3 / 32
3. あらあら、残念なお方ですこと
しおりを挟む私は服毒自殺を図ったタチアナ嬢のことを知るために更に日記を読み始めましたの。
他人の日記を読むなんて、とてもはしたない事ですけれど今のこの状況を少しでも理解しておかないと私自身もパニックに陥りそうなのですわ。
「……アルバン様とは、とんでもなくお気立てに難がおありの方でしたのね。」
タチアナ嬢の日記を読んで分かりましたことは多くありましてよ。
まず、殺されたイライザの時は公爵令嬢でしたけれど、今の私はドゥイエ伯爵令嬢という立場でカルザティー侯爵令息のアルバン様と婚約中だということ。
アルバン様は大変お気立てに難がおありの方で、タチアナ嬢はその振る舞いに長年悩んで、このお部屋で密かに服毒自殺を図ったこと。
周りの人間は誰一人としてタチアナ嬢の悩みには気付いておらず、タチアナ嬢はずっと孤独だったということ。
「伯爵令嬢では侯爵令息との婚約を自ら破棄することなど、おできにはならなかったでしょう。」
それでも誰にも知られず密かに自殺を図るなど、とてもお寂しいことですわ。
他に引き出しから出てきたのは、自殺に用いられたのでしょう毒薬の入っていた小瓶でしたの。
「とりあえず、こちらは人の目に付かないようにまた隠しておいた方が良いですわね。」
私が件の引き出しを閉めたところで、外から何やら騒がしいお声がしてきましたのよ。
「お待ちください!お嬢様は体調が優れず休んでおいでです!どうかお待ちください!」
「黙れ!侯爵令息の俺に指図するつもりか?侍女風情のくせに生意気な!」
――バーーーーンッッッ!
あらあら、私の新しいお部屋の扉が壊れてしまいますわ。
どなたか存じ上げませんが、乱暴なことはおやめになっていただきたいのですけれど。
「タチアナ!!ふざけてるのか!?お前は俺に会いたくないなどとふざけたことを言って何をしている!俺はわざわざ侯爵領から来てやってるんだぞ!それなのに部屋着のままで、婚約者のために着飾ることもしないで……ふざけるな!」
ふうん……。この方がアルバン様とやらね。同じようなことばかりお話になって、きっと頭がお軽いのね。
「あら、アルバン様。ご機嫌よう。本日私は体調が優れませんで、お会いできませんと遣いをやったのですがきちんと伝わっておりませんでしたのね。それはどうも申し訳ありませんでしたわ。このようなお姿をお見せするなど、見苦しい限りと存じますのでどうか本日はお帰りいただけるようお願いいたします。」
「…………………………。」
こちらを青色の皿のように大きな目で見つめながら、お口をポカンとお開きになったアルバン様は、しばらく私の方を見ておりましたが我に帰ったようで、クルクルと癖毛の金髪をフルフルと震わせながら色の悪くなってしまった唇でこうおっしゃいましたの。
「タチアナ……。お前、一体どうしたんだ。いや……、本当に体調が悪いようだな。今日のところは……これで失礼する。」
「はい。大変申し訳ございませんがそのようにお願いいたしますわ。」
アルバン様が部屋から出ようとした際に、こちらを振り向いたので、私がイライザの時に妃教育の教師たちから特にお褒め頂いていた完璧なカーテシーを披露しますと、それをご覧になったアルバン様は一瞬息をするのを忘れているご様子でしたわ。
アルバン様と共に部屋までやってきたソバカス侍女は最初から最後まで呆気に取られたまま微動だにしておりませんでしたが、そのうち我に帰るとアルバン様を玄関までお見送りに行ったようです。
「やはり、あの方かなり残念なお方でしたわね。」
2
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜
シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……?
嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して──
さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。
勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる