのだ。
つらくてたまらなかった。
家族になろうと思った。
けれど今のアンジェリクは、ジュリアンにとって家族どころかただの邪魔者だ。
もしかしたら宴の席で、シエラ王女と仲睦まじい姿を見せつけて、自分から王妃の座を降りるよう仕向けるつもりなのかもしれない。
あのジュリアンに限って、そんな事あるはずはないと思いたい。
けれど、恋は人を変える。
その後、傷付くアンジェリクに追い打ちをかけるように、王宮の貴賓室に職人らしき者たちが頻繁に出入りしているという情報が入ってきた。
アンジェリクはピンときた。
それはおそらく、シエラ王女を迎え入れるための改修工事か何かだろう。
急な話だ。新たな宮殿の建築には相当な時間がかかる。
もう駄目だ。
──急いでここから出なければ
そうしなければ、ジュリアンもアンジェリクも不幸になるだけだから。
その日からアンジェリクはひとり、城を出るための計画を立て始めたのだった。
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