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しおりを挟む「今日お伺いしたのは他でもない、私たちの今後についてです」
ユランは本題に入る前、アルウェンに顔を向けた。
きっと、二人の気持ちが同じであることを確認しているのだと思ったアルウェンは、ユランの瞳を見つめたあと、ゆっくりと頷いた。
するとユランも確信を得たとばかりに頷き返した。
「アルウェンの口から、皇宮より届いた書簡について話を聞きました」
僅かに眉を顰めた父に気づいたユランは、すぐさま『決して他言していないし、するつもりもない』と言葉を添えた。
「シャトレ侯爵家から皇太子妃を迎えたいとの打診……打診とはいえ実質命令です。お二人のご心痛、お察しいたします」
思いがけずユランの口から出た気遣いの言葉に、両親の雰囲気が和らぐのを感じる。
どうやら、責められる覚悟はしていたようだ。
「君も良く知っている通り、我が家に娘は二人。しかもアルウェンは君と婚約している。本来であればシンシアを差し出すのが筋なのだろうが……この子に皇太子妃が務まるとは到底思えない。万が一の事があれば、それはそっくり我が家門に降り掛かってくる」
皇太子が噂通りの人物であれば、出来の悪い妃を後々どうするかなんて目に見えている。
家族だけではなく、領民の未来も背負っている父が、シンシアではなくアルウェンを差し出そうと心が揺れるのも無理はない。
シンシアが我儘を言おうが言わまいが、今回ばかりは両親も同じように悩んだはず。
けれどシンシアが事の重大さを理解し、心を入れ替えれば──例え付け焼き刃だとしても、嫁ぐまでの間最低限必要な礼儀作法を学べば、状況は変わってくるはず。
そう信じたかった。
「お父様、まだ時間はあります。皇族との結婚であれば、最低でも支度には一年以上はかかるはず」
皇太子の結婚ともなれば、国を挙げての慶事。
国賓を招待する準備や式典の警備など、考えなければならない事が山ほどある。
その間にシンシアを再教育し直せば──
「式は宣誓のみで、簡素に済ますつもりらしい」
「え……?」
聞き間違いかと思ったが、父の表情を見る限りどうやら真実らしい。
「そんな……帝国の皇太子が結婚を宣誓だけで済ますなんてあり得ません。何かの間違いでは?」
「いや、先日追加での通達があった。間違いない。先の戦で被害を受けた地域の復興を優先するためと」
それでは猶予も何もあったものではない。
「ですが、せめて花嫁衣装など……嫁入り道具を揃える時間は貰えるのですよね」
「ああ、それくらいは当然だろう。式典はしないにしても、皇太子の結婚を周知させる必要もあるだろうし」
それならば皇宮へ入るのは短く見積もって半年後といったところか。
「では、僕たちの婚約の組み直しも急がなければなりませんね」
「え?」
アルウェンを含むその場にいる全員の視線が、ユランに集中した。
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