【本編完結】アルウェンの結婚

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 建国祭当日。
 皇太子宮に勤める侍女たちは燃えていた。
 結婚式も宣誓のみで済ませた皇太子夫妻にとって、今日の式典はいわば各国へのお披露目の場だ。
 今日までアルウェンの頑張りを一番近くで見守ってきた侍女たちは、懸命にサリオンを支えようという彼女の姿勢に深く感銘を受けた。
 それにより、最初こそアルウェンに遠慮がちに接していた侍女たちも、今では影になり日向になりサポートするまでになった。
 そして今朝、自慢の主であるアルウェンを最高の形で送り出さなければという使命感に駆られた侍女たちは、アルウェンの起床よりもずっと早くから持ち場について待ち構えていた。
 
 「あ、あの」

 異様な空気漂う皇太子宮に朝早く訪ねてきたのは、先日アルウェンが身に着けたネックレスを届けにきた初老の男性と、兵士が二人。
 
 「あら、あなたは……」

 アルマは、男性が両手で持っていた、先日とは比べ物にならないサイズのビロードのケースに目を留めた。
 
 「先日はどうも。本日もサリオン殿下の命により、お届け物に参りました」

 聞けば男性は皇宮の宝物庫を管理しているといい、先日のネックレスもそこから持ってきたのだという。
 宝物庫の中の宝石類は、代々皇后のみが使用することを許可されている。

 「本日はこちらのパリュールをお持ちしました。どうぞお確かめください」
 
 恭しい手つきで開けられたケースの中から現れたのは、目も眩むほどの輝きを放つティアラ・イヤリング・ネックレス・ブローチのセット。
 これほどの品を運ぶのだ。
 例え安全な皇宮内といえど、兵士を連れてきたのも頷ける。
 
 「こちらのお品は今は亡きサリオン殿下の母君、皇后陛下が最後に参加された式典で身に着けておられた物です。先日のネックレスの時もそうでしたが、サリオン殿下が自ら選ばれました」

 その言葉を聞いた瞬間、アルマを始め侍女たちは皆目頭を熱くした。
 直接サリオンの口から聞いたわけではないが、彼が亡き母親のことを大切に思っていたであろうことは知っていた。
 なぜならサリオンは、皇后の命日には欠かさず墓参りをし、部屋の本棚には思い出の絵本が今でもおさまっているからだ。
 母親を亡くしてからずっとひとりで戦ってきたサリオン。
 その彼が、母親との最後の思い出の品をアルウェンに授けようとしている。
 アルマは堪えるように唇を噛んだあと、鼻から大きく息を吸い込んだ。

 「こちら、殿下がお目覚めになるまで大切にお預かりさせていただきます。そしてアルウェン様の世界一美しいお姿を、必ず殿下にお見せすると約束します」

 「それはさぞかし殿下もお喜びになることでしょう。では私も遠くからですが、美しい妃殿下のお姿を拝見するのを楽しみにしております」

 男性は目を細め、微笑みながら返した。






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