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8. 世界初のダム作り
しおりを挟む――馬車で移動して数時間。目的のシュカ領へと到着した。
「馬車って初めて乗ったけど意外に乗り心地がいいんだね。車と変わらないくらい。」
「そうか。それなら良かった。車とやらはどんな物なんだ?」
そこで車について簡単に説明したら、アレクもジャンも私の元いた世界の発展に心底驚いていた。
「ここら辺りが先日洪水で被害に遭ったようですね。」
馬車から先に降りたジャンがそう言うと、続けて降りた私とアレクも周りを見渡してみる。
もうすでに水はひいているが汚泥や土砂がそこら中に見受けられて、田畑にも未だ水が溜まりどこからか流れてきたゴミのようなものがそこかしこに落ちている。
「これはひどい状況だね。」
「せっかく豊かな土壌であっても、これでは作物の出荷量は減るだろうな。」
とりあえず私たちはシュカ領の洪水について対策を考えているという役人がいる拠点へと向かった。
「これはこれは、偉大なる魔法使い様にご挨拶申し上げます。」
慇懃に頭を下げた壮年の男性は、この地をどうにかして水害から守るため国から派遣された役人だという。
「今回、水害を防ぐためにダムというものを建築しようと思ってここへ来た。その為建築に明るい者と人足を集めて欲しい。」
「だむ?それはどのようなものですか?」
魔法で模型を作りあげたアレクは役人にダムについて説明を行い、私たちは現場を管理できる者や建築に詳しい者数名を伴って川の上流へと向かった。
「ここがさっきの川の上流なんだね。ここら辺に貯水池を作れば洪水による水害を減らせると思う。」
この世界で第一号のダムはアレクが魔法で作り出し、その作りをしっかりと他の人に見てもらってから他に洪水に困っている地域には人の手でダムを作ってもらうことにした。
そうでなければアレクの負担が大き過ぎるから。
「上流側には石を張りしっかりと固めてください。下流側も雨が降っても丈夫なつくりにするために植物を植えて浸食を防ぎます。」
大きな建築物をこのような場所に作ること自体半信半疑の人々が見守る中、アレクが魔法で地形を変え、土と石でダムを作り、貯水池ができた。
「おお。これでこの場所の洪水が防げるのですね。」
期待と不安の入り混じった表情の各々は、それでもアレクに深い感謝を述べた。
「教えていただいた方法で、各地の洪水被害のある地域で早速ダムを建設したいと思います。人の手では時間はかかりますが、それでも洪水被害を防げるならば多くの人手が集まるでしょう。」
またダムのことで分からないことや困ったことがあれば相談するよう伝えて、シュカ領でのダム作りを終えた。
その後続けて何度も大雨に見舞われたシュカ領は、きちんとダムが機能を果たして洪水を防ぐことができ、水害の被害がなくなったと報告があった。
その結果を踏まえて、これから各地に新たなダムを作るとのこと。
「人の役に立てるって本当に気持ち良いよね。」
「ユリナは元の世界でも他人の子の為に命を落とすくらいお人好しだからな。」
呆れたような表情をしながらも微笑みを浮かべたアレクはどこか自分も嬉しそうに見えた。
「だって喜んで貰えたらやりがいがあるでしょ。」
あ!私がこの世界で少しでもアレクの役に立てること見つけたかも知れない。
「ねえ、魔法のないこの世界にアレクが魔法だけで解決できない問題があっても、私の元いた世界の知識とアレクの魔法を組み合わせれば、もっと人助けができるかもね!」
「まあ、そうかもな。」
元いた世界では魔法が当たり前だったから、この魔法のない世界では不便さもありながらもここでの生活を受け入れてきたアレク。
魔法が当然の世界では、逆に道具や設備の発明に関しては発達していなかったという。
困ったことが有れば魔法ですぐに対処するのが当たり前で、わざわざ手をかけて道具や設備を考えることはしなかったそうだ。
「これからもアレクと一緒にこの世界の困りごとを解決していこう!おー!」
転生先の世界で私でもやれることが見つかってとても嬉しくて、勢いよく片手を上に上げた。
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