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「白い悪魔の旅路」
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「白い悪魔」と恐れられた少女の旅は、ある雨の日に始まった――。
異形の容姿を持ち、貧民街で孤独に生きていたルクス。
だが、運命の出会いとその才能が、彼女を世界の中心へと押し上げた。
「才能、それはこの世界のすべてを決める鍵だ」
幼少期から常に冷たい視線を浴びていたルクスは、自分の存在価値を知らないまま、ただ生きるためだけに戦っていた。
それが、あの出会いで変わるとも知らず――。
◇◇◇
私は生まれた時から、この白い髪と赤い目を持っていた。
物心ついた頃には、自分が他人とは違う存在だということを理解していた。
普通の人間から遠ざけられる、それが私の『当たり前』だった。
貧民街の片隅で、今日を生き延びるための食料を探す。
食べ残しのパンくず、腐りかけの野菜──。そんなものでも見つけられればいい方だ。
人々の冷たい目線に耐えながら、私は生きていた。
「魔族の血でも混じってるんじゃないか」
「白い悪魔だ。あの子には近づくな」
そんな言葉を聞いても、いちいち気にしている余裕などない。
この世界は生き残る者が勝者だ。私は、どんなに蔑まれようと生き延びてやる。
その日、雨がしとしとと降る中、私はいつものようにゴミ捨て場を漁っていた。
だが、不意に背後から声がかけられる。
「よう、お嬢ちゃん。そんなところで何してんだ?良かったら俺とデートしないかい?」
振り返ると、黒いローブを羽織った男が立っていた。
その顔はフードに隠れてよく見えない。だが、その軽薄な笑みだけははっきりと見て取れた。
「……関わらないでください」
私は冷たく言い放ち、再びゴミ捨て場に目を戻した。
だが男は怯むどころか、さらに近づいてきた。
「冷たいなぁ。こんな雨の中、ひとりで頑張ってるってのにさ」
「放っておいてください」
「まぁまぁ、そう言うなって」
男は膝をついて私と視線を合わせると、手を差し出した。
まるで貴族がダンスの誘いをするかのような仕草だった。
「俺の名前はレイモンド・セレスティアだ。お前の名前は?」
「……名前なんてありません」
彼の手を払いのけ、私は立ち去ろうとする。
だが彼は、少しも諦める様子を見せなかった。
「じゃあ俺がつけてやるよ。名前がないと不便だろ?」
「……いらないです」
「そう言うなって。えーと……そうだな……」
彼はしばらく考え込んだ後、にやりと笑った。
「ルクス・セルロスフォカロ。どうだ?」
「……長すぎます」
「いいじゃねぇか! カッコいいだろ?」
「……」
私は無視して歩き出す。
だが、雨の中、彼はしつこくついてきた。
「おいおい、そんなところで食い扶持探すより、俺についてきた方がマシだぜ?」
「どうしてそんなことを言うんですか?」
「そりゃあ、気になるだろ。こんな美少女が雨の中で苦労してたらさ」
くだらない冗談だと思った。
だが、どこか懐かしいものを感じたのも事実だった。
「……なんでも好きに呼んでください。ただ、私はあなたについて行く気はありません」
「つれないなぁ」
彼は笑った。だが、その笑顔の奥にどこか真剣さがあった。
「お前がどうしてもダメなら仕方ない。けど、俺は諦めないからな」
そう言って、彼はしばらく私を見守るように距離を取った。
◇◇◇
私は気づけばレイモンドと行動を共にしていた。
雨の冷たさに疲れ果て、彼の誘いに乗ってしまったのだ。
「ルクス、お前、この名前気に入ったか?」
「……別に」
「そっか。でも、俺がつけたんだから大事にしろよ」
彼の口調は軽いが、その目はどこか優しさに満ちていた。
不思議な男だと思った。普通の人間なら、私のような子供に関わることを恐れるはずだ。
旅は歩き続ける日々だった。
道中、レイモンドは私に簡単な魔法の説明を始めた。
「お前、魔法に興味はあるか?」
「……分かりません。やったことがないので」
「なら試してみろよ。まずはこれだ。『ファイアボルト』」
彼は軽く指を振り、小さな炎を空中に浮かべた。
その動きは驚くほど自然で、まるで炎そのものが彼に従っているようだった。
「……すごい」
「だろ? けどな、これが使えるかどうかはお前次第だ」
彼は私に同じ動きをするように促す。
だが、何度やっても何も起こらなかった。
「……無理です」
「まぁ最初はそんなもんだよ。才能があるかないかは、これから分かるさ」
その言葉は軽かったが、私にとっては重く響いた。
才能がなければ、この先どう生きていけばいいのだろうか?
旅が進む中、私たちは一つの町にたどり着いた。
その町は荒れ果て、人々の怯えた様子が目に見えて分かった。
「なんだ、この雰囲気は……」
「……何かが起こったみたいですね」
町の中心に進むと、その正体が目の前に現れる。
巨大な魔獣――マンティコア。
ライオンのような体躯にサソリの尾、鋭い牙と爪を持つA級魔獣。
その姿を見た瞬間、私の全身が震えた。
「逃げろ!」
町の人々が声を上げて四散する中、レイモンドだけが冷静に立ち向かっていく。
「ルクス、ここから先は俺の仕事だ。しっかり見てろよ」
「……気をつけてください」
彼は意識を全身に集中し、魔力を練り上げる。
◇◇◇
「天から授かりしこの『祝福』――」
レイモンドが詠唱を始めると、周囲の空気が一変した。
魔力が渦巻き、雷鳴のような音が響く。
「嵐よ。草原を焼き尽くさんとする炎の力よ――」
マンティコアもそれを察知したのか、低く唸りながら身構える。
「今こそ全てを焼き払い、荒れ狂え――」
『爆炎の嵐《ファイアーストーム》!』
彼が放った魔法は、まるで竜巻のように燃え上がり、マンティコアを包み込む。
凄まじい熱と音が辺りを支配し、私は思わず目を覆った。
数秒後、炎の中からマンティコアの咆哮が消え、静寂が訪れる。
そこには、黒く焼き尽くされた地面だけが残っていた。
「す、すごい……」
私は呆然と呟いた。
「まぁな。でも、これを使えるやつは限られてる。俺みたいな天才くらいだ」
レイモンドは笑いながら自分を誇った。
だが、その後、私に対してこう続けた。
「……ルクス、お前も試してみるか?」
「……え?」
彼は冗談半分に言ったのかもしれない。
だが、私はその言葉に従い、先ほどの詠唱を真似てみることにした。
「天から授かりしこの『祝福』――」
レイモンドの顔が一瞬固まる。
「おいおい、本気でやるつもりか?」
「嵐よ。草原を焼き尽くさんとする炎の力よ――」
「ちょ、待て! それはまだ――」
『爆炎の嵐《ファイアーストーム》!』
次の瞬間、私の手から放たれた炎が町を包み込んだ。
家々が燃え、人々の悲鳴が響く。
「な、なんで……?」
私は恐怖で膝をついた。自分が何をしたのか、理解できなかった。
「おい、ルクス! ここを出るぞ!」
レイモンドが私を引っ張り、町を離れる。
町の外れで立ち止まり、彼は私を見下ろした。
「お前……なんでそれが使えたんだ……?」
「……分かりません。ただ、詠唱を真似ただけで……」
彼は何かを考えるように黙り込む。
町の人々が燃え盛る町を見つめながら、こう呟くのが聞こえた。
「あの白髪の……悪魔だ……」
「魔族か……いや、もっと恐ろしい存在……」
「『白い悪魔』だ……」
その言葉が耳に刺さり、私は震えた。
◇◇◇
その夜、私は焚き火の前で座り込んでいた。
炎の揺らめきを見つめながら、これまでの自分の行動が脳裏に浮かぶ。
「……私は一体、何をしたのだろう」
罪悪感が胸を締め付ける。自分が町を炎に包んだことは紛れもない事実だった。
いくら謝罪しても、許されるはずがない。
「ルクス」
レイモンドが静かに声をかけた。彼の表情はいつもの軽薄さを失い、真剣そのものだった。
「お前には、途方もない才能がある」
「……才能?」
「ああ。だがな、その才能は制御できなければただの凶器だ」
彼の言葉が心に重くのしかかる。
「俺が短剣で戦う時も同じだ。いくら技を磨いたところで、天性の才能を持つ剣士には敵わない。なんせ俺の才能は”魔法”だからな。だがお前にも俺と同じく……いや、それ以上の魔法の才能がある。それも、並外れたレベルでな……お前の場合、俺の魔法を真似ただけで使えたんだ!魔法というより……もほうか?ハッハッハ!」
「……私は、そんなものいりません」
「スルーしてんじゃねぇ。笑えよ。……まぁいらないで済むなら、それが一番だろうよ」
レイモンドは火の中に小石を投げ入れ、低く息を吐いた。
「けどな、才能ってやつは逃げられないもんだ。お前が生きていく以上、これと向き合わなきゃならない」
彼の言葉に、私は小さく頷いた。
◇◇◇
翌朝、目を覚ますとレイモンドの姿が消えていた。
彼が寝ていたはずの場所には、一通の手紙だけが残されている。
『ルクスへ』
『俺は、お前のそばにはいられない。勇者の仲間として戦うことになった』
『お前も自分の道を進め。才能を無駄にするな』
それだけが書かれていた。
「……勝手な人だ」
私は手紙を握りしめながら呟いた。だが、涙は出なかった。
彼がいなくなってしまったことは寂しい。
それでも、私はここで立ち止まるわけにはいかない。
――その後、私は放浪の旅を続けた。
森の中で魔法の制御を練習し、時には魔獣と戦いながら自分の力を試した。
人々から『白い悪魔』と呼ばれる異名はどこへ行っても耳にしたが、それでも生き延びるために前に進むしかなかった。
ある日、ミスタリス王国という冒険者国家に辿り着いた。
世界でも有数の冒険者が集まる国であり、力を試すには格好の場所だった。
ギルドに登録し、数々の依頼をこなすうちに、私はその実力を認められ、S級冒険者となった。
しかし、S級冒険者の道は栄光だけではない。
その称号と共に、私はある人物と旅をすることになる。
その旅の中で、私は自分の中に眠る真実と向き合うことになった。
「自分が何者なのか」――その答えを見つけるために。
この物語は、白い悪魔と呼ばれた少女が、自らの力と運命を受け入れ、真実に辿り着くための長い旅の始まりにすぎない。
異形の容姿を持ち、貧民街で孤独に生きていたルクス。
だが、運命の出会いとその才能が、彼女を世界の中心へと押し上げた。
「才能、それはこの世界のすべてを決める鍵だ」
幼少期から常に冷たい視線を浴びていたルクスは、自分の存在価値を知らないまま、ただ生きるためだけに戦っていた。
それが、あの出会いで変わるとも知らず――。
◇◇◇
私は生まれた時から、この白い髪と赤い目を持っていた。
物心ついた頃には、自分が他人とは違う存在だということを理解していた。
普通の人間から遠ざけられる、それが私の『当たり前』だった。
貧民街の片隅で、今日を生き延びるための食料を探す。
食べ残しのパンくず、腐りかけの野菜──。そんなものでも見つけられればいい方だ。
人々の冷たい目線に耐えながら、私は生きていた。
「魔族の血でも混じってるんじゃないか」
「白い悪魔だ。あの子には近づくな」
そんな言葉を聞いても、いちいち気にしている余裕などない。
この世界は生き残る者が勝者だ。私は、どんなに蔑まれようと生き延びてやる。
その日、雨がしとしとと降る中、私はいつものようにゴミ捨て場を漁っていた。
だが、不意に背後から声がかけられる。
「よう、お嬢ちゃん。そんなところで何してんだ?良かったら俺とデートしないかい?」
振り返ると、黒いローブを羽織った男が立っていた。
その顔はフードに隠れてよく見えない。だが、その軽薄な笑みだけははっきりと見て取れた。
「……関わらないでください」
私は冷たく言い放ち、再びゴミ捨て場に目を戻した。
だが男は怯むどころか、さらに近づいてきた。
「冷たいなぁ。こんな雨の中、ひとりで頑張ってるってのにさ」
「放っておいてください」
「まぁまぁ、そう言うなって」
男は膝をついて私と視線を合わせると、手を差し出した。
まるで貴族がダンスの誘いをするかのような仕草だった。
「俺の名前はレイモンド・セレスティアだ。お前の名前は?」
「……名前なんてありません」
彼の手を払いのけ、私は立ち去ろうとする。
だが彼は、少しも諦める様子を見せなかった。
「じゃあ俺がつけてやるよ。名前がないと不便だろ?」
「……いらないです」
「そう言うなって。えーと……そうだな……」
彼はしばらく考え込んだ後、にやりと笑った。
「ルクス・セルロスフォカロ。どうだ?」
「……長すぎます」
「いいじゃねぇか! カッコいいだろ?」
「……」
私は無視して歩き出す。
だが、雨の中、彼はしつこくついてきた。
「おいおい、そんなところで食い扶持探すより、俺についてきた方がマシだぜ?」
「どうしてそんなことを言うんですか?」
「そりゃあ、気になるだろ。こんな美少女が雨の中で苦労してたらさ」
くだらない冗談だと思った。
だが、どこか懐かしいものを感じたのも事実だった。
「……なんでも好きに呼んでください。ただ、私はあなたについて行く気はありません」
「つれないなぁ」
彼は笑った。だが、その笑顔の奥にどこか真剣さがあった。
「お前がどうしてもダメなら仕方ない。けど、俺は諦めないからな」
そう言って、彼はしばらく私を見守るように距離を取った。
◇◇◇
私は気づけばレイモンドと行動を共にしていた。
雨の冷たさに疲れ果て、彼の誘いに乗ってしまったのだ。
「ルクス、お前、この名前気に入ったか?」
「……別に」
「そっか。でも、俺がつけたんだから大事にしろよ」
彼の口調は軽いが、その目はどこか優しさに満ちていた。
不思議な男だと思った。普通の人間なら、私のような子供に関わることを恐れるはずだ。
旅は歩き続ける日々だった。
道中、レイモンドは私に簡単な魔法の説明を始めた。
「お前、魔法に興味はあるか?」
「……分かりません。やったことがないので」
「なら試してみろよ。まずはこれだ。『ファイアボルト』」
彼は軽く指を振り、小さな炎を空中に浮かべた。
その動きは驚くほど自然で、まるで炎そのものが彼に従っているようだった。
「……すごい」
「だろ? けどな、これが使えるかどうかはお前次第だ」
彼は私に同じ動きをするように促す。
だが、何度やっても何も起こらなかった。
「……無理です」
「まぁ最初はそんなもんだよ。才能があるかないかは、これから分かるさ」
その言葉は軽かったが、私にとっては重く響いた。
才能がなければ、この先どう生きていけばいいのだろうか?
旅が進む中、私たちは一つの町にたどり着いた。
その町は荒れ果て、人々の怯えた様子が目に見えて分かった。
「なんだ、この雰囲気は……」
「……何かが起こったみたいですね」
町の中心に進むと、その正体が目の前に現れる。
巨大な魔獣――マンティコア。
ライオンのような体躯にサソリの尾、鋭い牙と爪を持つA級魔獣。
その姿を見た瞬間、私の全身が震えた。
「逃げろ!」
町の人々が声を上げて四散する中、レイモンドだけが冷静に立ち向かっていく。
「ルクス、ここから先は俺の仕事だ。しっかり見てろよ」
「……気をつけてください」
彼は意識を全身に集中し、魔力を練り上げる。
◇◇◇
「天から授かりしこの『祝福』――」
レイモンドが詠唱を始めると、周囲の空気が一変した。
魔力が渦巻き、雷鳴のような音が響く。
「嵐よ。草原を焼き尽くさんとする炎の力よ――」
マンティコアもそれを察知したのか、低く唸りながら身構える。
「今こそ全てを焼き払い、荒れ狂え――」
『爆炎の嵐《ファイアーストーム》!』
彼が放った魔法は、まるで竜巻のように燃え上がり、マンティコアを包み込む。
凄まじい熱と音が辺りを支配し、私は思わず目を覆った。
数秒後、炎の中からマンティコアの咆哮が消え、静寂が訪れる。
そこには、黒く焼き尽くされた地面だけが残っていた。
「す、すごい……」
私は呆然と呟いた。
「まぁな。でも、これを使えるやつは限られてる。俺みたいな天才くらいだ」
レイモンドは笑いながら自分を誇った。
だが、その後、私に対してこう続けた。
「……ルクス、お前も試してみるか?」
「……え?」
彼は冗談半分に言ったのかもしれない。
だが、私はその言葉に従い、先ほどの詠唱を真似てみることにした。
「天から授かりしこの『祝福』――」
レイモンドの顔が一瞬固まる。
「おいおい、本気でやるつもりか?」
「嵐よ。草原を焼き尽くさんとする炎の力よ――」
「ちょ、待て! それはまだ――」
『爆炎の嵐《ファイアーストーム》!』
次の瞬間、私の手から放たれた炎が町を包み込んだ。
家々が燃え、人々の悲鳴が響く。
「な、なんで……?」
私は恐怖で膝をついた。自分が何をしたのか、理解できなかった。
「おい、ルクス! ここを出るぞ!」
レイモンドが私を引っ張り、町を離れる。
町の外れで立ち止まり、彼は私を見下ろした。
「お前……なんでそれが使えたんだ……?」
「……分かりません。ただ、詠唱を真似ただけで……」
彼は何かを考えるように黙り込む。
町の人々が燃え盛る町を見つめながら、こう呟くのが聞こえた。
「あの白髪の……悪魔だ……」
「魔族か……いや、もっと恐ろしい存在……」
「『白い悪魔』だ……」
その言葉が耳に刺さり、私は震えた。
◇◇◇
その夜、私は焚き火の前で座り込んでいた。
炎の揺らめきを見つめながら、これまでの自分の行動が脳裏に浮かぶ。
「……私は一体、何をしたのだろう」
罪悪感が胸を締め付ける。自分が町を炎に包んだことは紛れもない事実だった。
いくら謝罪しても、許されるはずがない。
「ルクス」
レイモンドが静かに声をかけた。彼の表情はいつもの軽薄さを失い、真剣そのものだった。
「お前には、途方もない才能がある」
「……才能?」
「ああ。だがな、その才能は制御できなければただの凶器だ」
彼の言葉が心に重くのしかかる。
「俺が短剣で戦う時も同じだ。いくら技を磨いたところで、天性の才能を持つ剣士には敵わない。なんせ俺の才能は”魔法”だからな。だがお前にも俺と同じく……いや、それ以上の魔法の才能がある。それも、並外れたレベルでな……お前の場合、俺の魔法を真似ただけで使えたんだ!魔法というより……もほうか?ハッハッハ!」
「……私は、そんなものいりません」
「スルーしてんじゃねぇ。笑えよ。……まぁいらないで済むなら、それが一番だろうよ」
レイモンドは火の中に小石を投げ入れ、低く息を吐いた。
「けどな、才能ってやつは逃げられないもんだ。お前が生きていく以上、これと向き合わなきゃならない」
彼の言葉に、私は小さく頷いた。
◇◇◇
翌朝、目を覚ますとレイモンドの姿が消えていた。
彼が寝ていたはずの場所には、一通の手紙だけが残されている。
『ルクスへ』
『俺は、お前のそばにはいられない。勇者の仲間として戦うことになった』
『お前も自分の道を進め。才能を無駄にするな』
それだけが書かれていた。
「……勝手な人だ」
私は手紙を握りしめながら呟いた。だが、涙は出なかった。
彼がいなくなってしまったことは寂しい。
それでも、私はここで立ち止まるわけにはいかない。
――その後、私は放浪の旅を続けた。
森の中で魔法の制御を練習し、時には魔獣と戦いながら自分の力を試した。
人々から『白い悪魔』と呼ばれる異名はどこへ行っても耳にしたが、それでも生き延びるために前に進むしかなかった。
ある日、ミスタリス王国という冒険者国家に辿り着いた。
世界でも有数の冒険者が集まる国であり、力を試すには格好の場所だった。
ギルドに登録し、数々の依頼をこなすうちに、私はその実力を認められ、S級冒険者となった。
しかし、S級冒険者の道は栄光だけではない。
その称号と共に、私はある人物と旅をすることになる。
その旅の中で、私は自分の中に眠る真実と向き合うことになった。
「自分が何者なのか」――その答えを見つけるために。
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