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7. 異世界から来た二人
しおりを挟む「早速だが、ユリナ。ダムとやらがどんな物が教えてくれ。」
邸に帰ってすぐにアレクがダムについて訊ねてきたので、自分に分かる程度の知識で伝えた。
この世界にはコンクリートがまだないみたいなので、土を盛り上げて石で固めて作るしかなさそうだけど。
「なるほど。それなら一度作れば長く持つだろうからしばらくは魔法に頼らなくても大丈夫そうだな。」
それから魔法で小さな模型を使ってどんな形のダムにすれば良いのか何度も確認した。
私は高校生で一般的な知識しかないから、ダムの詳しい構造まではよく分かっていなくて。
それでもアレクとジャンは充分だと褒めてくれた。
「よし、明日から早速シュカ領まで行ってダムを作りに行くか。」
「ではアレクサンドル様、僕は明日の移動の手配をして来ます。」
「頼んだ。」
アレクは魔法使いだけど、映画やマンガの世界みたいに日常的に何でも魔法を使うことはしない。
「ねえ、アレク。アレクは何であまり魔法を使いたがらないの?」
魔法を使えば何でも簡単に解決できそうだけど。
「理由は一つではないが……。まずこの世界は元々魔法がなかった世界だから、そこに異物である魔法をあまり使い過ぎるのも良くないと思ってな。あとは魔力の供給の問題で、元々この世界に魔法がなかったせいもあって魔法を使った時に消費する魔力を回復する術である魔素がなく、自身の休息に任せるしかないということか。」
「アレクも異世界から来たの?」
一瞬僅かに呼吸を止めたアレクは、そのうちため息を一つついて話し始めた。
「そうだ。俺はこことは違う別の世界からこの世界に飛ばされて来た。」
アレクが元いた世界では魔法は身近なもので、生活する上で必要不可欠なものだったという。
そんな世界で大きな戦争が起こり、巻き込まれた少年のアレクは瀕死の両親が咄嗟にかけた転移魔法でこの世界へと飛ばされたそうだ。
「両親も俺を異世界まで飛ばすつもりはなかったんだろうが、あの時は現場で色々な魔法が入り乱れていたから何かが干渉しあって魔法に歪みを生んだんだろう。」
遠い目をして語るアレクは、悲しそうな顔をするわけでもなく淡々と話す。
「それでこの世界で唯一の魔法使いなんだね。帰ろうとは思わなかった?」
何故か私の方が胸が痛くなって声が震えた。
「まだここに来た時は十二歳の子どもだったから転移魔法なんていうものを使える訳もなく、それからここでの生活に慣れてしまえば元の世界へ帰りたい気持ちも薄れてきたんだ。」
今更帰ったとしても両親は戦争で亡くなったし、元の世界はここと比べて争い事も多く殺伐としているから嫌気がさすと語った。
「魔素がなく魔法が自由に使えない点では少々不便もあるが、慣れれば魔法のないこの世界は平和で微笑ましいものだ。」
そう言って口元に弧を描くアレクは、この世界で今まで一体どんなに苦労してきたんだろう。
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