FLOWORLD~美しさの持ち主~

まさのりくん

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壱の章 最西端軍事国家キギス

什陸 リミット一時間

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什陸. 『リミット一時間』


 肌を撫でるような優しいそよ風が首筋を沿って全身に広がる。

——気持ちいい。

 俺は目と閉じたまま全身を包み込んだ涼しい風を感じる。その風に当たっていると考えることさえ忘れてしまう。

 暫く風に身を任せて心酔していると、やがてその風は荒んでいき、俺の皮膚にはこそげられるような激痛が走る。そして、その痛みが脳内にまで浸食していくと、ほんのりと金色と紺色の二人の可愛らしい少女が暗闇から現れる。その少女たちを見ると一瞬全身の痛みを忘れた。

——ああ、可愛い……。

 手を伸ばせば届きそうで、俺はのっそりと手を前に伸ばしてみる。しかし、少女たちは俺の気持ちも知らずにただただ俺から遠のいていくばかりだ。そして遠ざかる彼女たちの顔を見据えると闇の底に淀んでいた俺の思考が徐々に闇から浮き上がる。

 不敵な笑みを浮かべた金髪の少女と口から鮮紅色の血を流して苦しんでいる紺色の髪の少女。カンナとソエだ。俺は今までのことを全て思い出して必死でソエに手を伸ばして叫んでみる。

「ソエ!!!」

 すると、俺の目に映ったのは青い空とゆっくりと風に流れている日光を吸い込んだ真っ白な雲。俺は冷たい地べたで仰向けになって空に手を伸ばしたまま固まっていた。

「海時、気が付いた?」

 俺の視野からユリ姫の顔がヌッと出てくる。彼女は泣かんばかりに俺を見ている。

「ゆ、ユリか…。」

 俺はユリの顔を見てカンナに連れ去られたソエのことを思い出した。そしてすぐ身を起こして彼女に問い詰める。

「おい、ユリ!ソエは!!お前今ここで何してんだ!」
「ソエは既に…。」
「なんで追わない!!」

 俺がユリ姫に声を励ます。すると、後ろからホオノキが話に割り込む。

「無駄だった。空を飛んで逃げられたからどうしようもできなかったんだよ。」
「は…?お前なんでここにいるんだ…。」

 彼の代わりにユリ姫が返答する。

「この方たちが気を失った海時と佐次郎君を雉山きじやまの外まで運んでくれたのよ…。」

 俺は胸から血を流しながら気を失っている佐次郎とホオノキが率いる山賊たちを一度見回して状況を整理してみる。

「姫様のお言葉通り、お前と佐次郎をここに運んでやった。」
「なんで?」
「なんでって…、姫様に頼まれたからに決まっているだろうがよ!」

 俺がボウッとしてホオノキを見上げているとユリ姫が焦りが募った顔で話した。

「それより、もう時間がないよ…!」
「そうだ!今何時だ?!」

 その瞬間、街の方から喇叭らっぱの音が聞こえて来た。

「もう行事が始まって一時間半も経ったわ…。」
「え…?」
「東総門に回るまであと一時間しかないの。」
「くそ!なんで俺は今まで寝てやがったんだ…!ソエが連れ去られて何時間経ってんだ。」

 俺は思いっきり地面に拳を打つ。

「姫様から子細はすべて聞いた。お前、その小娘を追うつもりならやめろ。」
「なにっ?!お前!!人のことだからって勝手に言うんじゃねえ!」
「海時…!!」

 俺がホオノキに歯を立てて声を上げるとユリ姫が俺を止める。

「ユリ…?」
「あなたの気持ちはよく分かる。でも、彼女のことは一旦置いといて今はホオズキの屋敷に向かうべきだと思うよ。」
「お前まで何を言ってやがる…?お前はソエに命まで助けてもらったんだろうが!!」

 俺は激昂して彼女の両肩を強く掴む。

「痛い…!」
「貴様!!姫様から手を放せ!お前は姫様に助けられたんだぞ!!」
「黙れ、ヒゲ!!なんで俺を助ける!!ソエを助けりゃよかったじゃねえか!!」
「ひ、ヒゲ…。聞き捨てならないな、この恩知らず野郎が!!」

 ホオノキの話に立腹した俺はユリ姫に指を差して言う。

「誰が恩知らずだ!恩知らずはこいつだぞ!!」
「無礼極まりない!!」

 ホオノキは左足で地べたに座っている俺の顔面を体ごと蹴り飛ばす。

「海時…!」

 ホオノキの蹴りで飛ばされ、地面に二、三度転んだ俺はすぐに立ち上がってホオノキに突っかかった。

「こん野郎にゃろう!!!」

その時、横から佐次郎の声が聞こえてきた。

「お二人とも無駄な争いはやめてください!」

 佐次郎の言葉に俺は足を止めた。ホオノキも構えた拳をどっかりと下へ落とす。

「佐次郎君!大丈夫?」
「はい、こうしている場合じゃないです。」

 ユリ姫を見ていた佐次郎は俺に顔を向けて言った。

「海時さん、僕は屋敷へ行きます。海時さんは好きにしてください。そもそもこれは僕一人の問題でしたから、皆さんに迷惑かけられません。」
「お、おい…。その体でどうする気だ!」

 応急処置で適当に傷の手当てをしてもらった佐次郎の体には凍傷した痕と血の滲んだ包帯が巻かれていた。佐次郎は震える足を引きずりながら鳥之都とりのみやこの北西へ行こうとした。

「僕に彼女を助けられるチャンスは今しかないんですよ!だから、海時さんは自分のやるべきことをしてください。」
「おいおい…その体じゃ犬死だぞ…。」

 俺が佐次郎の行動を否定すると、彼は俺に、

「それはやってみなきゃ分からんだろうが…!!僕はまだ死んでない!そしてこれからも死なない!!」

と、初めて俺に向けて本気で怒った。俺は結局彼に言い返す言葉を見つけられず突っ立って遠ざかっていく彼の後姿を眺めることしかできなかった。ホオノキは一人で屋敷へ向かおうとする佐次郎を呼び止める。

「おい、佐次郎!俺のこと覚えてるか?ホオノキだ。」
「ホオノキ様…。もちろんですよ。あれから、六年…なぜ屋敷を出たのですか…。屋敷を出て何をしてたんですか…。またその髭は一体…。」

 二人は歩きながら話を続けた。とにかく俺もユリ姫と一緒に二人の後ろについて行くことにした。

「馬鹿オヤジと馬鹿アニキが半神デミゴッドを使ってとんでもないことをしようと悪巧みしていたから縁を切ったまでだ。あの二人はいかれるやがる。だから危機意識のない小僧たちが鳥之都に近づけないように雉山で諫めて帰らせようとしていたんだ。」

——だから、俺とソエが雉山に入った時も俺にだけ敏感に反応してたのか…。

「髭を生やせば険悪な顔になると思ってな。似合うか?」

 後ろで聞いていた俺が話に割り込んだ。

「変だぞ!その汚い髭どうにかしろ!」
「貴様は黙ってろや、クソガキ!」
「また始まった…。」

 俺はホオノキと口喧嘩をしながら佐次郎について行った。その時、佐次郎か無言のまま道端に倒れてしまった。

「「佐次郎!?」」
「佐次郎君!?」

 俺たちが佐次郎に近づくと彼の様子が変だった。ユリ姫はすごい汗を掻いて肩で荒い息を切らしている佐次郎のおでこに手を当てて体温を測った。

「すごい熱よ!」
「いきなりどうしたんだ?」
「さっきの攻撃の後遺症が今出て来たのよ。体全体を凍らせるような冷気を半神が耐えるには無理があるからね…。」

 俺は慌てて言い出す。

「早く隅角の病院に運ぶぞ!」
「だめよ。」

 ユリ姫はきっぱりと撥はねつける。

「なんでだよ!」
「今隅角に向かうと公家の者たちと捜索隊に見つかってしまうからだよ!だからあなたが気を失っていた時もただ起きるのを待つことしかできなかった…。」
「くそ…!どうすれば!!」

 俺たちが焦っていると佐次郎が息を切らしながら話した。

「ハア…ハア…。海時さんは早くソエさんを助けに行ってください…。」

 すると、ユリ姫が俺を説得する。

「海時、ソエはきっと無事よ。カンナという子がソエのことを商品って呼んでいたから、危害を加えることはまずないと思う。だから、ここは私の顔に免じて佐次郎君の力になってあげてほしい…。彼は本当に今のチャンスを逃せば友達が殺されてしまうかもしれないのよ…?」

 俺は迷い始めた。さっき気が付いてから今までずっと気持ちが落ち着かなかったのはこれのせいだったんだろうか。

「海時さん…、早く…。」
「海時…!」

 俺は佐次郎とユリ姫の顔を交互に見る。

「俺にそんな顔をするなよ……。」

 俺は暫く悩んだ末に決断を下した。

「くっそおぉ!!屋敷に行くぞ!!おい、ヒゲ!お前も手を貸せ!」
「なんだと?!」
「お前が住んでた家だろうがよ!だから案内しろ!」

 佐次郎が汗まみれになって俺に聞く。

「海時さん…。なぜ…。」
「俺はソエに約束したんだ。お前も奴商所のみんなも俺が必ず助け出すって。それと、一度だけのチャンスなら逃すわけにはいかないからな。」

 隣にいたホオノキが困った顔をして話した。

「ったくよ…。自分勝手な野郎だぜ。しょうがない!俺もアニキには個人的な恨みがあるからお前たちに手を貸してやる!」
「決まりだな!」

 そうして俺とホオノキは一緒にホオズキの屋敷に乗り込むことにした。

「佐次郎、和の居場所はどこだ?」
「サツキ様が居られた地下室の部屋の奥です…。」
「地下室の奥だと?そんなのなっかっただろ?」
「サツキ様の死の原因を和だと思っていたホオズキ様が彼女に地下室の奥を掘らせてそこで暮らすよう指示したのです…。」

 佐次郎が話を終えた途端、彼はまた気を失ってしまった。ホオノキが佐次郎の話を聞いてドンと足を踏み鳴らす。

「相変わらずクソ野郎だ。六年前から何かに取り憑かれたように様子が変だったのにあによめが死んでからは完全にいかれた野郎に成り下がっちまって…!一発食らわせてやりたいぞ!」
「同感だ!!早く行くぞ!ユリ、佐次郎のことはお前に頼んだ!」
「は、はい!任せてください!」

 ホオノキは山賊たちにユリ姫の援護を任せた。

「野郎ども!姫様を援護するんだぞ!」
「ホオノキさん、俺たちは付いて行かなくていいんすか?」

 この間雉山で俺とソエに戦斧を投げていた山賊がホオノキに聞いた。

「俺のことを心配するのか?」
「い、いえ…。すんません…。」
「この人数で行くと逆に騒ぎになるからな…。頼んだぞ、オダマキ。」
「はい!!」

 俺たちが佇んでいるとユリ姫が俺たちの背中を押して言う。

「あと時間まで約二十分です!急いでください!」

 後ろから背中を押された俺とホオノキは急いで北西部へ足を運ぶ。

 俺は屋敷へ向かう途中ホオノキに話をかけた。

「な、ヒゲ。」
「ホオノキって呼べ!なんだヒゲって…。」 
「ホオノキ、お前、あの時俺を守ろうとしたのか?」

 俺が雉山のことを聞くとホオノキは焦り顔を見せる。

「だ、誰がお前なんかを助けるんだ!」
「図星かよ…。」
「違うって!」
「山で会ったのがお前で良かったと思う。」

 俺が真顔で話をすると彼も真摯しんしな顔で俺を見る。

「お、お前…。」
「あの日、お前の名前を聞いておいて良かった。」
「や、やめろ。気色悪いぞ…。」
「俺はさ、この国で十六年間生きていながらも全然この国のことを知らないんだ。だから、知りたい。六年前にこの国で一体何が起きたんだ。」

 俺が六年前の出来事をホオノキに聞くと彼は返答を回避しようとした。

「この世には知らない方がいいこともあるんだぞ。お前みたいなガキなら尚更だ。」
「ホオノキ、そうやって真実を隠蔽いんぺいすることで何か変わるって言うんだ?」
「それは…。」

 俺は問い詰めた。

「言えよ。俺はこの国」
ノドカを連れて無事に屋敷から出られたら話してやる。俺が見て聞いたすべてを。」
「絶対だぞ。」
「男に二言はない!」

 そう約束を交わした俺たちはリミット時間をあと数分残してやっと北西部に着いた。俺は南総門と同じ高さの壁を見上げる。すりと、ホオノキが口を開ける。

「この壁の向こうが屋敷だ。」
「どうやって壁を超えるんだ?」
人族じんぞくの脚力ならこんな壁くらい簡単に越えられる。」

 俺は首を傾げて聞く。

「つまり…?」
「つまりこれだ!行くぜ!!」

 ホオノキがいきなり俺は担いで壁の上に跳躍した。

「ちょ、ちょっとおぉぉ!!」

 凄まじい脚力で飛び上がったホオノキは一瞬で壁の上に着地した。彼が跳躍した地面にはひびが鮮明に入っていた。

「やあ…。やっぱり人族はすげえよ…。何度見ても驚かされるぜ…。」

 俺は一瞬シレネの手下をやっつける時のソエの跳躍を思い出した。ホオノキが俺を下すと俺は壁の上から壁の下の景観を俯瞰する。

「すごい…。街が一目で見れるぜ…。綺麗な街だ…。」
「花鳥宴か…。」

 空から舞い散る花びらを見ながらホオノキが呟いた。

「ん?」
「俺はこの宴会が大嫌いだ。」
「なんでだ?」
「愚民政策の一つだからだ。民を欺くためのまつりごと。それより、あの赤い瓦屋が見えるだろ?あそこに跳ぶぞ!」

 ホオノキは右側に見える赤い瓦屋に指を差すと、いきなり俺の背中を押して俺は壁から落とされてしまった。

「うううわあああああっ!!」

 瓦が砕ける音とともに俺は頭から瓦屋の上に着地した。そのせいで、屋敷の門番に気づかれてしまった。

「何やつだ!!おい!侵入者だ!!」
「やっべえ!!くっそ!!ホオノキの野郎!!」

 呼び笛の音が四方から聞こえて来た。俺は必死で屋敷内を逃げ回ってホオノキを探していた。

「あいつ、どこに行きやがった!!まさか、今になって一人で逃げやがったんじゃないだろうな…?」
「見つけた!!どっから入ってきたこのガキ!」


 俺に刀を向けて突っかかってくる兵士の鼻を強く叩いて気絶させた。

——おっさんが教えてくれた護身術ってすげえ…。本当に気絶しやがった!

俺は感心しながらホオノキを探した。屋敷に配置されていた兵士たちは俺の存在に気づいて少しずつ居間に集まってきた。俺は建物の裏に潜んで壁の隙間から居間を垣間見る。そして周りを見回すと、居間の向こうに地下室のような入り口が見えた。俺がこそっと兵士たちの目を盗んでその建物に近づくと、待っていたと言わんばかりに兵士たちが俺を囲い込んで刃を向けた。

「このネズミ野郎。捕まえたぞ。」
「あはは…、こんにちは。」
「ここが誰の屋敷だと思っているんだ!」
「貴様をケイリンの間者とみなして今すぐ捕縛する!」

 俺が兵士たちに追い込まれると屋根の上からホオノキが落ちて来た。そしてあっという間に兵士たちの急所を狙って気絶させる。

「ホオノキてめぇ!!てめえのせいで兵士たちにバレたじゃねえかよ!」
「すべて計画通りだ。」
「どういうことだよ、ヒゲ野郎!」
「お前が囮になっていた間にアニキの部屋から地下室の鍵を取ってきたんだ。」
「な、なるほど…。じゃあ、それを最初に言えよ!」

 俺はホオノキのお尻を蹴りながら怒る。

「おい、海時。さっさと入るぞ!」
「お、おう!」

 ホオノキは錠に鍵をはめて回した。すると、カチャッと軽快な音とともに錠が落ちて古びた扉が少しずつその中を見せる。ギギギギッと軋む音が止むと扉の中には地下室に通じる通路が現れた。俺たちはすぐにその奥へ足を運んだ。

「和!!いるか?!」
「和!いるならへんじをしろ!」

 俺たちは湿った地下室の階段を下りながら彼女の名前を呼んでみた。すると、一番奥の方からか細い女の子の声が聞こえてきた。

「だ、誰ですか…?」

 俺たちは声がするところへ駆けつけた。俺たちが駆けつけたところには頑丈な鉄格子とその中にはそそけた桜色の髪を肩まで伸ばした色白い少女が傷と汚れまみれの姿で正座していた。

「あ、あなたたちは誰ですか…?な、なぜここに…?」
「お前が和か?」
「は、はい、わ、私がの、和ですけど…。」
「ちゃんとここにいて良かった…。俺たちは君を助けにここに来たんだ。今すぐここから出よう。」

 少女は首を傾げて俺とホオズキを交互に見上げる。そして意外な答えが返ってくる。

「な、なんでですか…?い、一体外で何が…。そ、そして私はこ、ここから出られません…。」
「お前は今命を狙われてるんだ!だから、ここにいたら危ない!殺されてしまうんだ!」
「い、一体あなた様は何をおっしゃるのですか…。そ、それでも、私はここからは、離れられません…!」

 俺は彼女の態度に地団太を踏みながら話す。外からはさっき聞いた呼び笛の音が聞こえていた。

「だから、殺されるって言うのになんで逃げないんだ!もう時間がないんだぞ?」
「……来てません……。」
「ん?」
「ま、まだ佐次郎君がここに来てません…。さ、佐次郎君が言ってました。必ずここから出してくれるって…。ぜ、絶対私の手を離さないって…。」

 少女はその小さい手をギュッと握って胸に当てる。俺は彼女に佐次郎の話をしてあげた。

「俺たちは佐次郎の頼みでここにやって来たんだ。今佐次郎は重傷を負っている。だから、彼にお前が必要なんだ!」
「さ、佐次郎がじゅ重症……?!」
「そう。そいつ必死でお前を助けようとしたんだぞ…。だから早くここから出よう!」

 佐次郎の話を聞いた少女は暫くその清らかな桜色の瞳を揺らして譫言うわごとを言っていた。

「おい、大丈夫か?」
「は、はい…。こ、ここから出たら佐次郎君に会えるのですか?」
「ああ、外で俺の友達が佐次郎を見守っている。」
「じゃあ、行きます…!」
「よし!」

 ホオノキは鉄格子にかかっていた錠を外して和を外に出した。そして俺たちは地下室の出口へ向かった。しかし、何か変だ。さっきまで外から聞こえていた呼び笛の音が鳴り止んでいる。俺たちは危険を察知して急いで地下室の階段を上って地上に向かう。しかし、出口の扉は固く閉められていた。俺は扉を叩いてみる。

「おい!ビクッともしねえぞ!?」
「本当だ…。あいつら、端から俺たちを閉じ込めるつもりでいたのか!」
「ど、どうしよう…。お前の怪力でどうかならんのか?」
「この厚さの扉は無理がある。せめて木製なら壊せたのに残念ながらこの扉は鋼鉄だ…。」

 俺たちが地下室に閉じ込められている間に外には数十人の兵士が集まっていた。きっと呼び笛で集まったんだろう。扉の向こうから兵士たちの声が聞こえる。

「お前らは包囲された!お前らは今キギスの最高責任者であるホオズキ様の家宅を無断侵入している!また、ホオズキ様の財産である奴隷を拉致しようとしている!これは軍法会議に触れる大事件だ!故にお前らを今から拘束する!」

と、兵士の話が終わるや、扉の隙間から謎の煙がスウッと入ってきた。

「な、なんだこの煙は?!」

 ホオノキは煙を少量吸って俺と和に注意する。

「みんな、この煙を絶対吸うな!これは睡眠ガスだ!」
「ガス…?なんだそれは?」
「吸うと眠ってしまう煙なんだ!」
「まじか!!やべえ…!俺普通に吸ってたぞ…?」

という口の下から俺は体の力が抜け階段から転落してそのまま気を失った。

「海時!!気をしっかりしやがれ!!」

 かすかに聞こえていたホオノキの声も耳から遠のいていく。
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