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しおりを挟む「ん……」
目を覚ましたアルウェンは、自分の身体がひどく熱を持っていることに気づいた。
節々が痛く、呼吸が浅い。
(熱い……お水……)
起き上がろうにもうまく身体が動かせない。
やっとの思いで横を向き、上半身を起こそうとしてよろめいたアルウェンを、逞しい腕が支えた。
「無理をするな」
「殿……下……」
大きな手が額に触れた。
ひんやりとしていてとても気持ちが良い。
自然と身体から力が抜けて、アルウェンは思わず目を閉じて身を任せた。
「疲れが出たんだろう。これまでずっと気を張ってきたからな」
額から離れた手が、ベッドサイドテーブルに置かれた銀のゴブレットへと伸びる。
「飲めるか」
差し出されたゴブレットを両手で受け取るが、うまく力が入らない。
すると、少し震える両手を支えるように、サリオンの大きな手が添えられた。
口元に運んだゴブレットをゆっくり傾けると、冷たい水が喉を通って身体の奥にしみ渡る。
「もう少し飲むか」
おかわりを聞かれたが、アルウェンはふるふると力なく首を振った。
サリオンに預けていた身体が再びベッドに沈む。
仰向けになり、薄く目を開けた先に見えたのは、見覚えのある天蓋。
「ここは……私、どうして……」
サリオンと喧嘩別れしたまま、自分のベッドで眠ったはずなのに、それからの記憶がない。
「……迎えに行ったら掛布もなしにベッドで横たわるおまえがいた。抱き上げてすぐに高熱があるとわかった」
「……迎えに……きてくださったのですか……?」
「当たり前だろ」
アルウェンの瞳から、熱いものが頬を伝ってこぼれ落ちた。
てっきりアルウェンと顔を合わせたくないから夕食をキャンセルしたのだと思っていた。
夜も当然ひとりだと。
「ごめ……ごめんなさい殿下……私、嫌な態度を……」
回らない頭で必死に言葉を紡ぐアルウェン。
サリオンの表情が優しく緩んだ。
「おまえの気持ちも考えずに悪かった」
「違います……私、私がいけないのに」
「……あれの話はまた今度改めてする。だからもう寝ろ。俺がいるとゆっくり眠れないなら部屋を分けるが」
「いや、いやです……!」
アルウェンは咄嗟にサリオンの袖を掴んだ。
「……ここにいて……」
どこもかしこも熱くて苦しい。
湯浴みもしていないし、涙と鼻水もそのままでぐちゃぐちゃだ。みっともない。
でも、どうしても離れたくない。
サリオンはサイドテーブルの上のリネンを取り、少し乱暴にアルウェンの顔を拭いた。
「……痛ぁぁい……!」
抗議の声を上げるとサリオンは小さく噴き出した。
「側にいる。だからもう寝ろ」
サリオンはリネンを置くと、アルウェンのすぐ側で横になった。
さっき拭いてもらったばかりなのに、瞳からまた涙が溢れ出す。
アルウェンはサリオンの胸元にしがみつき、顔を擦り付けた。
「おい、俺で拭くなよ」
そんなの構うものかとアルウェンはぐりぐり顔を押し付けた。
すると、背中に手が回り、ぎゅうっと力が加わった。
鼻腔を満たすサリオンの香り。
アルウェンは、赤子のようになにもかもをサリオンに預け、眠りについた。
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