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【1巻】後日談(全10話)※本編ネタバレあり
1-①
しおりを挟む「も、申し訳ございませんでしたあああ!」
ロイス城内、アルベルトの執務室。
今、僕の目の前には――頭を床にこすりつけんばかりに土下座をするメイドがいた。
「あの、どうか顔を上げてください!」
僕は狼狽えながら、慌てて声をかけた。一方隣にいるアルベルトは、執務室の椅子にゆったりと腰掛けて、冷静にメイドの様子を見つめている。そして彼は、机上にあった一冊の本を手に取って言った。
「俺も『この本』について話を聞きたいだけなんだ。だから顔を上げてくれ」
メイドは彼の言葉に、涙目になりながらゆっくりと顔を上げた。
――一体なんなんだ……?
僕は混乱しながら、これまでの経緯を頭の中で整理していた。
***
アルベルトが正式にロイス領主になってから一か月が過ぎた頃。ロイスでは平和で穏やかな日々が続いていた。
そんなある日、いつものように執務室で仕事をしていたアルベルトは、突如として僕に問いかけてきた。
「エミル。『これ』のこと、知っているか?」
書類整理をしていた僕は、いち早く彼のもとへ近づいていく。
アルベルトが言う『これ』とは、紙の束を簡易的にまとめた冊子だった。僕は何も心当たりがなく、首を横に振る。
「いえ、存じ上げません……。アルベルト様、これは一体?」
「ああ、これは――」
アルベルトが答えようとした時、部屋にコンコン、とノックをする音が響く。扉越しに「お部屋に入ってもよろしいでしょうか」と、か細く怯えたような女性の声が聞こえてきた。
「悪い、エミル。また後で説明する。とりあえず通してもらえるか?」
「わ、わかりました」
困惑する僕をよそに、アルベルトがそう告げた。僕は彼の言うとおりに扉を開け、来訪者を執務室に招き入れる。
――現れたのはロイス城のメイドの一人、「テラ」だった。
テラは僕と同年代のメイドで、いつも明るく活発な印象の女性だ。しかしそんな彼女は普段の様子と異なり、緊張したような面持ちで執務室に入ってくる。
テラは恐る恐るアルベルトに視線を向けた。そして彼が手に持っている本を見るやいなや――いきなり土下座をして、声を張り上げたのだ。
「も、申し訳ございませんでしたあああ!」
突然の出来事に、思わずぎょっとしてしまう。
僕は困惑しながら、「どうか顔を上げてください」と声をかけ、それに続くようにアルベルトも口を開いた。
「俺も『この本』について話を聞きたいだけなんだ。だから顔を上げてくれ」
アルベルトの言葉に、テラはゆっくりと顔を上げる。瞳を潤ませ、今にも泣きそうな表情になっていた。
「それで、これは君が書いたもので間違いないんだよな?」
「はい、アルベルト殿下。間違いございません……」
アルベルトの淡々とした問いかけに、テラは消え入りそうな声で答えた。アルベルトは「そうか」と呟いて、ペラペラとページを捲る。
どうやらこの本は、テラが書いたものらしい。
僕はアルベルトの横から覗き込むようにして、その本に視線を向けた。
そこには手書きで文字がぎっしりと書かれている。どうやらセリフもあるようだ。
「これって、小説……?」
「ああ。エミルも見てみるか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
僕は彼女が書いたという小説が気になってしまい、アルベルトに声をかけた。彼はすぐさま僕に本を手渡そうとする。
「エ、エミル様。そ、それは……!」
テラが制すような声を出したが、既に僕はその本を受け取ってしまっていた。
僕は軽い気持ちで、表紙を捲る。
そこに書かれていたのは――……
「……え? 『エミル』……あ、『アルベルト』? これって……!?」
――そこには僕とアルベルトの名前が、がっつり書かれていたのだ。
僕は衝撃を受けながら、そのまま吸い込まれるように冒頭を読み進めた。
物語は、王都を舞台にして始まる。
主人公はルナンシア王国の第二王子「アルベルト」……の従者である「エミル」。エミルは主人であるアルベルトに対する恋心を内に秘め、そしてアルベルトもまた、エミルに対して並々ならぬ思いを抱いていた。
けれども二人は、主人と従者であり男同士。けっして簡単に気持ちを告げることはできない。
二人は出会ってから八年、互いが叶わない想いに身を焦がして過ごしていた。
そんなある日、十八歳で成人年齢となったアルベルトが、婚約者を決めなければならないタイミングが訪れる。二人の叶わぬ恋は、一体どうなってしまうのか……。
というのが、この物語の冒頭部分であった。
まさか、この本は――……
「アルベルト様。この本って」
「ああ。俺たちを題材にした恋愛物語らしいな」
……やっぱりそうだよね!?
僕は恥ずかしさのあまり、顔に熱が集まってくるのがわかった。
しかもこれって、前世でいうなら……「BLの二次創作」ってやつなのでは!?
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