【本編完結】アルウェンの結婚

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 「イスマール商会と申します」

 帝都に居を構える貴族でイスマール商会を知らぬ者はいないだろう。
 そしてその店は、他でもないアルウェンが、ウェディングドレスの生地を発注した店だった。
 しかもドレスだけではない。
 ヴェールとその刺繍に使った糸やビーズやスパンコール……装飾のすべてを揃えた。
 店内は世界各国から仕入れられた商品が所狭しと陳列されており、一度足を踏み入れれば時間を忘れて見入ってしまう。
 
 「夢のように美しい品々を扱うお店よね。あなた、幼い頃からそれらに囲まれて育ったのに、離れるのはさぞかしつらかったでしょう」

 美しいものを愛でる心に男も女も関係ない。
 店を継ぐつもりでいたというのなら、商品についてもかなり勉強したはずだ。
 探究を重ねるほどにその素晴らしさを実感し、愛着も湧いたはず。
 アルウェンの言葉に、エニスは深く頷いた。

 「だからこそ、私のような者が継ぐのは申し訳ないと思いました。あそこはお客様が夢を見る場所。私のような者がいては、夢が覚めるどころか商品の輝きも色褪せてしまいます」

 「なんでそんなこと言うの──」

 突如、眦に向かって一気に熱いものがせり上がり、アルウェンの瞳から滝のように流れ出した。

 「お、おい。大丈夫か」

 涙を滂沱として流し出したアルウェンに、サリオンを始めその場にいた全員が慌てた。

 「だって、だって、二人とも自分を犠牲にした上に、こんなに努力してきて──それなのに、自分を卑下するようなことを口にしちゃだめよ!」

 どうしてこんなに熱くなっているのか自分でもわからない。
 けれど、悔しくて悲しくて仕方なかった。

 「そう思うのは、自分と似ているからだろう」

 「私と?彼らが?」

 「おまえも自分を犠牲にしてここにきた。けれどおまえとこいつらはひとつだけ違うところがある」

 「なんですか」

 「おまえは決して自分を卑下しない。だから余計悔しく感じたんだろ。こいつらが、ただ自分を犠牲にしてるだけのように感じて」

 その通りだ。
 例えすべてを諦めさせられたとしても、アルウェンは決して挫けたり、自分を卑下したりしない。
 相手を喜ばせ、思い通りにさせるのが悔しいからだ。
 ドドとエニスに必要なのは、自分に対する確固たる自信だ。
 そして二人にそれを与えてあげられるのは、直近ではアルウェンだけ。

 「殿下!!」

 「お、おう」

 「私、この二人が欲しいです!!護衛は交代制ですよね!?いいですよね!?」

 アルウェンはずずいとサリオンに詰め寄った。
 

 
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